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浅葱色を求めて…  作者: 結月澪
半年ぶりに帰った屯所
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薬と副作用


土方さんと、少し話してから、夕餉を食べる為に広間に向かった。


「いただきます。」


で、いつも通り始まった、夕餉の時間。

ガヤガヤと、相変わらず、騒がしい。


「新ぱっつあん、俺のオカズ取んなよ!」

「ああ?聞こえねーな。」

「絶対、きこえてんだろ!」


「テメェら、飯ぐらい静かに食えねーのか!」


土方さんの怒鳴り声なんて、幹部隊士は、聴き慣れている。


「だってよー新ぱっつあんが、オカズとったの土方さんも見ただろ?なあ?」


同意を求める平助に、ガコンッっと、拳骨が落ちた。


「うるせーんだよ。」

「痛って———!俺、悪くないじゃん。」


まだ、言ってる藤堂。


で、結局、ちぃちゃんから、オカズをわけてもらってるし、全く……。


ちぃちゃんも、あげてしまうから、どれだけ食べたのか、全くわからない。頼れるのは、山崎君の目視だけである。


山崎の近くに、歩み寄り、

「山崎君、ちぃちゃん、今日は?」

どれだけ食べた?と、尋ねれば、


「二、三口。ごはんと味噌汁飲んだだけや。」


……全然食べてない……


「………。沖田さん、後でちょっとええか?ちぃの事で。」


「わかった。」


ちぃちゃんの事って、なんだろう?


自分の席に戻り、中断していた夕餉を食べ進める。はっきり言って、味なんかわからない。

とりあえず、口に詰め込む。そんな感じだ。


ガタっと、音が聞こえて、また、三馬鹿が暴れてると、そちらに視線を向けたら、ちぃちゃんが口に手を当てて、うずくまっていた。


「ちぃちゃん!」


ごはんなんか、どうでもよくて、すぐに駆け寄った。


「ごめん。大丈夫。食べ過ぎちゃったかな。」


ごはんなんか、そんなに食べてないのに、そう言った千夜。そんなにも、食べ物を拒絶してしまうのか?


「千夜さん、ご懐妊?」


平隊士の言葉を聞いて、沖田は、キッと、睨みつけてしまう。


普通なら喜ばしい事でも、その言葉は、ちぃちゃんを深く傷つけるだけ。平隊士になんの悪気なんかない。知らないのだから……。


「馬鹿な事言ってねぇで、さっさと、飯食え!」


土方さんの声に、平隊士は、慌てて、ごはんを食べ始めた。


「部屋、先に戻るね。」

「うん。」


部屋を出て行ってしまったちぃちゃん。


……子供か。


子供は好きだし、ちぃちゃんとの子なら、欲しいに決まってる。だけど、ちぃちゃんが自分を刺さなければ、僕達は、絶対に、出会えなかった。それぐらい、彼女との身分というものが違いすぎるんだ。僕たちは————。




ごはんの後、千夜が居る、自室に一旦戻った沖田。


千夜は、畳の上に壁にもたれかかり座っていた。ただ、ボーっと、遠くを見つめて居る彼女。


話を聞いただけで、心の病を取り除いてあげれないのは、わかってる。


「ちぃちゃん、僕、用事があるから、少し待っててね。」


「うん。」


戻ったばかりの部屋を出て、山崎の部屋に、向かった。ちぃちゃんの話を聞くために。




「で?ちぃちゃんの話って?」


山崎の部屋に来て、腰を落ち着かせたところで

沖田は山崎を見てそう言った。


「ちぃはな、平成の世で言う”鬱病”や。」


………


「鬱病?」


名前を言われても、知らない病。


「抑うつ気分、意欲・興味・精神活動の低下、焦燥しょうそう、食欲低下、不眠。そういう症状が出るんやて。」


「ごめん。…しょうそうって…何?」

「イライラしたり、焦る事や。」


「症状は、ほとんど合ってる。でも、どうやって治したら。」


「ちぃは、薬、持ってるはずや。」


「え?」


「医学書に載った病気はな、ほとんど、ちぃが、かかったりした病や。もちろん、松本良順先生のとこで診た患者の記録もあるやろけどな。けど、この鬱病ってのは日付が、平成になっとる。」


