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浅葱色を求めて…  作者: 結月澪
半年ぶりに帰った屯所
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初めての告白


何も履かずに、千夜は、壬生寺までとにかく走った。壬生寺の境内で、中村らを見つけた時、あたりには、敵らしき人物はいなかった。


「中村!」


「…千夜、さん。」


肩を赤く染め上げた中村の姿に、思わず駆け寄る。しかし、

「俺より、野口が……」


と、野口がいる方を指差す中村。視線をそちらに向ければ、地面を赤色に染め上げる場所に野口は倒れていた。芹沢派と呼ばれても、私についてきてくれた野口。駆け寄り、咄嗟に、脈をはかる。まだ、脈も息もある。


「俺死んだら、芹沢派、千夜さんだけに、なってしまいますから、死ねませんね?」


そんな事を言ってる場所じゃないのに…。そう、薄っすらと笑みを浮かべる野口。テキパキと治療をする千夜。


————出血が多い。

ギュッと晒しを巻きつける千夜の顔は、今にも泣き出してしまいそうであった。


「芹沢局長の鉄扇は、嫌だな…」


あれ、痛いんですよ。


「わかった。野口、今は、喋るな。」


「イヤですよ。千夜さん言ってください。

何時も言ってくれるじゃないですか?」



「お前らは、私の、希望だ。新たな世を一緒に見よう。それまで、死ぬな。

————死ぬんじゃないっ。」


どうしたって、湿った声になってしまう。


「泣いたらダメじゃないですか。せっかく…いい言葉…なのに……これだから……うちの組長は…」


千夜の涙を拭う、野口の手は、赤く、その赤が彼女の顔を汚した。


「おー。いたいた。」


へ?この声、平ちゃん?


振り返れば、平ちゃんと永倉さん、左之さんの姿

「全く、一人で勝手にいくな。」


違う方向から声をかけられた。

「はじめ?」


……どうして?


「あのなー。ちぃ。土方さんだって、平隊士の前で言えねぇだろ?会津なんか斬っちまえなんてよ。」


それはそうだけども


「中村、無事か?」


永倉が中村に歩み寄りながら、心配そうに声をかけた。


「はい。あの、会津って何の話しですか?」


「へ?会津にやられたんだろ?だって、山崎君が……。」

そう言ってたし。


「違いますよ?十津川郷士と天誅組です。」


十津川郷士(とつかわごうし)は、南大和(奈良県)の十津川郷に在住していた郷士集団。


天誅組(てんちゅうぐみ)は、幕末に公卿中山忠光を主将に志士達で構成された尊皇攘夷派の武装集団。


何をしたら、間違える?烝のバカ!全く違うじゃないか!


「天誅組はわかるけど、十津川郷士って?」

「960人ぐらいの郷士集団。」

「は?960人!」


原田が声を荒げる。


会津じゃないのはいいとして、嫌なのに目をつけられたもんだ。


「十津川郷士だけで、960って!天誅組合わせたら、1000にん?」


その通りです。平ちゃん。


「そんな事を言ってる場合か。怪我人を運ぶのが先だ。平助。」


怪我を負った零番組の隊士を連れ、なんとか屯所に帰った。


野口が死ぬかと思った。あんな思い、もうしたくない。屯所の門を潜りながら、野口の様子を見る。永倉の背で眠ってしまった野口

呼吸も安定している。少し、ホッとした千夜に藤堂は口を開く。


「総司がな、一番行きたがってたんだよ。ちぃを捜しに。」


「……総ちゃんが? 」


『僕は、死んじゃうんですよ。』


どうしたら、生きたいって、言ってくれるのだろうか?


「千夜?」


いけない、ボーっとしてしまった


「とりあえず、自室に運んで。野口の部屋で治療する。」


「わかった。」


「俺、土方さんに報告してくるわ。」

原田がそう言うが…


「……お願い。」


気まずい。とてつもなく!


