表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
浅葱色を求めて…  作者: 結月澪
半年ぶりに帰った屯所
154/281

悪化する病

私闘をした、その日のお昼頃、長州の三人が、帰る事になった。


三人の顔には、痣。

池田屋事件の時よりも傷を負った、志士。

屯所の門まで、新選組幹部もお見送った。


「千夜。約束は、必ず果たすよ。」


ジロッと、沖田を見てから、千夜に視線を向けた吉田。


「本当、男の趣味は、どうかと思うけど。ね。

何かされたら、言うんだよ?いつでも、迎えに来てあげるから。」


そう言いながら、千夜を抱きしめる吉田 。我慢、我慢。と、頭で考える沖田。

クスっと、笑う千夜。


「おい、吉田離れろ!俺だって、千夜を抱きしめたい!」


「順番に、やる事じゃないよ。」


まったくもって、その通り


「桂!」


そう言った千夜は、桂に白い腕を伸ばした。

誰もが、彼女が、桂の胸に、飛び込んだ様に見えたに違いない。


「————、頼む。」


桂は、少し驚いた表情を見せて、口角を上げた。


「ちぃちゃん?離れようね?」


ズルズルと桂から、引き離された千夜。


「何、沖田は、慌ててるの? 千夜は、俺に、

長州藩を頼むって言っただけだよ?

一応、長州のヒメなんでね。」


「————え?それだけ?」


本当は、それだけではないが、長州の動向を見て、禁門の変が起きない様に、しなければならない。京に、桂が残るなら託すのは、桂しかいない。


随時連絡が欲しいと、お願いしたのだ。


「そうだよ。」


何故か、シュンっと、項垂れた沖田。少し、可哀想だけど、そのままにしとこう。


「千夜が、居なくなると寂しくなる。」


そう、言いながら、抱きしめてくる高杉。


そっと、離れた温もりは、半年間、一緒に居て、私を支えてくれた、長州藩士。

離れるのは、寂しい。頬を濡らしてしまう程に……


「ほら、千夜泣かない。新選組と敵じゃない世を。」


「日本の夜明けを。」


「約束する。なんたって、長州のヒメだからな!」


「————ありがとう。

力を貸してくれて。本当に、ありがとう。私の戯言を真剣に、聞いてくれて。

桂、高杉、稔麿。必ず、いい日本にしよう。」


「「「おう。」」」


「じゃあな。千夜。」


「うん。」


これは、さよならじゃない。だから、笑って見送ろう。


「ご武運を。」


ぐしゃぐしゃ頭を撫でられて、長州藩士達は、千夜に背を向ける。


小さくなっていく背中。三人の姿が見えなくなるまで、千夜は、門の前で見送った。


私には、神も仏も、なにもつかなくて構わない。あの三人を、どうか————御守りください。






長州の3人が去った日から、千夜と、沖田は、同室になった。ボーっと、する事が、日に日に見ててわかる程多くなった。


今も、彼女は、縁側で、僕の膝を枕にして、眠っている。サラサラの桜色の髪を撫でる。


沖田は、労咳の薬を飲み出し、身体も軽くなって、咳混む事も、赤を吐く事も無くなった。


なのに、ちぃちゃんが……

「沖田さん、ちぃは、ごはん食べれた?」


声が聞こえた方向を見れば、山崎の姿。


沖田は、千夜を起こさない様に、山崎君に首を横に振る。ちぃちゃんは、ごはんを食べても、吐き戻してしまう。


どれだけ動いても、食欲は、落ちていく一方。

それでも、彼女が隊務を休む事は無かった。


睡眠薬に強い、ちぃちゃんは、夜、寝るのも、ままならない。いつも、夜中に、白い鷹を見上げ、たまに、白い鷹を腕に乗せ、夜を過ごす。


山崎は、千夜の脈をみて、少し痩せた頬に、触れた。


「また、様子見に来るわ。」


そう言って、山崎は、去ってしまった。何もできない、もどかしさ。再び、沖田は、彼女の頭を撫でる。


まだ、桂達が、去ってから、半月も経って無いのに、僕だけ、元気になっても、嬉しくない。


少し、土方さんに用事があって、副長室を訪ねれば、

「総司、ちぃは?」

何度も聞かれる、ちぃちゃんの容態。

何も変わらない状況に、説明するのも嫌になる。

「変わりませんよ。何もね。」

そう、言うしかない。


副長室にいる時間も、少なくなった。ちぃちゃんは、そこに、居ないから。


部屋に戻る途中で、桜色の髪を見つけた。


「何してるの?」


僕の声に、少し驚いた様子で、振り返ったちぃちゃん。まるで、いたずらをしている、子供みたいに、見つかっちゃった。って顔をする。


「餌を、探してたんだけどね。」

「凰牙だっけ?あの、白い鷹の餌?」

「そう。」


歩み寄っていけば、本当に、地面を掘ってたらしい。中庭の至る所に、掘った形跡があった。


「なんか、平隊士が前に、魚釣りに行ったみたいで、ここ掘ったらしくて、何にもいない。」


「まだ探す?」


首を横に振った千夜


「凰牙は、狩りで餌捕まえられるから。いけないんだよね、もう、森に返したのに私の都合で呼んだら、さ。」


寂しそうに、そう言う彼女を僕は、抱きしめてあげる事しかできない。


「もう、凰牙を自由にしなきゃね。」


彼女の背負ったものを無くす事は、不可能。

だけど、それを軽く出来るのは、

————僕しか居ない。




「僕が、側にいるよ。

もう、一人で抱えこまないで?君の背負ってるモノを、僕にも、背負わさせてよ。僕ね、ずっと君に、負けたくなかった。君に追いつきたい、追い越したい。そればっかりで、世の中の事なんて知らないし、先のことなんか、考えた事もない。

ただ、自分のことだけ、考えて生きてたんだよ。でも、それは逃げてただけなんだよ。

世の中っていう、たくさんの人から。

君が、気付かせてくれた。」


私は、何もしてないのに……


「君の生き方に、憧れた。

仲間の為に、命をかけてもいいと、組の為に、僕達の為に、いつも君は、考えてくれてる。

本当は、怖くて堪らないのに、間違った事は、間違ってるっていう君を本当に凄いと思った。


君と、新たな世を見てみたい。


君の目指す日本に、僕は君と立ちたい。

だから、僕にも手伝わせて?

千夜と共に、新たな世をつくりたいんだ。」


「……総、ちゃん。」

「だから、もう、苦しまなくていい。僕も一緒に、千夜の力になるよ。」


苦しいぐらい強く、抱きしめられた。






































評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