医学書に書かれた場所を見せながら、山崎は言った。


「松本先生は、生きてない?」


その通り。と、言わん限りにニコっと笑った山崎


「松本先生が死んでからは、ちぃは、自分の手に入れた薬を書き記しとる。

ちぃは、認めたくないんよ。自分が鬱病やと。

誰でもなるんよ。

隊務したないとか、今日は、出かけたないとか、そんなんの寄せ集めみたいな病。


少し、心疲れてしもうただけや。

ちぃは、強いねん。そんな病になんか殺されん。」


あんな弱ってるのに?

ちぃちゃんを強いという山崎君


「でも、薬飲まないと、いけないんでしょ?」


「見とってみぃ。ちぃは、必ず足掻き出す。

此処まで、必死やってん。最後まで、あいつは何があっても諦めん。新選組がある限り、あいつは、死なん。」



「どうして、そんな事、言えるの?あんなに、弱ってるのに!」


「あいつは、芹沢鴨の意志をついだんよ。新選組の土台となった男の意志を————。

生半可な気持ちで、継いだんやないんよ。

ちぃの覚悟は、病なんかに、負けたらいかんのや!見てるのは辛いやろ?苦しいやろ?


でもな、ちぃは、もっと、もっと、苦しいねん!

もっと前から、誰かに助けて貰いたかってん。

それを一人で抱え込んだから、今の状態になってしまったんよ!」


「…山崎君……」


「俺かて、ちぃが好きや。沖田さんがおろうが、自分の気持ちはどうにもでけへん。


守ってやりたいし、あいつの為なら命だってくれてやる。それは変わらん。


ちぃは、必ずかえってくる。もう少しだけ、ちぃを信じて待って欲しいねん。ちぃを休ませてやって欲しい。」


頭を畳に擦り付けるぐらい頭を下げた山崎君。

こんな彼を見たのは、初めてだった。


「ちぃが、戻らんかったら、俺を殺してくれてかまへん。

ちぃは、必ず、足掻きだす。見守ったって?お願いします。」


頭を下げ続ける、山崎君ちぃちゃんの為に土下座をする。


土下座なんて、みっともない。ずっと、そう思っていた。だけど、今は、違うんだ。頭を下げ続ける山崎君が、カッコイイと思ったんだ。


嫌なんて、言えるわけない。早く元気になってもらいたい。早く薬を飲んでもらいたい。


でも、彼が頭を下げてまでお願いするのは、

ちぃちゃんを思っての事。


同じ人を好きになった、彼の願い。ちぃちゃんを悪いようにするわけじゃない 。


「わかったから、頭を上げて?」

「ホンマか?」

バッと起き上がった山崎に、僕、騙されたのかな?と、思う沖田。


ニカッと笑った山崎君を見て、余計にそう思う 。


「いやーよかったわー。」


この人、言ってることはカッコイイと思うのに、どうにも、緊張感というものがない。


「……で、話は終わったんだよね。」

「沖田さん、冷たない?」


はぁ。

「ちぃちゃんの病気を教えてくれて

どーも、ありがとう。山崎君が命をかけなくても、ちぃちゃんは僕が守るから大丈夫です。じゃ。」


「沖田さん!最後以外棒読みやん!」


ヒドイッと声がしたが、さっさと、ちぃちゃんのトコに戻ろうっと。


「沖田さん。もう一つ。」


そんな言葉に、沖田は、足を止めた。


「ちぃは、薬の副作用が怖いんかもしれん。」


山崎は、沖田に、薬の副作用を書き記した紙を渡した。


「ありがとう。」


そう言って、パタンッと、襖は、閉じられた。



「知ってんのや。俺は、ちぃの兄上代わりやったんや。恋仲なん、なれんのなん知ってたんや。帰ってきたかと思ったら、何、病気なんなっとるん?————ど阿呆が!」


今だけ、泣いたってええやろ?

ちぃ。はよ、目覚ませ。お前は、芹沢千夜やろがっ!























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