血判状
千夜と慶喜は、お偉方が居る部屋に戻り、
また、屯所の話となった。
「屯所が、狭いのはわかった。」
そう、慶喜が納得したように声を出した。
「でしょ?増築って、いい案だと思うんだよね。」
確かにいい案だが、先立つモノがないのは、確か。
「狭いのは、わかってるが、前川邸を買い取れるかもわからないのに、増築の話をしてもな…」
全くもって、その通り。
「馬小屋、建てなきゃだよ?」
頂けるなら、馬は大事。しかも10頭だ。
「屯所に、場所ねぇし…。」
「じゃあ、土地は、必要だよね?」
馬の数は、別に、どうでもいいのだ。
多ければ、多いほど、馬の置ける場所が無くなる。千夜の狙いは、そこにある。前川邸の横の広い空き地。そこを手に入れ、馬小屋を建てる。それが、ケイキや松平が、贈った物ならば、新選組は、手放さない。
贈ってくれなくても、千夜が、勝手に建てて、
名前だけ借りてしまえばいい。そうすれば、
————屯所移転は、しなくなる。
八木邸、前川邸、広い空き地。
その三つでも、西本願寺の土地よりは狭いが
隊士が暮らす分には、申し分はない広さが確保できる。
ついでに、馬も手に入れば、幹部隊士が乗れるし、新選組には、いい事尽くし。
前川邸が、買えなくても、今、住み着いてるんだから、後々に手に入れたって、いい事だし、
繋げれるように建てちゃえばいいだけ。
「まぁ、頂けるなら、馬小屋は無いとなぁ。」
困るに決まっている。馬を野晒しにする訳にはいかない。
「俺が出すよ。土地と馬小屋。両方引き受けた。」
ニコッと、笑った千夜
「いや、俺も出します。新選組は会津お預かりだからね。」
ケイキは、ともかく容保まで出してくれるとは……。
「ありがとうございます。」
頭を下げるしかない。
これで、屯所移転問題を起こさずに済む。山南さんは、追い込まれない。伊東甲子太郎が、来たとしても…————大丈夫。
どんなことがあっても、誰一人、失しないたくない……。ただの、ワガママと、言われても、手段なんか、選んでいられない。
山南さんも、平ちゃんも、新選組には、いや。私自身もにとっても、 必要な人たちだから。
伊東甲子太郎。この世界のあいつも、同じなのだろうか?男を思い出し、ブルッと身震いした。考えないどこう。まだ、その時じゃない。
「でさ、みんな揃って、来る必要あったのかな?」
今頃、そんな事を聞く千夜に、皆呆れ顏を見せる。
「本当、礼儀正しい娘だな。」
ジロッと、土方を見るケイキ。
「褒めても何もでないよ?」
はぁーっと、男達が、ため息をつく。
嫌味だよ!嫌味!誰か、教えてやれと皆が思った。
「初めに言っただろ?お前に、政をやらせたいと。」
「でも、みんなで来る必要は……?」
ないよね?
「長州は、君に力を貸すっていったよね?」
「言ったけど、あれは、京に火をつけないって事だけでしょ?」
「はぁ、君さ藩主が、日本を一つにする。って言ったんだよ?そんな事を、命懸けでやってる人は、日本に、一人しか居ないでしょ?」
「………誰?」
この子、本当はバカなんじゃない?
「千夜、君だよ!」
別に、命はかけては、ないと思うけど…?
「長州はね、正式に君に力を貸すよ。全力でね。」
「藩ごとって事?力、貸してくれるの?」
びっくりし過ぎて、信じられないんだけど!
「血判状でも作る?長州は、本気だし、俺も、そうしたい。」
「私、個人と?」
「そうだね。新選組と同盟でも構わないけど、個人のがいいかな…」
私個人と……血判状……
「何故、個人なのですか?」
山南が、疑問に思い桂に尋ねた
「決まってるでしょ?千夜を、死なせない様にする為だよ。
この子、何でも、突っ込んで行くからね。自分の命は、二の次だし、新選組を信じてない訳じゃないけど、そちらにも、有効に働くかと…」
千夜の行動を見れば、近藤、山南、土方も頷けた。
「では、他の方も千夜と?」
「薩摩も力を貸す。」
「俺も力貸すきに。」
西郷と坂本までも千夜に力を貸すと言ってくれる。
こんなに、嬉しい事はない。流れた涙は、嬉し涙。
その後、長州、薩摩、坂本龍馬と血判状を結んだ。
「これで、千夜は死ねない。」
「死ぬつもりは、ないんだけど?」
「君ね、戦地に何も考えずに、いつも突っ込んでいくでしょうが!池田屋だってそうだったでしょ?見てるコッチの身になってよ!」
桂に、怒られたし…
千夜は、ケイキを見てニコッと笑った。
「私は、貴方方の力は、まだ、借りる資格がありません。」
ここで、一緒に血判状を貰えれば、国は一つ……だけど、それは違う。
「椿、君は、まだ幕府を恨んでるの?」
「いいえ。恨んだ事は無いとは、言えない。
だけど、今、血判状を貰っても、私は嬉しくとも、何ともない。」
「ちぃ、何で、だって、あんなに日本を一つにしたがってただろ?幕府を味方に出来れば、それこそ、無敵じゃねぇのか?」
「ケイキとケイちゃんが、認めてるのは、徳川椿の血であって、日本を一つにしたいと願う芹沢千夜を認めた訳じゃない。
それは、血縁だけの情けで、今、結んだ血判状と、天と地との差があるんだよ。」
「椿……。」
「今、血判したら楽だよ。とってもね、だけど、それじゃあ、私を認めてくれた人に対して、失礼じゃない?
認められるかなんてわからない。認められる自信なんか無い。でも、私はね、芹沢千夜だから。血縁だけの情けは、欲しくないんだよ。」
それは、きっと、誰も選ばない選択。
楽な方が、いいに決まっている。騙そうが、今、血判状をもらった方が動きやすい。だけど、千夜は、それをしない。
認めてくれるか、なんて、わからない。それでも、芹沢千夜じゃなくとも日本を一つにしたいと、思ってくれなきゃ意味が無いと、そう、考えているから。




