水戸へ。天狗党を探りに。弐
道なき場所ばかりを無理矢理刀で切り開き
どうにか水戸に着いたのは、
屯所から抜け出した二日後の夜の事。
着物もボロボロで、泥だらけのナリ。草木に切られて擦り傷も酷いものだった。
水戸で、生まれたのは確かだが、幼き時の記憶しかない。右も左もわからない。水戸の町中。
とにかく宿をとり、お風呂に入った。
「………マジに生き返る…」
湯船に浸かり、やっと、身体を休める事が出来た。
頭の中は、これからの動きを考えてた。
水戸藩主に会えない。
自分の父親で、ましてや捨てられたのだ。
私が女だから?そればかりは、いくら考えてもわからない
ケイキも含め兄弟は21人私入れたら、22人……。
女もいるし、妾の子もいるから、兄弟も多い。
全ては血筋を絶やさない為に……
徳川の血がそんなに凄いのか?
家康こそが、徳川の将軍。
戦い、天下をとったのは、子孫なんかでは無い。
その子供達は、親の為に名誉の為に、血で縛られるのたわ
はっきり言って、犠牲者だ
家康と違う。家康はすごかったのに……。そう、比べられ、勝手に罵しられ、将軍なんて名ばかりだ。
世継ぎを作り、徳川を絶やすことの無いようになぜしなければならなかった?
本当にわからない……。
お風呂をあがり、久しぶりに布団で、眠た千夜。しかし、その時間は、僅かな時間であった。
少し寝てから忍び込んだ天狗党の本拠地で、密書を見つけ
水戸で武器や爆弾、兵の数などを調べ、敵対する藩の数も
予想どおり。町人を入れたら、鳥羽伏見の戦いと変わらない。一万五千人程だろう。
芹沢が、天狗党だった筈だと書類をあさるが見つからなかった。芹沢が、信用した人間なら、話を聞いてくれる。と思ったが、その相手の名前すらない……。
抹消されたのか?
……水戸まで来て、誰にも伝える事もできない。もどかしさ。
倉庫に忍び込み大量の武器を見つけた。
武器は、旧式の物だ。
だが、倉庫に、武器弾薬がこれだけあるという事は、戦は避けられないだろう。
まだ、元治元年だ、鳥羽伏見の戦いまで、時間はあるが、
開国します。わかりました。にはならない。
少しでも、開国を理解してもらい、少しでも、被害を抑えなければ……。
沢山の人が死ぬのだ。死んでほしくない。
そのためには、天皇を将軍を説得せねばならない。
闇夜に紛れ、開国の意味を、攘夷の無意味を書いた文を
何通も何通も、いろんな場所に矢で放った。
……少しでも被害を減らすために…
もう、それしか出来なかった。やれることが、それしか……
次の日の朝、水戸をたった。
無意味だった。何も、何も出来なかった。
京に戻ったのは、その二日後の事であった。
まだ、江戸から近藤さん達は、帰ってきておらず、
副長室で、千夜は頭を下げた。
「…申し訳ありませんでした。」
悔しくて仕方がない。
捕まってでも、水戸藩に行くべきだった 。何もできないまま、帰ってきてしまった…
芹沢鴨の名も何も残ってなかった!
ポタポタと畳が濡れる。
日本を一つにするのは、無理なの?何で思想の為に命を捨てれるなら、新しい世の為に生きてよ!
新しい世を見て……平和な世を創ろうとしてよ!
頭を下げたままの千夜の肩が揺れていた。
唇を噛み締めているのか、畳に赤が落ちる。
「……黙って居なくなるのだけは、やめてくれ…………頼むから…」
よっちゃんからの言葉は、それだけだった。
そっと懐から、密書の写しを差し出した。
「……コレしか……」
わからなかったとは、言葉が続かなかった。
今ある、武器弾薬の数。攘夷派達の腕利き達の名前
天狗党に力を貸すだろう藩。天誅組の生き残り。大砲の数……
たった四日。移動も含めれば、一日で調べ上げてきた
情報。
確かに、今時点のものだ。だが……すごいとしか言いようがなかった。
半月後、伊東甲子太郎は入隊した。
伊東派は7名…。江戸からの隊士募集で、京に上洛したのは10名程であった 。
伊東は、参謀では無く総長となり、
その代わりに、山南を参謀へと変更させた。
壬生浪士組から共に戦ってるのに、いきなり来た男が参謀なんてありえない。との千夜の意見だ。
ニコニコしながら帰ってきた近藤。よほど伊東が気に入ったのだろう。
土方も、沖田も、終始、無表情だった。
「この度、新選組の総長を襲名した伊東甲子太郎です。
よろしくお願いします。」
頭は下げず、私を見てニヤリと笑った伊東。
……同じだった。私が知ってる伊東と……
「…彼女は?」
女の着物に右目を晒しで巻いている千夜が気になったのか、伊東は、そう尋ねた。
「あぁ、彼女は千夜君と言って、土方の縁者なんだが
右目が見えなくて親も亡くなってしまったから屯所に出入りしてるんだ。」
「土方くんの家は多摩では無かったですか?何も治安の悪い京に居なくとも————」
「京で暮らしているのが長いもので、何か、私が此処にいて不都合でも?」
「不都合なんてないですよ。
ですが……。住んでるのが長い割に、京弁では無いのですね。」
サラサラと結ばれてない髪に触れる伊東
……殴り飛ばしたい…切実に
「京弁でなければいけない理由がありますか?
