逢引の続き
長州藩邸に行くとは、思わなかったが、どっちに転ぼうと、私は、戦うしかない。
下関まで船を使えば、10日程で着ける。かなりハードだが……。
挙兵など、望みはしない。でも、それが、長州の誇りなら、本当に、止める事は、出来ないのだ。
もし、敵対する様な事があるとしても、
長州のヒメでも、私は、新選組の隊士として、長州と戦わねばいけない。
はぁ。
「ちぃちゃん、僕と一緒なのに、ため息は禁止。」
「ごめん。」
「嘘だよ。さぁ、気を取り直して、逢引の続きね?」
「総ちゃん、何処に行くの?」
さっきから、たくさん歩いたが、目的地には、着かない。
「へへ。いいところ。」
すごい笑顔で、言われたけどね、全く答えになってないからね?
もう日も傾き、空が茜色になった時、一軒の店の前に私達は、到着した。
「総ちゃん……?ここ、宿屋だよね?」
「そうだよ?」
それが何か?と言わん限りの沖田。
「屯所、帰らないとだよね?」
「帰らないよ?だって、今日は、泊まりだもん。」
………泊まりだもんって……
「と、泊まり?」
「そうだよ。ほら、中入るよ~~。」
戸惑う千夜の背をグイグイ押す、満面の笑みの沖田。
部屋に入って、そのまま、立ち竦む千夜。
広い畳の部屋、お風呂が備え付けられてる
「……すごい。」
「ちぃちゃん、気に入った?」
「………うん。」
これ、かなりのお値段の宿だよね?
お風呂備え付けって滅多にないよ?この時代。
しかも、お風呂から空見える。
露天風呂じゃないし、なんて、言うんだろうか?
中庭が日本庭園だし、屯所の中庭とは別物だ。当たり前だけど…
「お風呂から、星見えるんだって。一緒に入ろうね。」
「えっと、泊まっていいの?」
「許可貰ったから大丈夫だよ。」
許可って、出かける許可じゃなかったんだ。
でも、贈り物やお泊まり、今日は、なんかあったっけ?
部屋に佇む千夜。
そっと、沖田が後ろから抱きしめる。部屋は個室だし、二人きりな訳で、
「ちぃちゃん。」
甘ったるい、その声の後、
「今日は、何の日でしょう?」
さっきから考えてるけど、わからない。
今日は、6月28日。ニワトリの日らしいが、全くもって関係ない。必死になって考えるが、やはり、わからない。
「クスッ。冗談だよ。あのね、ちぃちゃんが7月に、生まれた月って聞いたからね、本当は7月に此処に来たかったんだけど。」
この時代に、誕生日なんてない。
年の初めに、一つ年をとるものだ。つまり、誕生日なんて祝わない。
「お祝い?」
「そうだよ?ちぃちゃんと、恋仲になれたし、
まだ、病は治ってないけど、ちょっと、早い快気祝いもかねて。
どうしても、来たかったんだ。君と、二人で。」
誕生日なんて、祝ってもらった事ない。ものすごく嬉しい。
総ちゃんは、7月に禁門の変も下関戦争もあるのは知ってる。だから、今日、此処に、連れ出してくれたんだ。
彼女の目から流れ落ちる涙。沖田は、それをそっと、指で拭う。
「その涙は、悲しいから?」
「…違う…。嬉しくて。」
「だったら、よかった。」
そっと、瞼に、唇が降ってくる。
その後、一緒に、ごはんを食べて、一緒に、お風呂に入った。
見上げる夜空は、いつか一人で見たような
————凄く綺麗な星空。
ただ、隣には、彼が居て、あの時、感じた暗闇は、————全く感じない。
貴方が、いるだけで、全く違うように、世界は見える————…
側に、いたいと、彼と共に、生きたいと、強く、強く感じた。抱きしめられ、布団に沈む身体。互いの手を握りしながら、二人は、半月ぶりに、明け方まで、愛を確かめ合った。
翌朝……。
身体中痛む千夜。まだ、布団に横になっていた、沖田を睨まずにいられない。
「ちぃちゃん、誘ってるの?」
誘ってる訳ない。誰のせいで、身体が、痛むと思ってる!なんて、言えない。
身の危険を感じ、逃げ様と布団からの脱出を試みるが、アッサリと沖田の腕の中に逆戻り。
「僕から、逃げれないよ?」
わかってますが……
「………。総ちゃん、着替えよ?」
「ダメ。」
ダメじゃない!
「屯所に帰らないとでしょ?」
「ヤダよ。」
どこの御宅の子供?
「千夜の声、屯所じゃ、聞けないから。」
「声って?話してるじゃん。」
「…………。はぁ。甘い声だよ。」
「…………。知らない。」
やっと、理解したのか、ふいっと沖田から目を背ける千夜。
「もう一回だけ、聞かせてよ。」
もう一回、もう一回と、何回も言われたんだけど!?
それでも、彼の目を見てしまうと、受け入れてしまう。唇を奪われれば、舌まで絡めて、彼を感じたいと、もっと、もっと、と求めてしまう。
甘い声も、恥ずかしいと思いながらも出てしまう。
いやらしい水音が室内に響いても、彼の手は、止まらない。触れられる場所が、熱を帯び、快楽となる。声を出すたびに、彼は、満足そう。
本当に、逃げられない。
彼が、居なければ、私は、きっと、生きていけないほど、溺れてしまっている————…
また来ようね。と、約束をして、二人は、仲良く屯所に帰った。が……
「馬鹿野郎ぉーー! !」
屯所に響いた怒鳴り声。
誰か、言わなくても、わかっていただけるはず。鬼の形相の土方である。
「総司、テメェ!約束が違うだろうが!」
その約束が全くわからない千夜は、キョトンとするしかない。
ニコニコ笑顔な沖田は、とっても、ご機嫌がいいらしい。土方の言葉なんか、聞いちゃいないだろう。
約束とは何か?と聞いたら、朝稽古は、参加するという約束で外泊を許可したらしい。渋々。
朝稽古って、もうとっくに終わってます。
もうすぐ、巡察の時間。要は、もう昼も過ぎてしまっているのだ。
「総ちゃん!」
ついつい怒ってしまった。
「何?ちぃちゃん。まさか、僕だけが悪いなんて、言わないよね?」
う……。それは……。
何も言えないじゃないか。土方は、千夜が黙り込んで、気づく。
「テメェら、朝からやってんじゃねぇ!」
「しょうがないじゃないですか。ちぃちゃんが、可愛いから…」
サラッと、そんな事を言うし……。
「………」
「………」
もうね、総ちゃんの口を縫って、さらに、ミシンでガタガタと、縫い固めてしまいたいよ。
恥ずかしくて仕方ない。
ガシガシと頭を掻いた土方
「テメェら、ちゃんと罰はうけてもらうからな!総司は巡察、昼と夜!ちぃは、屯所の掃除!いいな!」
かなり甘めの罰。
「えー。僕、寝たいんですけど……」
「テメェ、散々寝てきたんだろうが!」
「いいえ?ちぃちゃん、離してくれなくて…」
「うるせぇ!いいか?総司、罰を受けなかったら外泊は、ずっとナシだ!」
そんなぁー!という、沖田の声が屯所中に響いた。




