下関戦争
着々と、戦への準備が進んでいく。
「高杉さん、大砲が足りません!」
偶然、高杉の近くに居た千夜は、その声に、振り返った。
奇兵隊だろうか?高杉に声をかけていた。
困った顔の高杉。長州もけして、裕福な藩ではない。頭をガシガシ掻く高杉。
配置する筈の大砲が、足りなかったのだろう。
見かねて、千夜は、高杉に歩み寄った。
「大砲が無いなら、作っちゃえば?」
何、言ってるんだ?って顔をする、皆様。
「千夜、あのな、大砲なんか、作れる訳ねぇだろ?」
「そんなの知ってるよ。
敵に、たくさんの大砲が有るように、見せればいいだけでしょ?」
キョトンとした高杉。
そして、少しして、ニヤリと笑った。
どうやら、千夜の言いたい事が、わかったらしい。
「なるほどね、別に本物じゃなくても、本物に見えるモノを作って仕舞えば、いいって事ね。」
なんかあったのか?と、会話を聞いて居た吉田が、そう言った。
「使えなくなった大砲と、後は、木で作って置けば、敵の威嚇にはなるわな。」
「そう。
で、使える大砲の近くに置けば、どの大砲から発射されたかなんてわからない。」
ほうほうと、男達が、納得した様に、うなづいた。それなら、予算はあまりかからない。
戦力は、変わらないが、敵が大砲だと思えば、敵の注意は引ける。
7月27日、28日にキューパー中将(英)を
総司令官とする四国連合艦隊は横浜を出港した。
艦隊は17隻で、イギリス軍艦9隻、フランス軍艦3隻、オランダ軍艦4隻、アメリカ仮装軍艦1隻からなり、総員約5000の兵力であった。
下関を守る長州藩の兵力は奇兵隊、幕府、新選組など3000人、砲約120門であり、ダミーの大砲も30程。
幕府軍は、200人程度。長州を助けるというより被害を最小限に押さえたいと思っている為、
長州は、敵という認識のが、未だ強い。
ほとんどが、ケイキと容保の護衛に割り振られたが、小競り合いが起こらない事を祈るだけだ。
5日午後、四国連合艦隊は長府城山から
前田・壇ノ浦にかけての長州砲台群に猛砲撃を開始した。
長州藩兵も、幕府軍も、船で、応戦するが、火力の差が圧倒的であり、砲台は次々に粉砕、沈黙させられた。35台の大砲が、使えなくなったのだ。
艦隊は、前田浜で、砲撃支援の下で陸戦隊を降ろし、砲台を占拠して砲を破壊した。
そして6日、エゲレスの上陸を許してしまった。
陸戦になれば、今まで、救護にまわっていた、
新選組も加勢しなければならない。
ドーーーンッ
ドーーーンッ
ドーーーンッ
船からの攻撃も容赦なく、
大砲が、降ってくる。
「……っ!!おんしが、負け戦って、ゆうた意味がわかったわ。」
龍馬が、身体を低くくしながら視線を千夜に向ける。
サラサラと、風になびく桜色の髪。
黒馬に乗った女の姿。
刀も、楔かたびらもつけない、白いマキシワンピースを身に纏う千夜の姿、
「けんど、綺麗な足をしちゅう。」
視線は、千夜の生足に……。
バシッ
「見ないで下さい!」
「叩く事ないろうが!」
はぁ。
「ちぃ、お前が悪い。そんなに、肌を出すから。」
藤堂が、呆れた様に言い放つ。
千夜の、白いマキシワンピースは、右から左に斜めに、切られ、右足だけが生足が膝より短くなっていた。
「裾あると、動きにくいの!」
確かに、そうだが、
「だったら、袴にしてよ。」
沖田の声も、今は、無視だ、
「椿、お前、何故、武器を持たない?」
ケイキも、武器を持たない千夜に、
気が気ではない。
「武器なんか、その辺に転がってるでしょ?」
確かに、敵兵を倒せば、武器は確保できるが、無防過ぎる。武器を持たない訳ではない。
話し合いをしたいのに、刀を持っても意味がないのだ。
赤根は、まだ、この状況でも、勝てると思っている。吉田と高杉も説得したが、聞き入れられなかった。もう、今日、終わらせなきゃ。
敵も、味方もこれ以上、————殺させやしない!




