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浅葱色を求めて…  作者: 結月澪
下関戦争
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誘拐と帰還

パチパチと音を立てて西本願寺を燃やしていく。しかし、その炎は、ボヤ程度のモノであった。


まるで、焚き火を見る様な山南の姿に、藤堂は、困惑しながらも、彼に声をかけた。


「よかったのかよ?山南さん。寺に火をつけっちまって……。」


「彼女が中に居るんです。致し方ないでしょう。平助、火消しを呼んでください。」


「おうよ!」


まかせとけ!と、言わん限りに走っていった藤堂を見て苦笑いする山南。


彼の目的は、西本願寺を燃やす事ではない。


「私には、やるべき事があるんですよ。」


そう言って、

燃える西本願寺に入ってく山南。目指す先は、千夜がいる部屋であった。




放たれた炎に、伊東は、部屋から逃げ出した。


「伊東さん! 寺に火が!」


慌てふためく鈴木ら伊東派の連中は、

あろう事か、千夜を置き去りに逃げ出していった。


この時、千夜は、違和感を覚えた。

————火を放ったのはこの部屋だけの筈。

なのに、開け放たれたままの襖から見える場所も、赤く燃え上がっている。


何が起こっているかわからない千夜は、その場に倒れこむ。


身体が痛い。声も出ない。

私は、ここで死ぬのか?歴史を変えられずに……


彼女の周りに襲い来る炎。煙だらけのその部屋に居るはずのない人物が現れた。


千夜を抱き上げ、優しい声色で彼女に話しかけた。

「……今から言うことを良く聞いて?」


唇の動きだけを見ながら、彼の話しに耳を傾けた。話が終わり、碧い瞳が見開かれる。


「大丈夫。もう、心配ない。」


その言葉に、煙を吸いすぎたのか睡眠薬なのかわからないが、千夜の意識は、遠のいていた。





目が覚めた時、目の前には、へいちゃんの姿があったーーーー。


「ちぃっ!山南さんは! ?」

「………っ。」


声を出そうとする千夜だったが、喉に手をやり、顔を顰めた。声が出ないのだ。薬と煙の所為で……。


燃え上がる一部を指差し、彼は、そこに居ると藤堂に伝えた。


そんな場所に、彼は居ない。それを知りながらも、そうするしかなかった。


『私を死んだことにして下さい。逃げるわけではない。新選組の為に、各藩に訴えかけてみます。開国と、日本を一つにする為に…』


そう言った彼の想いを、足蹴にする事などできるはずがない。


「……そんなっ!山南さんっっっ! !」


例え、仲間が、悲痛な叫びをあげようとも、本当の事など言えなかった。


……ごめんなさい。嘘をついて。


泣き叫ぶ藤堂を見ながら、千夜もまた、涙を、流した。それは、悲しみの涙では無かったーーーー。



火がおさまった時、千夜がいた部屋から遺体が見つかった。それは、山南のものではない。しかし、後日、その遺体は、何故か、山南の遺体として処理をされたのだった。


藤堂に抱き抱えられるかたちで、馬で屯所に帰った千夜。


「ちぃちゃん!」


帰ってすぐ駆け寄って来たのは、沖田であった。


「………」

自分を真っ直ぐに見つめる彼女は、不安げに瞳を揺らす。

「総司、ちぃは、西本願寺の火事の所為で、声が一時的に出ない、みたいなんだ。」


「……大丈夫なんだよね?」

「千夜。」

「ちぃ。」


「あぁ、ちぃ。は、な。

ただ、山南さんが————死んだ。」


何言ってるの?

「平助、なに?冗談だよね?山南さんが、死ぬわけ……」


「死んだんだよ!西本願寺でっ!!ちぃを逃そうとして!!」


私の所為でいい。そう思って、病院に連れて行かれた時に、平ちゃんにはそう伝えた。


山南さんは、私を助け様として、倒れてきた仏具によって、身動きが取れなくなってしまったと……。


生きてるなんて、言えるわけない。本人が、死んだことにして欲しいと言ったのだから…。


これで、平ちゃんが伊東と行動を共にしようとも、私には、まだ、切り札がある。平ちゃんを殺させない為の切り札が————。


恨むなら、私を恨んで。仲間が辛い表情を見せても、目的の為なら、平気で嘘を吐く。全ては、みんなの為だと、そう信じるしかない。


「何かあったんですか?平助、久しいですね。」


何食わぬ顔で、その場に現れた伊東の声に

「…伊東さん。」


藤堂は、声を上げ、

千夜は、キュッと沖田の着物を握った。


ススだらけの千夜とは対照的に、着替えたのか

綺麗な着物の伊東の姿。


「すいません、伊東さん。

ちぃを休ませますので、失礼します。」


そう言って、副長室に幹部達がなだれ込んだ。

千夜の思いがわかる文を土方が皆の前に置く

「ちぃ。山南さんは、死んでないな?」


スラスラと、千夜の考えてる事が書かれていく。

中村が、千夜が長州に捕まる前に、土方に託した一冊の何も書かれていない書物。それは、千夜の想いを綴れる書物。これを使われて仕舞えば、千夜の嘘は、いとも簡単に暴かれてしまう。


読み進めてく皆は、ツラツラと書かれていく内容に驚きを隠せない。無論、藤堂にもそれは伝えられる……


「伊東の野郎……」

「声が出ないのは、煙だけか?」


と、尋ねられれば、無条件に千夜の想いは、綴られていってしまう。

伊東に媚薬を飲まされたことも、犯されそうになり、伊東が新選組の誰かを殺そうとしてる事

彼の狙いは、千夜である事まで、皆に知られてしまった。


伊東は、離脱を考えてるが秘策があると。

まだ今は、伊東を泳がせて欲しいという千夜の考えが、スラスラ書き進められる。


「でも、西本願寺からは遺体が!」


そこで、千夜の想いが書き綴られていく書物が何も書き綴られなくなった。


「おかしくねぇか?あの遺体。

ちぃが居た場所は確かに火は凄かったけどよ、ボヤ程度の火事だったのに、少し離れた場所にから見つかった遺体は真っ黒だったんだ?」


そう言われれば、火事で遺体が見つかったが

西本願寺が燃やし尽くされた訳じゃない。


あの遺体は、何故、真っ黒だったのだろうか?まるで、身元が知れる事を嫌がっているかの様に————。


「………。とりあえず、今は、ちぃちゃんを休ませてあげてください。4日も監禁されてたんですから…」



4日?そんなに私あそこに居たの?

光も届かないし、たまに人が入ってくるだけだったから、全く日にちがわからなかった————。


「ああ。そうだな。見張りは増やすからな。」


嫌とは言えない千夜は、コクンッと頷いた。


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