お偉方の訪問
千夜は、せっせと罰である掃除をした。
罰っていっても、最近やってなかっただけで、前は、やってた事だ。
これ、罰でいいのかな?って、思ってしまうほどの罰。
そして、夜になり、総ちゃんは、巡察へと出かけて行った。
今日は、凰牙に、お別れをすると決めていた。
庭に出て、チョコンと待ってる凰牙に手を伸ばせば、バサッと、翼を広げ腕に舞い降りる。
しばらく、餌をやったり、撫でたり、たまに本気で突かれたが、それも、多分いい思い出になるんだろうな。きっと。
「凰牙、もう、私は貴方を呼ばない。
ありがとう。私を支えてくれて…
ありがとう。この世界でも、力を貸してくれて
本当に…ありがとね。」
キィっと首を傾げる白い鷹。
見つけた時は、灰色で、怪我をしていた凰牙。
警戒して、傷だらけになりながら看病した。
怖くて、泣きながら……。でも、助けたい気持ちのが強くて、必死だった。
飛べなくても、必死に羽を動かす凰牙が、飛べた時は、本当に嬉しくて、森に返した時は、ずっと泣いてたな…私。
「凰牙が居たから、命の大切さを知った。守りたいと、助けたいと、そんな事を考えた事もなかった。守りきったその先の喜びを、貴方が教えてくれた。ありがとう……。」
そっと、凰牙を抱きしめる様に覆う。
「バイバイ。凰牙。安全な場所で、幸せにね。」
首を傾げ、千夜を見て、キィーキィーと鳴きながら、千夜の腕から飛び立った、白い大きな鷹。
その姿を、見えなくなるまで見送り、涙をながした。
沖田が巡察から帰った時、千夜はまだ、庭に居た。
随分前に流した涙の跡が、頬に残ったまま、空を見上げて、佇んでいた。
「ただいま。」
「おかえり。総ちゃん。」
クルッと、こちらを向き、笑う彼女。
「お別れ……、したんだね。」
「うん。」
ただ、黙って沖田も空を見上げた。そこには、白い鷹は居ないけど、綺麗な星空が慰めてくれてるような、そんな気がした。
次の日、屯所が、とてつもなく騒がしい。
ドタバタドタバタ……
「何事?」
「ちぃ!大変や!ケイキ公が、屯所に来た!」
「…………あ、そう。」
「…………。ちょっとは、驚けや!」
そんな事を言われても、あいつは何処にでも、現れるじゃないか。
「ケイキ公だけじゃないんよ!!桂、坂本、西郷、松平容保公まで、屯所に来とるんよ!」
「…………。なんで、それ早く言わないの!」
「言っとるやろが!」
千夜は、ドタバタと客間に急ぐ。袴姿のまま……。
スパンッ
「………あ。」やってしまった。
無言で見ないで頂きたい。
ちょっと、乱暴に、襖を開けてしまっただけでは無いか。
「ごめんなさい。」
「……何してんだよ。」
全くです。お偉方の前で、なんたる失態。
気をとり直し、客人に向き合う。
よっちゃんと近藤さん、山南さんは、緊張の面持ちのままだ。
山崎が、お茶を配る中、部屋の空気の重さに耐えかねた千夜が口を開いた。
「えっと?皆さんお揃いで、私に、ご用ですかね?」
「下関に行くのが決まったから、出動要請を出しにな。」と、ケイキ。
「じゃあ、幕府も行くって事で、いいんだよね?」
「ああ。」
「えっと……?」
なんなの?この組み合わせは!
「ケイキ、ケイちゃんはなんで来たの?」
「お前、いい加減、その呼び方をやめろ!
