屯所の増築と携帯
新選組幹部隊士、近藤さん、山南さんにまで説教をいただき、西郷、坂本にも怒られた。
前日に、だが……。
「あのね、千夜?君、少しぐらい、自分を大切に出来ないわけ?」
ただいま、長州の方々に説教をいただいています。……勘弁して下さい。
まだ、怒鳴られた方がマシです。
「聞いてるの?」
………聞きたくないです。とは、言えませぬ。
「はぁ、まぁ、君に言っても、無駄なんだろうけどもね。」
吉田の怒り方は、苦手です。
「……。えっと、高杉は、下関戦争の支度?」
ガコンッ
「————!痛い!」
「テメェは、反省をしろ!」
何も、叩かなくてもいいじゃん!
「見捨てれるわけないじゃん!」
「コッチの寿命が縮まったわ!」
「………。スミマセン。」
…………
「はぁ、高杉は、千夜の言う通り、下関戦争の支度で置いて来た。かなり千夜に、会いたがってたけどね。」
「伊藤俊輔と井伊聞多は、エゲレスから帰ってきた?」
少し驚いたような吉田…
「彼らは、戦争を反対してるでしょ?」
「あぁ、国力と機械技術が全く違うと、
絶対、勝てる相手では無いと。
藩主を説得しようとしたが、聞き入れてもらえず、藩主は、牢にはいってしまったしね。
藩首脳部に止戦を説いたけど、聞き入れてくれない。」
「だろうね。異国の脅威を知らないから、
自分達が強いと思ってるんだよね。だからこそ、見る価値があるんだよ…」
攘夷の無意味を知るためにね。
京の火災から、3日後。
千夜は、そういえば、土地の話しってどうなった?と、思い出し、副長室へと、足を向けた。
「よっちゃん?」
襖を開け、中の様子を伺いながら、文机に身体を向けたままの土方に、声をかける。
「ん?どうした?ちぃ。」
振り返りながら、そう声を出した土方は、千夜の姿をとらえると、少しだけ頬を緩めた。
「あ、土地ってさ、どうなったかな?って。」
仕事の邪魔をしてはないか?不安になりつつ、
そう問えば、カタッと筆を置いた土方を見て、
部屋に入って襖を閉めた千夜は、土方の近くに腰を下ろし、返事を待った。
「あー。あれな………。」
と、煮え切らない様な声に、
え?前川邸の買い取り、ダメだったのかな?
千夜は、そう思ったのだが、
「…………。なんとか、買い取れそうだぞ、前川邸。」
「本当?」
嬉しくて、つい、よっちゃんに抱きついてしまった。
勢いが良すぎたのか、「うおっ!」っと土方から声があがったが、すぐに、頭を撫でられ、懐かしい感覚に、千夜もまた、頬を緩ませた。
「ちぃ、久しぶりに、充電させろ。」
何で、命令口調なんですか?
講義しようとしても、ぎゅっと、抱きしめられて、身動きが出来ない。ドクンドクンと、聞こえる心音が、心地いい。じゃない……!
寝てしまう!聞きたい事を聞けぬまま
「下関で、————死ぬんじゃねぇぞ。絶対。」
湿った様な声に、私は彼の背に腕を上げ回した。
「死なないよ。大丈夫。」
スパーンッ。突然開いた襖に、驚き、そちらを向こうとする千夜だったが、土方の胸に、頭を押さえつけられてしまい、誰が部屋に来たのかは、見ることは不可能。
「あ、総司……。」
土方の声で、誰が入って来たか、わかったが、
「土方さん?何してるんですか?」
土方の腕の力は、弱くなり、彼の背に回った千夜の腕も、畳へと下がった。
ようやく見えた、沖田の顔は、引きつった笑みを浮かべていた。
「…………」
もしかして、修羅場ってやつ?
「総司、コレは、な。」
えっと……。と、言い訳を考える土方だが、
「別に構いませんよ?充電ですよね?」
「お、おう……」
なんか、総司が変だ。と、土方は、思った。
「お前、どうした?」
「何がです?僕、寛大な心の持ち主ですよ?」
「…………」
「でも、あんまり、ちぃちゃんを抱きしめないでくださいね。
それ以上やったら跡形も無く消し去りますからね?」
どこら辺が、寛大な心なわけ?
