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浅葱色を求めて…  作者: 結月澪
下関戦争
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天皇謁見

それからしばらくして、沖田が部屋に戻ってきた。


部屋に入ると、視界に飛び込んで来たのは、気乱れた襦袢で、畳にへたり込んでいる千夜の姿。擦り続けたのか、赤くなった唇に、お粥を畳に起き、千夜に駆け寄った。


「ちぃちゃん!」


ビクッと、身体が強張った千夜に、顔を歪めた。自分が居ない間に、何かあった事も、何をされたのかも、直ぐに分かった。


「……大丈夫…僕は、なにもしない。」

そっと、包み込む様に、抱きしめる。


カタカタと震えた、小さな身体から、伊東の匂い袋の香りが鼻を掠める。


あいつが、ちぃちゃんを……


千夜の傍に落ちたままの銃を彼女の手に戻す。

それを受け取り、懐に戻す彼女。


そして、申し訳無さそうに、僕を見つめる瞳は、微かに揺れていた。


「…総…ちゃん……私……」


赤くなった唇に、そっと唇を押し当てる。

嫌がられても、突き飛ばされても、それでもいいと思ったんだ。


ビクッとした彼女の身体。だけど、僕を突き飛ばしたりは、しなかった。大丈夫だと、安心して欲しくて彼女の頭を撫でる。


「う…ごめんな…さい……」

「ちぃちゃんは、悪くない。」


僕の胸の中で、着物を握りしめる彼女は、何も悪くない。顔を俯かせて、彼女は、口を開いた。


「伊東の狙いは、新選組じゃない…………私……

君菊だと知ってた。薩摩、長州、坂本との事も……。」


伊東に、どれだけの事を知られてるのか、なんて、彼女にだってわからないのだろう。


けど、渡さない。伊東なんかに、ちぃちゃんを絶対わたすものかっ!


「そう。今は、何も考えなくていい。

お粥食べようか?」


と、平静を装って、そう言った。


少し落ち着きを取り戻した千夜は、沖田の作ったお粥を3分の1程食べた。


「もう、いいの?」


作った量は、本当に少し。それでも、残した千夜に、声をかけた。


「うん。お腹いっぱい。美味しかった。ありがとう。」



そう言って笑う。心配をかけないように…


「少し寝よう?」

子どもじゃないのはわかってるが、横に寝転び寝かしつける。


やはり、伊東の事が怖かったのか、僕の襟元をキュッと握りしめる。


……何処にもいかないで。1人にしないで。と

言っているかのように……


頭を撫でてあげる事しか出来ない。身体中に痣があるから————。


あいつを殺すことが出来るなら、殺してしまいたい。


それは、出来ないのだ。近藤さんが気に入った人間だから。


ちぃちゃんが君菊だと知ってるのは、新選組、長州、坂本……薩摩は、知らない。


伊東は、薩摩と通じてる。だが、君菊を知らない薩摩が伊東に情報を与えるのは不可能な事。


だったら、一体誰が————?


