恋仲
自分の想いを吐き出した千夜は、沖田を置き去りにして、零番組の治療をした。
幸い、野口も死ぬかと思われる様に話していたのに、ケロリとしており、再度胸を撫で下ろした。治療が終わって、自分が真っ赤なのに気づき着替えなきゃと廊下を歩く。
「おはよう。千夜。」
朝から姿を見なかった長州の三人が庭にいた。
「おはよう。どこ行ってたの?」
「宮部に会いにね。」
宮部に会いに行ったというが、表情は暗い。手についた赤は、誰のもの?
「———…亡くなったの?」
「ああ、部屋で滅多刺しに…」
クッ
つまりは、殺された。力を入れてはいけない右手に、無意識に力が入る。
「どうして?」
死ななければいけなかった?
「やったのは、多分天誅組だ。」
「今朝、天誅組と十津川郷士にうちの組の人間が、襲われた……」
それと関係があるのだろうか?
「だからか。」
赤くなった着物を見ながら、桂はそう言った。
「千夜、あいつらは厄介だ。槍隊、鉄砲隊もあるし、身分は郷士や庄屋、神官、僧侶。年齢は13歳から46歳までいて、20歳代の若者が多いからな。新選組に間者として、入ってくるかもしれねぇ。」
高杉が注意を促したが、
「装備は、狭山藩などから
徴発したゲベール銃、槍、刀などで極めて貧弱だよ。松の木で木製の大砲を十数門製作したけど発火せず全く役になんか立たない。要は、見せかけだけだよ。天誅組は。中山忠光は、暗殺された筈なのに…
どうして、今、出てきたんだろう?」
「さすが、千夜だね。中山忠光は、長州藩によって、暗殺。頭が居ない天誅組は、暴徒化したってとこかな。
同じ、尊皇攘夷なのに、悲しい事だよ。」
「吉村虎太郎、松本奎堂、藤本鉄石。が天誅組三総裁もすでに、亡くなってるからね。」
「池内蔵太は、龍馬のあとを継ぐ男だよ。」
今、長州にいるでしょ?
と千夜が言う。
「……蔵太が?」
「慶応二年。長崎から薩摩藩へ、小型帆船・ワイルウェフ号を回航する途中で台風のため難破し、死亡する。享年26。龍馬は、嘆いたって、そう伝わってる。会った事はないけど、この国には必要。
龍馬には、言えないから、まだ長州にいるなら、お前達の仕事でしょ?」
「わかった。」
「任しとけ!」
「……」
任していいのかな?
「暴徒化した天誅組は、厄介だな…」
庭で話をしていたら、怒った様な足音が聞こえ、
「ちぃ!お前は、また! !報告しろって、
いつも、いつも、言ってるだろ!」
ああ。来ちゃった。新八さん達が、報告してくれた筈なのに、なんでそんなに、怒ってんの?
「ちょっと、話ししてただけだって。」
長州の三人に気づいてなかったらしい土方
「ああ、お前ら。今日は宴だと。長州の奴らとってなんか変な感じだが、お前らは嫌いじゃねーからな。」
はっきり言ったら、そんな気分ではない長州の三人
「何処でやる?」
高杉が聞くが、
新選組で宴と言ったら、角屋がお決まりの場所だ。
「角屋だ。」
やっぱりね。
その後、土方に、会津では無く、天誅組と十津川郷士の仕業だったと報告したら、十津川郷士と天誅組は一緒だと、叱られた。
着替えをして、副長室を出た所で山崎に会い、
会津だと勘違いした事を注意し、総ちゃんに、薬を渡して欲しいとお願いした。
手を見てまた、怒られた。ちょっと強く握りしめちゃったからか、傷口が開いてしまったらしい。
治療をしてもらい、少し疲れて縁側で、ボーっとしていた。
背後の気配なんて気付かずに———
「ちぃちゃん。」
声が聞こえたと思ったら、背後から、総ちゃんに抱きしめられた。
「どうしたの?」
いつも通りの声色で、いつも通りに、返事をすれば、短いため息の後
「自分の想いだけ言って、どっか、行っちゃわないでよ。」
何処か悲しそうな声に、抱きしめられた腕の力が強くなった。
「ごめんなさい。」
それしか、言えない。
「僕の側に居てくれるって、言ったでしょ?」
「うん。言った。」
「じゃあ、逃げないで聞いて?」
背後から抱きしめられていて、逃げれないのだが?