土方に、抱きしめられたまま、沖田が居るのに
離してくれない土方。
嬉しくて、自分から抱きついたのだが、どうにかして。と、沖田に、視線を向けて見るが、
「土方さん、下関に行く人は、決まったんですか?」
何故だか、沖田に頭を撫でられる。
助けては、くれないらしい。何なの?この状況はっ!
「ああ、今回は、負け戦だって言ったが、
近藤さんは、行きたいみたいだ。」
「近藤さんが?」
「連合軍が、どれぐらい強いか見てみたいんだと……。」
全く、あの人は。と、溜息を漏らした土方。
「近藤さんらしいですね。」
と、土方とは対照的に、笑う沖田。
「幹部全員を連れて行きたいが、京の治安を守るのが、新選組の仕事だからな。いくら、幕府の要請でも、全員って訳には、いかねぇな。」
死ぬ気が無くても、戦に出るのは、命懸け。
最悪を想定して、行動せねばならない。
「今回は、近藤さん、俺、総司、平助、中村、後は山崎と平隊士だな……。」
「…まぁ、無難ですね…異国の戦い、皆んな、見たかっただろうけどね。」
「見れるよ?」
土方の腕に、捕らわれたままの千夜が、口を開いた。
「見れるって、全員、連れてけねぇぞ?」
よっちゃんの腕から、すり抜ける千夜。やっと、解放された。
「そうじゃなくてね、携帯で、動画を撮ればいいんだよ。」
「ちぃ、日本語で頼む。」
日本だよ!
「説明めんどくさい。今からやるから、理解して?」
懐から、携帯を取り出し、二人へと、携帯のカメラを向ける千夜。しかし、目の前の二人は、身動きすらせず、
「……」
「……」
「なんか、喋ってよ!」
携帯を見て、動かない二人に、ついには、文句を言う千夜。
「えっと、何してるの?」
「それは、何だ?」
こんなもんかな?
停止して二人に見せてみた。
「僕だ……。」
「さっき、話した事が、見れるのか?」
初めてみる携帯に、二人がくらいつく……。
「そう。これで、録画して、皆んなに見てもらえばいいでしょ?」
「他に、何が出来る?それ…。」
「ほとがら、撮れるよ?撮ろうか?」
有無を言わさず
「はい、ちーず。」カシャ
「ひ、光った!」
あ、フラッシュ消すの忘れた……。
「はい、撮れたよ。」
「本当に、撮れてる。しかも、色がついてるしっ!」
「おもしれぇな。」
「でしょ?これ、持ってくから、皆んなに見てもらえるよ。」
初めからそのつもりだ。来れない人にも、伝えなきゃ、意味がないんだ。
「お前、こんなの持ってたなら、初めに出せば、未来から来たって、すぐ、わかったのにな?」
と、携帯を見ながら言った土方。
「は?嫌だよ。説明とか嫌いだし。」
そんな理由?
「ちぃちゃんはやっぱり、面白い。」
「ちげぇねぇ。」
沖田の言葉に、土方が賛同する。
「褒めてるの?」
「………」
「………」
けなしたんだよ!なんで、少しずれてるの?この子は!
「前川邸も、買い取れるみたいだし、隣の土地は、もう確保したみたいだし、屯所広くなるから、よかったね?馬も手に入ったしね。」
「建ってから喜べ。」
「いつ建つ?」
「急ぎでも、年内かかるかな。お前よかったのか?屯所なんかに、金かけて。」
「なんで?」
「他に使うべき物に使った方が…」
「いいんだよ。」
使うべき場所は、ここで、間違ってない。
「それにね、実は、ケイキが私の為に、お金を貯めてたらしくて、屯所建てても、お釣りがきちゃうくらいなんだよ。」
「………」
「どんだけ、金持ちなんだよ!」
「……えっと?数えたこと無いよ?」
持ち金の金額を言おうとする千夜に、二人は、ため息をついた。