————容保だ。」
松平容保、幼名が、けいのすけ。だから、ケイちゃん。
「ちぃ!容保公を!」
「あのね、松平容保公はね、一応は、縁者なんだよね。」
「「「はぁ?」」」
「そうだな。縁者と言えばそうなるな。実父、水戸9代藩主・徳川斉昭と、会津8代藩主・松平容敬は父親同士が兄弟の為、従兄弟だ。
俺と徳川慶勝も従兄弟になるな」
容保は、側室の子だがな。
「……」
「……」
「……」
知らないよね。そんな事。
「で? 何しに来たの?」
と、千夜は、慶喜に尋ねた。
慶喜に変わり、容保が彼女を見て、口を開いた。
「お前に、政をやらせたい。」
「は?何?突然……。」
「長州藩主がな、昨日、頭を下げに来た。
今一度、長州を信じて頂きたいと、一度で分かってもらうつもりはない。斬り捨てたかったら、斬り捨てて構わない。日本を一つにする為に、それが、今、自分に出来る精一杯の事だと……。」
そう説明した、慶喜。
毛利が、頭を下げた?桂を、見たら、深く頷いた。
「お前が、動かしたんだ。毛利を。」
「長州は、どうなるの?」
「一時、休戦だ。頭を下げに来たのに、こちらから攻撃する気はない。毛利は、一時牢だがな。」
「それは、京に居たから?」
「ああ。」
「こればっかは、決まりだから許せ。」
「殺さないで。絶対。毛利を殺せば、長州のヒメも、黙ってはない。」
自分の思いを受け入れてくれた毛利を殺されれば、自分も幕府を許せない。
「心得た。」
桂を見たら
「藩主は、お前が、欲しかった平和と新たな世を作るために、自ら決めたんだ。死ぬ覚悟でな。」
死ぬ覚悟で。……私は、それに、こたえなきゃいけない。
「政ごとの件は、下関が終わってからで宜しいですか?私は、新選組の副長助勤ですから、上司の意見も聞かねばなりません。」
肩身が狭い新選組の局長達。
ジッと見られれば、自分達よりお偉方だから背筋が自然とのびる。
「構わん。」
松平容保公を通せばいいだけなのに
そうしないのは、新選組が千夜の居場所だと
ケイキが、わかっているからだろう。
「おんし、まっこと凄いな」
「なにが?」
脱力しそうになる男達。
「下関は、この面子で行くの?」
「俺は行けん。」
「西郷さん、いけないの?」
「すまんな千夜。」
「大丈夫だけど、ケイキは、留守番だよね?」
「行く。」
「ダメ。ケイちゃん来るならいいよ。」
「だから、椿、俺は容保!」
「俺も、ケイちゃんだ。」
確かに……。
「ダメだよ?仕事して。」
「仕事だわ!」
下関戦争は、負け戦。ケイキを連れてくのは、危険。
「龍馬は、言わなくても来るよね?」
「おんし、俺の扱い酷い。」
「え?だって、龍馬、異国に興味あるでしょ?」
「あるに決まっちゅう」
決まってはないけども。
「桂は、留守番ね。」
「俺は決定なんだね。理由くらい聞かせて。」
「桂、お前は、孝明天皇と京の町を守れ。
長州はもう挙兵はしない。
それでも、毛利が居ない長州藩邸を任せれるのはお前だけだ。
京に、何かあれば、新選組と守ってくれないか?」
「……」
「近藤さん、宜しいですか?」
「あぁ。構わない。」
「わかった。」
新選組は、後からメンバー決めればいいけど、
「よっちゃん、中村は連れて来たい。」
「中村?」
「異国語が、出来るから。」
「あー。わかった。」
「で、ケイキは留守番ね。」
「俺も行くって言ってるだろう。」
「………マジで?」
「心底嫌そうな顔をするな!」
だって……。
「言っとくけど、負け戦だよ?
連合国は強いし、目的は、攘夷の無意味を知る事だし、此処にいる人に死なれたら困るんだよね。」
「椿、お前も死んだら困るんだ。」
……
「お前、死ぬ気やないやろな?」
「烝、いたんだ。」
ガツンッ
「いたわ!ボケ!」
「山崎、お前、死にたいのか?」
ケイキが怒った
「死にとうありません。」
烝ギロッと睨まれたし、私、悪くないよ?




