逢引——弐
「ちぃちゃんは、ただでさえ、モテるんだから、僕だって、嫉妬ばっかだよ」
「嫉妬……?」
「……………。まさか、嫉妬を知らないとか言わないよね?」
「言葉は、知ってるけど?」
………。知らないって事じゃん。
んーっと、沖田は考える。
「土方さんが、女の人とお付き合いしてたら?」
「別に、よっちゃんが幸せなら構わないよ。」
質問が、悪かった。
「じゃあ、僕が、違う女のコと一緒に居たら?」
「………総ちゃんが幸せなら…。」
構わないとは、言えない。
「でも、そうなっても、仲間でしょ?」
「仲間でも、こうして、二人で出掛ける事も、抱きしめる事も、もし、ちぃちゃん以外の女の子を好きになって、恋仲になったらしないよ。」
………それは…嫌だ……
黙ってしまった千夜。その表情は、てても悲しそうだった。
嫉妬を教える為に、少し意地悪く言ってしまった。まだ、心の傷は癒えてるようで、癒えてはいない。
ぎゅーっと、不安そうな顔をした彼女を抱きしめる。
「ごめん、少し意地悪した。こんなに、落ち込むと思わなかったから。
僕が、ちぃちゃん以外を好きになるなんてあり得ないから、大丈夫だよ。」
「……嘘?」
嘘でもないんだけども。
「でも、ちょっと嬉しい。」
えっと、全く、何を言ってるのか理解出来ないんですが……?
「ちぃちゃんが、僕の事、傷ついちゃうぐらい好きって事でしょ?」
好きだけど、どこらへんで喜んだのかが、わからない。
「好きだよ。好きだけど、結局、嫉妬って何な訳?」
「んー?自分より優れた人をねたむこと。
自分が、愛する人の愛情が、自分以外の人に向けられるのを恨み憎むこと。
自分にとって重要な人やものが他者に奪われる不安、恐怖により引き起こされる感情。
それが”嫉妬”」
「じゃあ、今、私、嫉妬してたの?」
「聞く事じゃないけど、そうなるね。」
「嫉妬って怖いね。」
「なんで?僕は嬉しかったよ。」
「嫉妬される側はね、そうかもだけど
する側は、相手殺しちゃいそうじゃん。」
「ちぃちゃん?まさか、僕殺そうとしてないよね?」
「………。嫉妬って怖い。」
「答えてよ!」
「世の中、知らない方がいいこともあるよ?」
絶対、さっき、僕を抹殺しようとしたよね?この子……。
ちぃちゃんに、嫉妬を覚えさせるのは早かった。うん。
で、多分僕、遊女なんか買ったら、即、死ねる。
覚えておこう。
「ここね、なんとなく、多摩川に似てると思ってね、ちぃちゃんを連れてきたかったんだ。」
まさか、一度来てたなんて思わなかったけど。
と、沖田は、川を見ながら言った。
「あの時は、全く見えなかった。川だとわかったけど、こんなに、綺麗な場所だったなんて知らなかったよ。」
ありがとう。
フワっと、笑う彼女。
そんな、綺麗な笑顔を見せられたら、
抱きしめられずには居られず、再度、腕に力を入れ抱きしめ直した。
閉じ込めてしまいたいぐらい、
————愛おしい
その後、また二人で町をブラブラする。
総ちゃん、どこ行きたいんだろう?
色々回ったし、小物屋さんだったり、古着屋さんだったり京で暮らしてたけど、こんなにゆっくり、町を見て回った事はない。
何気無く、歩く砂利を見ながら、砂利道ですら、平成では、珍しい。全部、コンクリートで固められてしまっているから。
古いものは、新しく、それは、全ていい事では無い。日本の良き文化は、残すべき……。
「……ねぇ、ちぃちゃん?」
いけない。また、ボーっとしてしまった。
「総ちゃん、どうしたの?」
立ち止まって、何処かを見ながら話す沖田に、首をかしげる。
「僕ね、気になるものを、見つけちゃった。」
何が?と沖田の見つめる方向を見たら、
男が、三歩歩いては、方向を変え、また三歩歩いての繰り返し。行ったり来たり。その言葉がピッタリだ。
「………。何してんの?あの人。」
呆れた沖田の声。
「さぁ?」
立ち止まってしまったのは、知ってる人だからだけども、声をかけるべきだろうか?と、躊躇する二人。
何してるかなんか、私に、わかるわけない。見てしまった以上、放置は出来ず、
「桂、君こんなとこで、何、ウロウロしてるの?斬られるよ?」僕に……ボソ。
どうにも気になったらしい沖田が声をかけた。
最後ボソっと言った言葉は、千夜には聞こえなかったが、行ったり来たりした人物がこちらを向いた。
「千夜!ちょうどいいところに!」
「………。僕は無視なわけ?」
「あぁ、沖田、とりあえず一緒に来て。」
「「はぁ? ! !」」
焦った桂に、ズルズル引きずられ、ついた先は、
「…長州藩邸……」
客間に通され、お茶まで出されたが、何事?
わけがわからない。
「逢引の最中に、邪魔するなんて、信じられない。」と、沖田。
「ごめん、ごめん。ちょっと問題があってね。
どうしようか、迷ってたんだよ。」
桂も、千夜の病が酷かったのは知っていたから
伝えるかどうか、あんな道端で、悩んでたらしい。かなり目立ってたのは、本人は、気付いていないのだろう。
「桂、何があった?」
「千夜が言ってた、禁門の変が、
————起こってしまうかもしれない。」