この先に、何を言われるのか、怖いから逃げたいのは、本心。
「はい。」
たまに、耳に沖田の息がかかってくすぐったい。
「僕ね、ちぃちゃんが好きなのは、土方さんだと思ってた。」
「はい?」
「黙って聞いてって。お願いだから。」
これでも、緊張してるんだから。
そんなことを言われても、何故に、よっちゃん?
「でね、さっき、ちぃちゃんが大好きって言った時、また、騙されてるのかと思った。」
失礼じゃない?騙してましたって言ってやろうか?人の精一杯の告白を…。
「君が、徳川椿でも芹沢千夜でも長州のヒメでも、僕が、愛したのは君だから。
この世界の千夜じゃなくても、本当に、心から好きなのは、君だけ。
だから、僕と一緒に生きて?」
嬉しくて涙が溢れ出る。
「———僕の恋仲になってください。」
こんな事を言ってくれるとは、思わなかった。
ただ単純に、嬉しかった。
「————はい。」
嬉しくて泣いた事なんか、あっただろうか?
ああ、この人は、確かに沖田総司だ。
貴方は、もっと強くなれる。私が、知ってる貴方より、もっともっと強く、
私の背を押してくれた、貴方なら————
「ありがとう。総ちゃん」
「///…な、何が? 」
何故、照れている?
背後から抱きしめられて、ちゃんと顔見えないけど。
「あの白い煙の中、背中を押してくれたの総ちゃんだよね?」
「あーあ。バレちゃった。」
言ったらダメだったのかな?
はぁ。っとため息をつく沖田
「どうしたの?」
「ん?まだ、信じられない。」
「なにが?」
「ちぃちゃんが、僕の恋仲なんて……」
そう言って、ぎゅっと腕に力を入れる沖田
「本当、信じられない。」
「えっと、嫌なの?」
「なんで、そうなるの?嬉しいんだよ。
ありがとう、僕を選んでくれて。」
クスッと笑った
「大好き。総ちゃんが。」
幸せになる資格なんて無いのに、手に入れた温もりは手放したくない。
大事なものを手に入れたら、失ってしまう事を恐れてしまう。
あんなに女が嫌だったのに、今は、女で良かったと思っている。
貴方という存在が、私の全てを変えていく。
そっと触れるだけのキスに喜びを感じた。
その後、二人は、沖田の部屋に移動した。
お昼寝しようと、千夜が言い出し布団に入ったものの。
……どうしよう…
腕の中の温もりに、顔がニヤける 。
手に入るなんて、思ってなかった。
まさか、恋仲になってくれるとも、考えた事なかった。
桜色の髪をそっと撫でる。
あんなに女が嫌いだったのに、彼女は特別で、
彼女の笑顔が好きで好きで堪らなくて、唯一、守りたいと思った女の子。
その女の子が、僕の腕の中に居る。
「総ちゃんの音、少し早い。」
心音を聞きながら彼女は、そう言った。
「………」
まず、何から、言えばいいんだろう?
好いた人が腕の中に居るのに、平常心を保てる男はいるのか?
「ちぃちゃんも、ドキドキしてるよ? 」
伝わってくる千夜の鼓動
「居なくならないで。」
そう言った時、たまたま視線が交わり
彼女は、顔を背ける。顔を赤らめて……
そんな可愛い事を言われたら、我慢できなくなる。
唇が合わさり、何度も角度を変え、深くお互いを求める。
漏れる彼女の甘い吐息に、唇だけでは足りなくて、首筋に唇を這わせていく。
まだ、日も高いのに、全てを自分のモノにしたくて、一つになった。
何度肌を合わせたか、クタリと眠ってしまった千夜が愛おしくて堪らない。
「千夜、愛してる。」
君が望む世界を僕も見てみたい。
僕は、新選組の刀だけど、君の刀にもなるから、
君が、誰かの為に沢山の名前を持つみたいに
僕も沢山の刀を持つよ。
君を守りたい。だから、僕は、まだ
————死ねないね。
一緒に病を治そう?
僕は、労咳を
君は、心の病を
「共に、生きようね。千夜。」
千夜を抱き寄せ、沖田も眠りについた。




