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浅葱色を求めて…  作者: 結月澪
半年ぶりに帰った屯所
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久坂と、禁門の変

「ちぃちゃん、僕、決めた。近藤さんの為に、命をかけて戦うけど、死ぬ時は、君と共に死ぬ。」


見開いた千夜の瞳を見て、沖田は、クスッと笑う。


「君が死ぬ時、僕は死ぬ。僕が死ぬ時、君も連れてく。もう、君から、離れてなんかあげない。死んでも、君と一緒に戦おう、だから、勝手に、死んだら許さない。

僕を置いて行ったら地獄で、お仕置きだからね?」


こんなの、病んでるとしか言えない。でも、それでも私は、————もう、一人になる事は無い。


そっと、抱きしめられた身体は、布団の中の様に温かく、溢れる涙は、嬉し涙。


一人が、怖かった。一人が、嫌いだった。

孤独になんて、————なりたく無かった。


「返事は?」

「ありがとう。」

「そこで、お礼なの?クスッ…。でも、どういたしまして。」


手の震えは、さっきの言葉のおかげで、止まっていた。


私は、もう、一人になる事は、許されない。そんな、束縛なら、喜んで受け入れる。


汚れた半紙を綺麗にするのは不可能。真っさらになんて出来ない。

だったら全部を、真っ黒くしてしまおう。


綺麗な、人間なんていやしない。真っ黒くなっても、手が、真っ赤に染まっても、誰にどう見られても、綺麗事だと罵られても、信念だけは、絶対、曲げない。


私の戯言に、力を貸してくれる人が居た。だったら、最後まで、足掻き続けよう。


死しても彼と、地獄に落ちても、大好きな空に行きたいと————足掻き続ける。


彼と一緒なら、なにも、怖くない。



その、2日後、吉田が、久坂と共に、屯所に訪れた。


「へぇ。君が、長州のヒメ?」


品定めする様な、久坂の視線が、気持ち悪いんですが……。


「久坂、千夜をやらしい目で、見ないでよ。

千夜、久しぶりだね。」


ニコッと笑う吉田を見て、ホッとする。


「稔麿、元気そうでよかった。」


私の背後から、殺気が漂ってるのは、気のせいですかね?


「吉田、後ろの小太りの斬ってもイイ?」

「ダメに、決まってるでしょ?ったく、沖田は、相変わらずだね。」


血の気が多いと言うか、なんというか……


「それは、どーも。」

「褒めてねぇーよ!」

「………小太りって…」

地味にショックを受ける久坂の周りは、どんよりとした空気が流れる。


そんな、久坂に構うことなく、客間に通して、お茶を出した。


「で?僕に話って?」

「挙兵し、京を守ってはみませんか?」

「挙兵?戦になるの?京が?」


「いいえ。私は、長州のヒメと呼ばれ、長州藩と血判状を結びましたが、長州の方、すべてに、認められた訳ではありません。


薩摩藩の島津久光、福井藩の松平春嶽、宇和島藩の伊達宗城らが京都を離れてる今、脱藩志士、天誅組の残党らが、こんな好機に、大人しくしてる訳無い。

そして、新選組も下関戦争に向かう。


毛利は、牢……。会津も居るけど、藩主不在。

頼れる者が居ないのが、現状です。」


「………。だから、僕に?初めて会ったのに、僕を信用してもいいの?

もしかしたら、僕が、君を認めてない、一人かもしれないのに?」


クスッ

「貴方が初めてでも、私は、存じ上げております。


久坂玄瑞は、長州第一の俊才と吉田松陰が認めた男を、疑う必要は、無いはずです。」


「はは。成る程ね。吉田が惚れるのもわかる。


挙兵、考えてもいい。京って言っても広いからね。ある程度、情報が欲しいかな。」


「それは心得ております。二日時間を頂きたい。それまでに、必要な情報を手に入れてみせます。」


必ず————。


そう言った千夜に、沖田は、不安そうな顔をして千夜を見つめた。


昼は、山崎ら観察方に、不穏な噂がないか調査してもらい、夜は、愛次郎と島原に潜入し調査に当たった。


千夜の予想は的中した。

池田屋で死んでいった志士達の仲間が、誅組の残党と共に————京に、火を放とうと目論んでいた。


おかしな話だ。宮部を殺したのは、天誅組だと言うのに……。


そんな事を隠してまで、京に火を放つ必要があるのか?