長州は、ちぃちゃんの情報は流さない。

長州のヒメである千夜の情報を流せば千夜が危うくなる。それは、長州にとっても、痛手となる。残るは、坂本と新選組……。


可能性が高いのは、新選組となる。

今、新選組の屯所に住んでいる者に、裏切り者が居るのならば、すぐにでも、情報を集めれる。


仲間を疑うのは、嫌だが、新選組にも伊東派がいる。可能性は、高い。

勉強会で仲間を集めている伊東

長州、薩摩、坂本と血判状を交わしたのを知る人間は幹部だけ。中村も知ってるが、あいつは、ちぃちゃんを裏切らない。


幹部が口を滑らせたか、裏切ったのか……。

考えてもわからない。


「…僕は、君に何をしてあげれる?」


抱きしめた彼女は、すでに夢の中。


「僕は、無力だ————。本当に。」


愛した人を守れなかった。その思いが沖田の中では、強かった。


その後、土方にも千夜の事を報告した。




次の日から、山崎が千夜についてまわる様になった。


「烝、私大丈夫だから、ついてこないで!」

「ダメや、これも仕事やねん。」


だからって、厠にもついてくる。

本当にやめて欲しい。


「大丈夫だってば!」

「ダメ言っとるやろが!襲われてからじゃ遅いやろ?」


もう、唇奪われたし……。今も、気持ち悪くて仕方ない。


「でも、大丈夫だって!昨日だって蹴倒したし

私だって自分の身ぐらい守れるってば!」


「ダメや。」

「わからずや!」


はぁっとため息を吐かれる始末。

丁度その時、近くを通りかかった伊東が、千夜を見つけ、ニヤリ。と笑って声をかけた。


「おや、千夜さん。おはようございます。」


「………おはようございます。伊東さん。」

「朝から何の騒ぎですか?」


「別に、治療の件で、もう必要ないと言っていただけですが?私に何か用事でも?」


どうしても、トゲのある言い方しか出来ない千夜を見て、山崎は、距離を取るべく、自然と2人の間に立った。


「おや、千夜さん。何処か怪我をなされてるんですか?」


白々しい奴……


「私の話だとは、言ってませんが?」


「……………。そうですか。貴方が怪我をしたとばかり……」

「だとしたら、誰がやったのでしょうね?」


伊東の鋭い視線に負けじと、千夜も鋭い視線で言い放った。

「.…………」

————本当に面白い。


すれ違いざまにそう言った伊東の声は、山崎にもしっかりと聞こえていた。


————成る程な。沖田さんが心配してるんは、こういう事か。

と、一人納得していた。



明日は天皇の謁見。

血判状を交わした者たちも一緒に。だ。

幕府を説得できれば、歴史は動く……。

伊東なんかに、邪魔されてたまるか。





そして、天皇謁見の日。


正式な格好に着替えさせられる千夜。

あの重い十二単姿になった彼女は、下関の戦いでの携帯で撮影したものを見せ攘夷の無意味を話した。


連合国の強さは、大砲、船の大きさからもわかってくれたが開国を渋る孝明天皇。


三年の猶予がまだあるが、わかってくれなきゃ三年後はどうなってしまうかわからない。


「お願い致します。日本を一つにする為に、力を貸していただけないでしょうか?」


頭を下げるしかない。


うーん。と、唸る天皇。


「将軍、天皇共に力を合わせ、新しき、新政府を目指しませんか?


天皇は、ご存知ですか?

農民は、貧しき暮らしをしいられています。


太った農民はおりません……。


自分で田畑を耕し、作った作物を口にすることはなく、病気になっても、医者にもいけず死にゆくのです。

年貢を納めるのは、当たり前だとお考えでしょう。ですが、何故貧しき者も皆、同じ年貢を納めるのですか?


娘が居れば、売り渡さねばならない世は、間違ってはいないのですか?

娘は、女には生きるべき道は親の借金の為に身体を売るのが普通だとお考えでしょうか?


……自分の子を同じ様に売り渡せますか?


身分など、人間が勝手に決めただけではありませんか!


私は確かに水戸徳川家に生まれました。身分もあるかもしれません。ですが、私は道に生えた雑草を食べ生きながらえました……。


私に流れる血は、外に放り出されれば何の役にも立たない、ただの人間です!

天皇、将軍とて、ただの人間……」


家臣「なんと無礼な!」


「ならば、天皇の血は、特別なのですか?将軍の血は、特別なのですか?神か仏なのですか?


同じ赤い血が流れ、町民と同じ様に病にもなる……


私は、同じ命をより多く救いたい。異国は開国を願い、貿易をしたいだけです。


日本は、生糸、茶。カラクリなど、手先が器用で、異国から一目を置かれます。

植民地にしたければ、黒船、ペリーが来た時に

連合国になら出来たはずです。下関戦争で、私の話を聞いてくれたのは、何故ですか?


虐殺したければ、話など聞かなかったはずです。

お願いします。日本を一つにしてみませんか?


平和な世を……。

あなた方の子供たちに残してあげませんか?

どうか……少しでも、お考えいただけないでしょうか?」



「下関での成果は評価する。だが、開国となれば、国で戦がおこる。その時、お前はどうする?」


「私は、確かに人を殺したくありません 。


しかしながら、戦が起きたら……、命をかけ、天皇と将軍を守りましょう。


私は、鬼でも悪魔にでも、なる覚悟にございます。」


「良かろう。考えよう。

下関で兵の多くをお前が救った。

そして、お前を高く評価しておる。


長州藩主、毛利も薩摩、会津、一橋もだ


……良き世を作りたいのは、俺とて同じだ。

二カ月で答えをだそう。」


「ありがとうございます。」

















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