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浅葱色を求めて…  作者: 結月澪
半年ぶりに帰った屯所
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早まった、どんどん焼け

自室に連れてこられて、正座した千夜の目の前には、沖田の姿。


「さて、ちぃちゃん、昨日の夜は、山崎君と佐々木と調査に行ったんだよね?」


そう。昨日は、ちゃんと総ちゃんの許可を貰って動いたのだ。


「………。はい。総ちゃん、朝稽古が途中だし

話は後からでも……。」


ちらっと、沖田を見てから、立ち上がりかけた腰をまた、畳に戻した。


ニコニコしている方が怖いって、今、初めて知ったよ。


千夜の前には、笑顔の沖田。しかし、目は笑っていない。


「佐々木は、途中で帰った。」

「で、ちぃちゃんは、何をしたのかな?

山崎君も知ってるなら、僕、絞め殺さなきゃいけなくなっちゃう。ね?」


ね?じゃないよ……。


はぁ。


「奉行所と所司代に、不逞浪士の情報を流した。」

「…………。バカなの?」

「後9日しかないから、誘き出そうと、して。」


「僕が、言ってるのは、そこじゃない。見つかったら、ちぃちゃんも捕まっちゃうんだよ?」


その通り、だから姿を見られない様に、矢を放ったのだ。


「見つかってないよ?」

「じゃあ、何で、土方さんは、ちぃちゃんに聞いたの?」


……そう言えば……


「ちぃちゃん、君が止めたいのもわかるし、下関に行かなきゃいけないから、焦るのもわかるけどね、長州や他のちぃちゃんに力を貸してくれた人を、もっと、信用してあげなよ。」


「…信用……」

してないわけじゃない。


「信用してるって言えないよ?久坂には、情報を提供するだけでしょ?それ以上は、ちぃちゃんの仕事じゃない。」


「………」

「ちぃちゃん、君は何でも一人でやってしまうけど、 じゃあ、僕たちは何の為に居るの?

新選組は、何であるの?組みは、支え合うものでしょ?


血判状をくれた人達だって、ちぃちゃんを支えたいから、血判したんだよ?

一人でやってしまうなら、そんなのいらないよね?」


「………。ごめんなさい。」


僕に謝られても困るんだけど。

だからと言って、久坂に謝るのも違うしね……?


「もう、いいよ。わかってくれたなら。

お願いだから、一人で抱えるのだけはやめてね。」


「……はい。」


シュンッと項垂れた千夜。


「わかれば、もういいよ。」

ポンポンと頭を軽く叩く

「さ、朝稽古戻ろうか?」

「……うん。」



そして、その翌日、京の町に火が放たれた。


長州藩邸付近と堺町御門付近から出火 。火を放ったのは、天誅組と脱藩志士達。


長州藩、久坂に挙兵して貰い、天誅組と脱藩志士達の捕縛は任せ、新選組は消火活動を開始した。


木造家屋の江戸時代。火が回るのが、明らかに早い。それでも、何もせずに、見ている訳にはいかない。


飛び火ぐらいなら、布団でも濡らして火を覆えば消える。それ以上なら、バケツリレーならぬ桶リレーをした。


いつしか、町の人達が手を貸してくれ、長い列になっていった。


壬生の狼と呼ばれ、人斬りと、後ろ指を刺された新選組に手を貸してくれる人がちゃんといた。長州藩邸近くから出火した方は、何とか鎮火し、

後は、堺町御門付近なのだが、到着した時、思わず立ち竦んだ。


家が炎にのまれてしまって居たのだ。


新選組も半数は、こちらに出動していたのに、

炎の威力に、なすすべなく、怪我人の救護しか、出来なかったらしい。


その間にも、炎の威力は、増す一方。


こうなってしまったら、家を壊すしかない。

火を食い止める為に…………。


火がついたばかりの家を新選組が壊しにかかる。一箇所ではなく、二箇所、三箇所と、壊す家は、増えていく。


火も落ちつきだした頃、また、新たな家に火が燃え移る。そんな事の繰り返しだ。


「どうすりゃいいんだよ!壊しても、壊しても、火がおさまらねぇ!」


新八さんが叫ぶ。


みんな、同じ気持ちだ。家なんて、壊したくない。それでも、壊さなきゃ、火は、次々に京を焼き尽くしてしまう。


飛び火が無いか、あたりを見渡して居た千夜は、視線を一点に向けて固まった。


燃え上がる家の前に、力無く地べたに座る女性の姿。土方が気がつき、声をかけた。


「どうした?早く逃げねぇと……。」


女の人は、目に涙を溜めて、土方を見つめる。


「…ヤヤコが! !」


赤ちゃんが、燃え上がる家の中に居るのは、

女の人の様子から、わかった。


だけど、助けるのは、無理だと思うほど、

火の勢いは、凄まじかった。



バシャン カコンッ


転がった桶。自分の前を通り過ぎた浅葱色……。


————今、誰が、僕の前を通り過ぎた?