貴方は何故、北辰一刀流は声を大にするのに、神道無念流は隠すのでしょうね?」
驚いた様に、千夜を見る伊東。
「……女の癖に……」
そんな小さな声に、千夜は、ふっと、笑った。覚悟はしてたし別に平気。
「こう見えて、神道無念流、北辰一刀流、天然理心流全て免許皆伝の実力は持ってます。
————女だからって舐めてると、怪我どころか、木っ端微塵にぶっ飛ばしますから、おきおつけて。」
「…………」
木っ端微塵にぶっ飛ばすって
刀関係ないじゃねぇか!と、言いたかった土方だが、ここは、グッと堪えた。
「……ささ、伊東先生の部屋へ案内しますね。」
猫撫で声の近藤と、伊東は部屋から出て行った。
二人が見えなくなってから、
「Get angry!
Is it the reason that is what in spite of a woman?
Where in that fellow did Kondo like really?」
「………日本語で話せ…中村、通訳!」
「…えっと……
腹立つ!
女の癖にって何な訳?
何様?コンドウさんはあいつの何処が気に入ったの?
……だそうです。」
「もっともだが、何故、急に異国語になる?」
「聞かれたらマズイから……」
ただそれだけの理由だ。
「多分あんまりにもムカついたら異国で叫んでるから
気にしないで。」
気になるわ!
しばらくして、千夜は、部屋でのんびり過ごしていた。スッと、開かれた襖。入ってきた人物に笑顔を向ける。
「おかえり、そうちゃん。」
笑顔の千夜に、入ってきた人物は、ため息をついた。
はぁ
「ただいま。……悪い子だったんだって?」
背後から抱き寄せられる。
何故か、総ちゃんは、私を膝に乗せ、背後から抱きしめるのが好きらしい。
首筋に顔を埋める沖田。首がこそばゆい……//////
ニヤっと笑う気配に、
あー、絶対わかってやってるんだと
一生懸命、耳や首に息がかからないように、避けてみるが
抱きしめた腕は離れない
……逃げれば逃げようとする程、息がかかる事にきづき、
大人しくしてたほうが利口だと、諦めた。
ふぅー。っと、首筋にかけられる沖田の吐息に、身体は、ビクンッと、反応してしまう。
「いい子に待っててって、言ったよね?何で、僕が
江戸にいったか分かってるよね?
千夜は、そんなにお仕置きがいいんだね?そうか、そうか……」
何も言ってないよ?私!しかも、たまに、呼び捨てだし…
「……えっと…江戸はどうだったの?」
「………へー、話を変えちゃうんだ。今日は寝かしてあげないから…ね?」
普通に、江戸がどうか聞いただけだよ?
「水戸に行ってきたけど、それだけだよ?」
それだけじゃないが………。
「以蔵と二人だったんだってね?」
あー。そうか。そこに怒ってる訳だ。可愛いね。本当。
ガバッと、抱きしめて、総ちゃんを押し倒す。
驚いた様に、千夜を見つめた沖田は、呆れた顔をした。
「……。ちぃちゃん?そんな事したら、僕、我慢————んっ。」
沖田の唇を奪ってやった。してやったりの千夜。
「へへ。総ちゃん隙あり!」
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そういう問題じゃない!
押し倒されたし、上に千夜が覆いかぶさってるし!
ニコニコしてる千夜
畳の上に寝転んだまま、千夜の頭を愛おしそうに撫でる。
目に巻かれた晒しをサラッと外すと、碧に少し白みがかった色の瞳。
偽物だとわかっていても、痛々しく見える……。
「……総ちゃん?」
「我慢できなくなっちゃった……」
「へ?」
「よし。ちぃちゃんは、今から、僕に食べられようね?」
「…拒否権は?」
「あるわけないでしょ?千夜が、悪いんだからね?」
意地悪な笑みを浮かべるのに、扱いは、優しくて、甘い甘いキスが繰り替えされる。
まだ、日が高い中、畳の上で、愛を確かめあった。
会えなかった日を埋め尽くすように————。




