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浅葱色を求めて…  作者: 結月澪
下関戦争
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お偉方の説得

キューパー中佐との話を終え、船に戻った千夜は、一人、空を見上げた。


「せめてもの、償い……。か。」


それは、何に対してか?

殺してしまった者たちへの償いか?

それとも、ただの自己満足なんだろうか?

そんなの、わからない。ただ、そう思ったから、口にした。


「疲れたな………。」


千夜の口から漏れた本音。


何に、だろうか。新選組の為に、突っ走ってきた。攘夷の無意味を知らしめるために、下関まできた。私が、しようとしてる事は、無意味じゃないよね?————ねぇ。芹沢。



こころが、折れてしまいそうだ。

誰に、どう思われても、いいと思ってた。


でも、一歩間違ったら……。言葉一つ間違えたら……。全てを壊してしまうかもしれない。


怖いな…… 。間違ってないはずだ。なのに私は、

「何が、そんなに怖いのだろうか……?」


千夜の姿を見つけ、歩み寄ってきて居た慶喜。

聞こえて来た声に声をかけた。


「…椿?」


船の上で、遠くを見つめている椿の姿。声をかけたが、返事がない。


ココロの病も聞いていたし、なるべく体に負担をかけようとはしたが、激戦地には、必ず行く。と、きかなかった。

亡くなった者たちに、必ず手を合わせた椿。

敵は、居ないのだと、同じ人間だと、彼女は、そう言うのだ。


しばらく、椿を見つめていた。少した後、彼女の体が傾いた。慌てて支えるが、その身体は、熱を帯びていた。


ゴホゴホッゴホゴホッ


その咳に、慶喜は気づいた。これは、喘息だ。と。すぐさま、医師を呼び、船の寝室に運びこんだ。薬を手にした千夜。慶喜が手渡した水と共に流し込んだ。


一方、新選組は、必要な物資を船に積み込み

明日の出発に向けて着々と支度をすすめていた。


千夜が倒れた。と知らせを受け、いつものメンバーが、船の寝室へとやって来た。


千夜は、目を覚ました後で、ベットに半身を起こした状態であった。

しばらく、会話をしていたのだが、千夜が思い出した様に、言葉を放つ。


「今更なんだけども、ゴホゴホッ。総ちゃんはなんで怒ってるの?」


本当、今更だな!


ブスッと不貞腐れた沖田に対し、ニコニコした藤堂の姿。


「昨日、なんか酔ったらしくて、全く記憶がございません。なんかした私?ゴホゴホッ」


「…………」


何て、言えばいいんだよ!

総司と間違えて平助と接吻しましたって言うのか?


それこそ命がない。


「え?そんなまずい事した?」


余計、きになる……。ゴホゴホッ



「えっと、喧嘩?かな?」

誰か、おしえてやれ。と、皆が思う。

「ちぃちゃんは、気にしなくて大丈夫だよ?

京についたら、平助はお椀で川に流すから……」


……一寸法師じゃあるまいし……


「ちぃちゃんは、お仕置きがまってるからね?」

……………。本当に何があった?


ゴホゴホッ


何を言っても沖田の怒りを買うだけだと、皆、口を結ぶ。言ったら、命が無いのは間違いない。


「総ちゃん、平ちゃんを島流しするのはダメだよ?おわんは、危険!」


「そこじゃねぇ!」



千夜の喘息は、いつもよりは、たいしたことは無かった。ただ、熱が高く、帰りの船では、寝室に閉じこもったまま。


山崎曰く、いつも使わない頭をフル回転させたから。らしい。知恵熱だ。と言いたいらしいが、本当、酷すぎる。


そして、帰りの船の揺れが、千夜には拷問であった。船に揺られ10日程で、やっと横浜。


そこで、休憩には、してくれる訳はなく、お偉方への説明へと行かざるを得なかった。


戦地の状況や賠償金の話。下関の被害、三年の猶予、開国しても植民地になる事はないと、何度も、何度も説明する。


携帯で、撮られた画像を見せながら、懸命に説明するが、それでも信じようとしないお偉方に、流石に、ブチ切れてしまいそうになる。


横浜にも残っていた連合国の方々も、千夜の話は伝わっていたため、フラフラな千夜に力を貸してあげたいが、なにせ、言葉が通じない。


お偉方に、終いには、千夜は、異国からの間者だと言う始末だ。


「平和な場所にいた人間に、何がわかるっ!!

下関で、戦い死んだ人間が、何人居たか、知っているのかっ?

彼らは、何故、死ななければ、ならなかったんだ!

無駄な攘夷を掲げ、国の為に命をかけ戦ったんだぞ!今、この場にいる異国の者は、何故、攻撃しない?

お前らにわかるか?

無駄な戦いなど、——誰も、望んでないからだ!鎖国が、したいならすればいい。

戦で、銃を使うのは何故だ?


銃が優れているからだろうが!

それは、異国で作られた銃だ……。

何故、わからない?何故、わかろうとしない!


人が、死ねば誰だって悲しむ。笑いながら殺す人間なんかいやしない!三年。三年しか、猶予がないんだ!

初めから出来ないと、無理だと、決めつけるのは簡単だ!言葉が、通じないなら、私を使えばいい!何もせず、攻撃をするなら、

————私は、連合国につく。



間違ってるのは、日本だ!

尊皇、将軍、佐幕。今迄守ってきたものは、

異国を受け入れたら変わってしまうのか?

お前らは、そんなちっぽけな、武士じゃねぇーだろうが! !


日本らしさを残し、異国の良いものを取り入れていけば日本は、もっといい国になる……。

力が欲しいなら、私が、出来る事ならなんだってする……。


異国を怖がるな彼らは……


……同じ……人間だ……恐る事など……ない……」



ふらっと、その場に倒れた千夜。限界だった。


激戦地に突っ込み、救護を率先し、殺さないように戦う事も、言葉を選びながら、説得する事も、賠償金を減らすように、被害を押さえることも……。


千夜、一人の力では、全てが、限界だった。


彼女とて、怖くない訳がなかった。怖くて、怖くて仕方なかった。


しかし、突きつけられてしまった間者、つまりはスパイだと言われ、日本の為に、全てしてきた事なのに、寝る時間すら削り治療にあたり

それでも助けれない命……。


悔しさに、何度、唇を噛みきったかわからない。

敵も、味方もいない。それが、千夜の考え方。


何度、一人で声を押し殺し泣いたか、何故戦いなど起こるのか、何故、幕府は、歩み寄らない?———全てが、もどかしかった。








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