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浅葱色を求めて…  作者: 結月澪
半年ぶりに帰った屯所
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追いかけ居た背中

着替えが終わって、重い足取りの千夜は、

皆がいる部屋へと足を向けた。


「千夜くん。」


目の前に現れたのは、井上


「源さん?どうしたんですか?」


「屯所に帰るよ。」

「え?でも……。」


あの方々は、ほっといて大丈夫なの?


「局長命令でね、明日、私闘をする事に決まったんだ。」

「 私闘って、それは、切腹なんじゃ?」


局長命令って、どういう事ですか?


「男には、戦わなくちゃいけない時もあるんだよ。」


全くもって、わからない。


「まぁまぁ、君は、心配しなくても大丈夫ですから。」


そう言われ、屯所に帰るしか、なかった。



次の日の朝


「源さん、どこいらへんが、心配しなくても、大丈夫?」


目の前で繰り広げられる私闘に、ただただ絶句した。木刀すら床に落ち、素手で戦う男達。

その姿は、何処かの戦場にいるかの様。


ドスッドスッゲシッ


すごい鈍い音が、聞こえてくる……。これ、止めなくていいんですか?と、井上を見る千夜だが……。


「あはは。元気だな。」


そんな呑気な事言ってる場合ですか?源さん。


だから、何が元気?大丈夫でもなんでもない。

頬は腫れ上がってるし、口からは赤いモノがポタポタと髪の毛もボサボサにして


「おお、やっとるな!」


と、現れた近藤に、千夜は駆け寄った。


「近藤さん、どう言う事ですか?何で 私闘なんか。」


「千夜くんの為だ。 みんな、君を好いてるんだと。」


だから私闘?おい……。待て……。それって、勝ったら、どうなるの?


「勝ったら?」

「千夜くんの恋仲になる。」


————私の意思は、どこ行った?


「総司を信じてやれ。」

「黙って見てろと?」

「ああ。」


私闘を続ける男たちに視線を向ける近藤。

「……………」

納得いかないんですが、物凄く。


「はぁ。近藤さん、総ちゃんの事は、信じてますけどね、私も幹部隊士なんです。」


千夜の言葉に近藤は、彼女へと視線を向ける。


「こんな楽しそうな稽古、参加しなくてどうします?」


稽古と言いながら、微笑む千夜に、近藤は、ただ笑った。

男達の元へ、走り出した千夜を止める人は居ない。


「千夜さんは、本当、自分のことは後回しです。」


後ろに感じた平隊士の気配。

彼女は、幹部隊士の私闘を稽古にする為に飛び込んだ。


「ちぃ!何でテメェが!」


叫ぶ土方


「うるさいよ。自分の身ぐらい守れるよーだ。」


と、舌を出し、あっかんべー。をする千夜


「ちぃちゃん!僕の立場がないじゃない!」


聞こえない。聞こえない。


「千夜、手が!」


「手が無かったら、足があるだろうが!なに?怖いの?ってか、何で、桂までいるの?」


桂の姿を見て、そう口にした千夜


「巻き込まれた。」


意外とドジなのね。桂って…………


「とっとと、やるよ!」


ドシッゲシッドンッ

再開された私闘。


「……嘘だろ。千夜に、また負けた。」


声を出した相手を見ながら、ケラケラ笑う永倉


「左之、お前、弱くなったんじゃねぇか?」


「自分だって、千夜の回し蹴りで伸びてたじゃねぇか!」


「なんでだよ!何で、俺負けたの?」


「高杉、テメェは、総司にやられたんだろうが!」


「お前らは、元気がいいな。」


と、素知らぬ顔で言い放つ斎藤に皆の視線は向けられる。


「何、我関せずって顔してんだよ!斎藤、お前一番初めに、千夜にやられたんじゃねぇか!」



ドスッゲシッ鈍い音が響く中庭。


「まだ、やっとるんかい。はいはーい!怪我人はこちらー! !」


山崎の間抜けな声が響く。


「何で、お前、喧嘩に参加しないんだ?」


「はぁ?確かにちぃは好きやけど、ちぃは、沖田さん選んだんやろが。だったら、文句言わんのが男やろ。」


さすが山崎。年配者は語る。ゴロンと転がった藤堂


「くっそー、負けた!しかも総司に! ! 」

「お、魁先生も帰還か…」

「後、誰が残ってんだ?」

「沖田、土方と吉田、 何故か桂……

桂、テメェ巻き込まれた癖に、残ってんじゃねぇ!」


巻き込んだ張本人が文句を言う。自分が負けたから……


ゲシッ


「つ……ったく、本当に女?」

「桂、千夜に負けてやんの。」

「回し蹴りの時、胸が見えて油断した。」


ゴツンッ


「どこ見てんだよ!」

「————!痛い。」


負けた奴らの言葉を聞きながら、千夜は言葉を放った。


「あと三人か。」


土方、吉田、沖田。その三人が、まだ戦っていた。


「ちょっと、ちぃちゃん!僕まで数に入れてる?」


「当たり前でしょうが。強い人と、やり合うから強くなれるんでしょ?」


「……そうだけど…」


千夜も結構ボロボロだ。はぁはぁっと息も荒い。


「ちぃ、お前は、もう下がれ。」

「い、や、だ。」


可愛くねぇ。


「さて、どっちが相手?」

「お前の相手は俺だ。手加減しないからな。ちぃ。」


よっちゃんか。でも、負けないよ。


「勝負だ。ちぃ!」


「おいおい、マジか?土方さん千夜と、ヤル気かよ。」


信じられないといった表情で見る、敗れた者達

土方の拳を腕でかわす千夜


「何で……。」


どうして……総司なんだ…。

未練タラタラの土方。


「よっちゃんは、私に勝てない。いつ死んでもいいと思っているから、生きたいって気持ちが弱いから————。

あんたは、何を見てきた?お前は、誰の背を追っている?」


追っている背は、大きな背で————


「芹沢鴨の背だろうが!」


見開いた土方の目。初めて武士を見た。まじかで、憎いと感じた男をすごいと思わせたのは、千夜だった。


そして、自分が死に追いやった。千夜の義父を

それでも、何か考えるたびに、芹沢鴨ならどう動く?そんな事ばかり考えた。あいつは、死ぬ間際まで、武士だった。


「あいつは、生きたかったんだ!だから、私に止めさせたんだ。自分が間違った事をするのが、嫌だったから。

最後の最後まで、武士で、いたかったんだよ!

お前は、その背を無意識に追いかけてんだろ?

だったら、生きたいって思え!最後の最後まで足掻き続けろ!


それが、私の知ってる


鬼副長 ————土方歳三だ!」



ドカッ


鳩尾に痛みが走る。


あぁ。……負けた…芹沢に……。



「私は、芹沢の意志を継いだんだ!

芹沢の背を見ているだけの、よっちゃんに負けるわけないでしょ。」


「……ああ。完敗だ…」

















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