何が、起こったの?

「千夜さんっっ!」

何で、ちぃちゃんを呼ぶの?………どうして?


「ちぃ……っ!」


何?何で、土方さんが、地べたに座り込んでるの?

再び燃え上がる家を視界に映す。


「…ちぃちゃん?」





どうして?返事が無いの?

わかってる。僕の前を通り過ぎたのは、

……ちぃちゃん……


あの燃え上がる家に、水を被って、入って行った。


僕も、行く。あの、炎の中に………。

フラフラと沖田の足が、燃え上がる家に向かう、ガシッと掴まれた沖田


「離して下さい!土方さん!」


僕の腕を掴んだのは、土方さんだった。


「離す訳ねぇだろうが!お前は、新選組の刀なんだろうが!」


そんなの、どうでもいいよ! !

ちぃちゃんが、死んじゃう………


「離して下さい!」

「総司、テメェ少し落ち着け!」


永倉がそう言いながら、沖田を押さえ込む。

落ち着けと言われて、落ち着ける訳はない。


目の前にある、家の中に居るのは、わかっている。


なのに、燃え上がる炎の前に、なす術がない。


何人に取り押えられてるのかも、千夜が入ってどれくらいたったのかも————全くわからない。


ゴウゴウと音を立て、燃え上がる炎。


「ちぃちゃん! ! !

————…千夜っっっ! ! 」



叫んだって、返事はない。


家は、赤くなる。

炎に包まれ、どんどん、燃えていく———。

もうダメだと、女の人も泣きじゃくる。


「…ちぃ…が……」


藤堂のそんな声が聞こえてきた。


沖田が土方らと、揉めている間に、零番組と平隊士らで燃え上がった家の隣の建物を壊した。


「嘘、でしょ?千夜……。返事しなよっっ!!」


ドカーーーンッ


その音に、皆の動きが停止する。いつだか、蔵を爆破させた千夜を思い出す。火が回る中、火薬を使うバカは、彼女しか居ない。


「……ゴホゴホッ…」


そして、人影が燃え上がる家から出てきた。

何かを抱えて……


「……キョウちゃん! !」


泣きじゃくった女性が、一番始めに動き出す。

叫んだのは、赤ちゃんの名前だろうか?


ススだらけの彼女は、ヤヤコを女性に渡した後地に膝をついた。


ゴホゴホッ…ゴホゴホッ


咳き込む彼女を、ただ呆然と見つめる新選組の面々。


本当、この子なにしてくれちゃってるの?

唖然とし過ぎて、声すら出なかった。


ありがとうございます。といった女性。その声に、やっと、脳が動き出す。


「………テメェは……

死んだかと思っただろうが!」


土方の声に


「……あの炎は、洒落にならない。死ぬかと思った………」

「…………」


本当に、死ぬと思ったのだろうか?


はぁ。

「………良かった。」

沖田が力無く地べたに、へたり込んだ。



その日のうちに、火は全て鎮火


天誅組は壊滅し、脱藩志士達は、長州藩が24名身柄を拘束した。


史実では、

約2万7000世帯を焼失。

物的被害は焼失町数811町(全町数1459)、焼失戸数49,414軒(全戸数27,517軒)、人的被害は負傷者744名、死者340名


だが、早まった事により、風向きも、放火の威力も弱く約7000世帯を焼失し、

物的被害は焼失町数13町、焼失戸数9,414軒、人的被害は負傷者145名、死者10名


と、被害は、最小限に食い止められた。


新選組は、消火活動や怪我人の救護をしたため

町人から感謝され、壊した家などの

廃材撤去なども率先して手伝ってくれた。


いきなり、好い人扱いの新選組。

平隊士らが戸惑う姿が面白い。


六角獄舎には、全く火は、及ばず、囚人33名が判定をされないまま斬罪される事も無かった。




















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