後10日で、下関に向かわねばならない。

頼れるのは、長州藩と、西郷、新選組の仲間だけ。


相手の人数が全くわからないのが、現状だ。

歴史が少しずつ変わってしまった。


本当なら、天誅組は、もうバラバラになってしまっている筈なのだ。


一番多い時期で1000人程であったが、今は、どれぐらいの人数が残っているのかすら、不透明。史実なら、禁門の変では、天王山に陣を布く筈。


長州が、会議をした場所が、男山八幡宮。


そこなら、志士達が体を休ませているかもしれない。人数がわからなきゃ、動けない。山崎を連れ、男山八幡宮に、忍び込んだ。


「……。ホンマにおったわ。」


間が抜ける様な声の山崎。志士達が、男山八幡宮に本当に居た。


「烝、仕事だからね。気を引き締めて?」

「俺はいつでも、引き締まっとる!」

「………」


どの口が言うの?


そんな事より、男山八幡宮に居る人数は?


「大体、60人ぐらいだね。」

「これで、全部やないやろ。」


そりゃ、そうだろうね。こんな神社に

大集合した日には、戦の始まりだろうしね。


西本願寺は?

他に、不逞浪士が身を寄せれる場所は、何処か?と頭を動かし、情報を掻き集めた。


大体、掴めた人数は、ざっと200人。

だけど、皆が皆、京に火を放とうとしてる訳じゃないだろう。


新選組、薩摩、長州を合わせれば、それぐらいの人数相手なら、力を合わせれば、何とかなる。


だけど、タイムリミットが、もどかしい。

久坂に挙兵の申し出をしたが、こんな企てを知って仕舞えば、片付けてから、下関に行きたい気持ちが強くなる。


さて、どうしようか……?



闇夜の京の町。

黒装束を身を包む桜色の髪が、ゆらゆらと風に靡く。


手には弓を持ち、狙いをつけ、弓を放つ。


シュッ



スパンッ

奉行所の入り口に一本の矢が突き刺さる。


「曲者か! 出会えっ!出会え~~~!」

「なんだ?どうした?」


奉行所は、大混乱


「矢がっ!」


矢を指差す男。その矢には、文が結びつけられていた。



かなり離れた場所からそれを見下ろす、桜色の髪の女。


「曲者じゃ、ないんだけどね。」


そう言って、闇に消えた。


同様に、所司代にも同じ矢が、同じ夜に見つかった。





前川邸の道場で、いつも通り、朝稽古で汗を流して居たら、


「ちぃ、お前、何したんだ?」


よっちゃんが神妙な面持ちでやってきた。


「ああ、よっちゃんおはよう。」


「おはようじゃねぇ!」


朝会ったら、おはようだよね?


こんにちは。のが良かった?と、小首を傾げる千夜をみて、はぁ。っと、土方が溜息を吐いた。


「奉行所と所司代から、不逞浪士捕縛の要請が来たんだよ!」


「仕事なら、別にいいんじゃない?」


グイっと、首元を掴まれる。私は、猫じゃないよ!


「ちょっと来い!」

意味がわからないまま、ズルズル引きずられ、

人目のつかない前川邸の倉庫の近くまで、連行された。


「よっちゃん、痛いって!」

「昨日の夜、お前どこ行ってた?」


えっとー……??

とりあえず、首の手は、外して欲しいんですが。


逃げないようにする為か、首根っこを掴まれたまま、身動きが取れない。


「総ちゃんと、一緒だったよ?」

「総司に、確認しても良いんだな?」

「……………。構わないよ?」


いや。本当は、良くないんだけど。


「土方さーん。」


ゲッ。なんとも間が悪い沖田の登場に、千夜は、逃げようと試みるが、土方の手は、首を掴んだまま離してくれない。


「あれ?何で、ちぃちゃんの首元掴んでるんです?猫と遊びたいなら、アッチに居ましたけど?」


と、親切に、猫のいる方向を指差す沖田。


「誰が、猫と遊びてぇって言ったんだよ!」


「あれ?違ったんですか?じゃあ、さっさと、

その汚い手を離して下さいね?」


「汚くねぇよ!」



「おい、総司。昨日の夜は、ずっと、ちぃと一緒にいたか?」


「………。土方さんって、どんだけ無粋なんですか?そんなに、知りたいんですか?


そーですよね?ちぃちゃんと、何でヤったか、

理由まで、知りたい人ですもんねー。」


「ち、違うっ!俺は、ただ、ちぃと一緒にいたか……確認だ確認!」


「一緒でしたよ?」

それが、何か?


それを聞くと、バッと、首から土方の手が離れた。


「だったら、いいんだ。うん。」

「ちなみに、何があったんですか?」


所司代と奉行所から、不逞浪士の捕縛要請が来たことを話した土方は、用が済んだのか、その場を去って行った。


逃げようとした千夜


「ちぃちゃん。」


ビクッいつもと違う声色で、千夜を呼ぶ沖田の声に、千夜は、身体を停止させた。


「さて、君は、何をしたのかな?」


こわい、こわい……。


まだ、よっちゃんに言った方が……。

いや、どっちも変わらない。








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