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浅葱色を求めて…  作者: 結月澪
下関戦争
182/281

水戸へ。天狗党を探りに

布団に縛り付けられそうな勢いだったから、

その前に、布団には入ったものの、ねれない。

熱があるって言っても、今は、微熱。

たいしたこともない。夜になると上がるけども。


禁門の変も起こらず、京は平和。

だけど、水戸の出である天狗党が動き出したらしい。


長州と、ケイキは、

天狗党では無いが、深く関係がある。


高杉に関しては、下関での釈明に

古事記をツラツラと述べたらしい。頭使うの疲れたんだね……。きっと。


屯所の増築もはじまり、馬小屋よりも、馬が先に届いたから前川邸の蔵が馬小屋になってしまっている。


長州藩主も、下関の賠償金や奇兵隊の成果を褒め、牢から釈放された。


坂本と中岡は長州藩に身を潜めてもらった。

新選組は、今は、安全では無いからだ。


千夜も安全じゃない。襖の向こうには、原田が、槍を持ってるし、部屋には、文机に向って座ってる土方が、物音がする度に振り返る鬼……。


病人じゃないってば!と、叫びたい。


まさかコレ、伊東が来るまで続かないよね?

本当やめて…… ?



三日後、千夜の熱は下がった。

幹部隊士達は、千夜を外に出さない様にするのに必死である。


————無駄なのにね。


今日の夜、千夜は江戸ではなく水戸に発つ。

伊東ばかりに、気をとられてはならない。天狗党が、少しずつではあるが京へ来ている。


幕府の方針が、開国に向けば、京は、激戦地になるのは、目に見えて、分かる事だ。なにしろ、政治の中心は、この京にあるのだから。


尊王攘夷を掲げる新選組隊士も、離隊となれば、切腹になる。————切腹なんてさせない。


新たな世を拒み死を選ぶなら、

せめて、私の手で最後を————。


新選組だけではない。大きな戦が起きる。

たくさんの人が、死んでしまう……。


それでも、幕府の方針が決まれば、どちらにせよ、争いが始まるのだ。


その中で大きな勢力を持つ、天狗党。どうしても、動きを知りたかったのだ。


公武合体派は土佐藩、越前福井藩、宇和島藩

だが、藩の中にも、色んな思想の人間がいるのだ。全てが味方ではない。


もう、史実なんか、役に立たない。

もう、誰も知らない歴史を歩みだしたのだ。


それが、間違ってるのか、合っているのか、

誰もわからぬまま時は流れるのだ……。



残酷な日本の争いへと————。



早朝、いつものように、山崎が千夜の部屋にやってきた。襖を開け、部屋に入ると、手に持っていた晒しやらを畳に落としてしまった。

部屋の中の布団は、綺麗に畳まれ、人の姿はない。部屋にいる筈の千夜の姿すらない。

慌てて刀を確認するが、千夜が大切にしていた

芹沢鴨の刀が、どこを探しても見つからなかった。


————これは、誘拐ではない。


千夜は自ら動き出したのだと、山崎は、考えた。それが、何処に行ったのか、わからない

山崎は、急いで副長、幹部隊士に知らせを入れ、すぐさま、捜索へと隊士達が駆り出された。


「……総司に、殺される…」


藤堂が、頭を抱えながら、そう言った。

そして、突然、頭を上げた藤堂は、急に、駆け出したのだった。

何故だか、あの場所に、何かある様な、そんな気がして藤堂は走った。


毎日、毎日、欠かす事は、ほとんど無かった芹沢鴨の墓参りをする千夜を思い出した藤堂。

はぁはぁ。と、息を切らし、たどり着いた場所は、墓場。

芹沢の墓の前に、普通、文など置く事は無いだろう場所に、文があった。

「……ちぃ、お前、何やってんだよ!」

居ない人間に怒鳴る藤堂。これで、誘拐でない事は、明白となった訳だ。彼女の身を案じ、ただ、大事に文を抱きしめた。藤堂も、山南も、

千夜を探してやれない。明日、御所に移動が決まっていた。


だからこそ、この日、千夜は、水戸に発ったのだ。そんな事すら知らず、藤堂は、文を持ち、

屯所に戻らざるを得なかった。

屯所につき、文を開く。

藤堂の周りには、いつものメンバーが集められていた。


「勝手に、居なくなり、申し訳ありません。

自分の生まれ故郷である水戸にいき、天狗党の動きを探る為、突然いなくなる事をお許しください。

水戸徳川家は、尊王ですが、開国は受け入れられないでしょう。

幕府の決断は、まだのはず。

下関の事を話している段階では、当分の動きは無いかと思われます。

長州には、グラバーに、武器の調達をお願いしています。

三日。三日で必ず帰ります。

怪我のなきよう、ご武運をお祈り申し上げます。」


ガタンっ

「ど阿呆が! !まだ、熱下がったばっかなんねんぞ!何、考えとんねん!」


誰に、怒鳴っていいのかさえ、わからない。当の本人は、そこには居ないのだから………。

残された紙に怒りをぶつける山崎。皆、気持ちは、同じだった————。


*****


桜色の髪を靡かせて、東海道を馬で駆ける千夜の姿。彼女の顔には、焦りが感じられた。

関所なんか、通ってる場合ではない。女は、厳しく取り締まられる。

手形は、もっていても、そんなものは、飾りにしか過ぎない。偽物と言われるのがオチだ。獣道や畦道を馬で通るしかない。

獣道に入れば盗賊、山賊に出会う確率が高い。しかし、今は、ここを通るしか無い。

三日。本当なら、水戸に到着なんてする筈がない。龍馬に頼んで船を出してもらえばよかった。と、千夜は、そんな事を考える。

「千夜!少し休もう!」

後ろで馬を走らせる男が、そう叫んだ。

「………」

以蔵なんか連れてくるんじゃなかった。

「急いでんの!休みたいなら一人で休め!置いてくよ!山賊にでも食われてしまえ!」

そんな千夜の冷たい言葉に、ヒッと、顔を引きつらせる以蔵。この男、強いが打たれ弱い。女でも耐えれる程の拷問に、泣き叫んだらしい。

次第に、雲行きが怪しくなり、ザーザーと雨が降って来てしまった。結局、休まねばならなくなって、あたりを見渡せば、鉱山なのか、岩場に大きな穴を発見し、そこへ以蔵と雪崩れ込んだ。そこで、焚き火をし、腰を落ち着かせた。馬も入るぐらいに大きな洞窟。


「まだ静岡だよ。ここまでは、どうにか、通り抜けれたけど、こっからは厳しい…」

裁かれた天狗党の事を思い出し、暗い表情を見せる千夜。

彼らを、止められる訳ない。

私と同じだ。信じたモノのために戦う。


天狗党に参加した、常陸久慈の僧侶・不動院全海は、その剛力から「今弁慶」と呼ばれていたが、和田峠の戦いで討死した。この時、高島藩士・北沢与三郎はその力にあやかろうと全海の死体から肉を切り取り、持ち帰って味噌漬けにして焙って食べたという。


思い出して、吐き気がした。そんなモノで強くなれるものか。そんな事を考えていれば、雲の間から日が覗いてきた。外を見れば、雨は止んだ様子。千夜は、スッと立ち上がりながら、まだ、竹筒の水を飲んでいる以蔵に、声をかけた。

「以蔵、さっさと、行くよ!」

えーっと、いう顔をする以蔵。

「……。よし、今からお前を解体してやる。」


「!!イキマス、イカセテクダサイ。」


完全なる脅しに、怯む以蔵。本当に解体する訳ないじゃん……。と、千夜は、呆れ顔だった。










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