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浅葱色を求めて…  作者: 結月澪
下関戦争
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天皇謁見から誘拐事件


二カ月で答えを出す。その答えは、千夜にとっては、喜ばしい事であった。少なくとも、考えてくれる意思がある。そういう事だ。


いえもち君も天皇も大丈夫。


そう思いながらも、乗せられた馬は、屯所へと向かっている。


屯所に帰りたくない。


何時もは、思わないだろう事が、頭をよぎる。

まだ痛む身体。疲れもあるのかな?と、軽く流した千夜は、馬に揺られ屯所に帰り着いた。


屯所の中でも護衛が付いて回る。

帰ったのは、夕方であったが、食欲なんか無く、帰って早々に進められた、お風呂すら入らないまま、部屋に戻って倒れこむように畳に寝転んだ。


————また、視線を感じる。


山崎じゃない。

今は、総ちゃんは馬を倉庫に連れて行ってくれて部屋には一人の筈。一体誰が……?


「千夜さん?帰ったんですか?」


その声に、安心しきった。野口の声だったから

零番組の芹沢派の人間。だから、気だるい身体を起こし襖を開けた。何の疑いも無いままに————。


「野口?どうしたの?」


何か大事な用事でもあったのだろうか?

と、野口を見た瞬間だった。ドスッと鳩尾に鈍い痛み。そして、視界に入った、


五番隊隊長  武田観柳斎と

九番隊隊長  鈴木三樹三郎。伊東の弟の姿。


グラっと、倒れそうになる体に、倒れちゃダメだ。倒れたら、確実に伊東の所に連れてかれる。そう思って踏みとどまる。


「…野口……なんで……?どうして?」


お前は、芹沢派の人間だろ?


口元に押し当てられた手拭いに、踏みとどまった足は、再びグラリと揺れた。


懐からクナイを取り出そうとするが、あっさりと腕を掴まれ、クナイは、畳へと吸い寄せられる様に落ちていった。


忘れていた……。武田の戦い方は古臭いと言われ、居場所を失っていく事を……。


鈴木は、兄の命を受けたのだろう。


だが、野口は、零番組の仲間だと思っていたのに…


鳩尾を殴ったのは、野口……


意識がとうのいく千夜の脳裏には、野口の姿だけが、ハッキリと焼き付いて離れなかった。


落ちる。真っ暗な闇に————。




傾く千夜を抱きとめた野口。


「芹沢を殺したあんたに感謝するよ。邪魔だったからな。芹沢鴨が…」


そう言った野口。


「クククッ信用した部下に、裏切られて、可哀想な女だね。これで、後は、長州から手に入れたって言うお香で洗脳すれば、

————こいつは、俺のものだ……」



 


部屋に戻ってきた沖田は、部屋の状況が把握できずに、ただ、立ち竦んだ。


落ちたままのクナイは、千夜の物で間違いない。一体、何がどうなってるの?


馬を倉庫に連れて行って、護衛を武田に任せた。その筈だった。


部屋に戻れば、護衛の武田は、倒れていて、

ちいちゃんの姿がない。


状況を把握すべく、武田を叩き起こす。

「…うっ…お、沖田さん?すいません、千夜さんが……」

「誰に! !」

「それが、背後から襲われ…て、顔は……見てません…」


自分も千夜誘拐に加担してるのにも関わらず、嘘をツラツラと並べる武田。


武田の行動はおかしかった。背後から襲われたといって、腹を押さえる。


しかし、そんなのは、今は、どうでもいい。

ちいちゃんの居場所を探さなければ……。


畳の上に落ちた桜色の手拭いが、自ら居なくなってない事を物語る。

すぐに、土方らに報告し、山崎に、薩摩、長州、坂本、山南、平助に連絡してもらう。もちろん、一橋公にもだ。

一橋公と容保公は、下関の戦いで、椿ではなく、芹沢千夜の働きを認め血判を交わした。


それが、ついさっき、天皇謁見のすぐ後の事だ。


これにより、千夜の価値が跳ね上がったのは間違いない。


証書だけは、沖田が全て預かっていた。

千夜は狙われてたから、悪用されないようにと……。


そっと、拾った桜色の手拭い。屯所の中を探すが居るはずがない。


武田を休ませたのは、周りをウロウロされては邪魔だからだ。こいつが嘘を言ってるのはわかってる。


『およがせろ……』


それが、副長命令。

本当なら、刀で滅多斬りにしてやりたいが、千夜の居場所がわからなくなる恐れがある。


桜色の手拭いに包まれてた、帯留めの細工。

それは、沖田にも見覚えがあった。


芹沢が一時つけていたモノだ。

だが、それは千夜が貰い受けたんじゃない。


野口。

芹沢派の男が、千夜を裏切った。

確たる証拠であった。


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