はぁ。絶対怒られる。

千夜を一人残し、みんな行ってしまった。


「これから、どうなっていくんだろうか?」


千夜の知っている史実とは、全く違う歩みをする幕末の歴史。変えてしまった歴史は、新たな悲しみを生むだけかもしれない。死ぬ筈の人間を果たして、生かしてもいいか?なんて、そんな事すら、正解か、不正解か。そんな事すらわからない現状。


いつか、歴史を変えてしまった、シワ寄せが来るかも知れない。


その時、自分は、此処に居て、彼らを助ける事が出来るのか?自分は、この世界にとっては、

————異端の者……。


はぁ。ため息を吐く千夜だが、考えても、どうせ、答えは降っては来ない。だから、考える事を辞めた時、


「ちぃちゃん!」


ビクッ声が聞こえて、肩を揺らした千夜。

ドタドタと走ってきた沖田。


……ビックリするじゃん…


「怪我ありません?右手……傷開いちゃいましたね…」


そっと、手を持ち上げる沖田。傷口を見つめる

悲しそうな顔に、ドキンッと胸が高鳴った。


「……つっ…///」

「あ、ごめん。痛かった?」


そうじゃ無いんだけど。ダメだ。人を意識なんてした事ないけど、頬が熱くなるのを、初めて感じた。


「だ、大丈夫だよ。」

「ちぃちゃん、顔赤い、熱出たんじゃない?」


沖田は、手の傷から、熱を出してしまったと千夜を心配する。


コツンっと、彼のおデコがぶつかった。


//////


ちょっと待って。何?この不意打ち!


「あれ?熱ないね。」


どうしよう……

ドキドキドキドキと、心臓が暴れてる。


蓋をした筈の感情が、少しの隙間から出てこようとする。


「走ったからだよ。」


そんな嘘も許して。

労咳が人にうつして治る病なら、幾らでも、私が貰うのに……


どうして、総ちゃんが、労咳にならなきゃいけないのだろう?私は、どうしたらいいの?


庭で立ち竦む千夜に、

「ちぃちゃん?」沖田は、声をかけた。


視線を彷徨わせる彼女。掴んだ手首から伝わる千夜の鼓動は、少しばかり早い気がする。


赤らめた顔に、…… まさか。ね。


ちぃちゃんが、僕を好きなんて、ありえない。

だって、ちぃちゃんは


土方さんが好きなんだもん。


————ずっと昔から。変わらずに・・・。




「総ちゃん。———江戸に帰ろうか?」


見開いた、沖田の目。


「何を、言ってるの?僕は、近藤さんの為に!」

「近藤さんの為に、道場を継いだらいいじゃない?」

「ちぃちゃんは、死んだ事になってるんだよ?忘れたの?」


忘れてる訳ない。千夜の肩を掴んだ沖田


「なんで…?どうして…?」

「————…疲れちゃった。」


『千夜は、ココロの病なんだよ』


思い出す長州の三人の言葉


……疲れちゃった…


沖田は労咳だし、千夜をたくせれば、それでいいと思った。


だけど、本当は、千夜を離したくないし、誰にも託したくなんてない。自分が守って、自分が幸せにしてあげたい。千夜が自分を好いていれば。だが…


「ちぃちゃん、江戸には帰りたくない。

ちぃちゃんも、諦めたくない。」


そんな宣言を千夜に言っても仕方ないのに、自分の気持ちを素直に言葉にする沖田。


「死んじゃうんでしょ?」


たしかに、自分が言った言葉。


————足掻いてよ! !


屯所を飛び出した時、彼女の言葉を沖田は、思い出す。


「ごめん。取り消させて?生きたい。足掻くから、例え病でも、刀を持って死にたいから

ちぃちゃんと一緒に戦いたい。

ちぃちゃんと一緒に——…生きたい。」


————っ!。言ってくれた。

生きたいと…言って、くれた。


千夜の目から涙が、とめどなく溢れる。


「だから江戸に帰るなんて、言わないで?」


流れる涙を、親指で拭ってくれる沖田。千夜は、江戸に帰る気など、全くなかった。


クスっと笑った千夜を見て、沖田は気付く。


「ちぃちゃん!また、僕をだましたの?」

「正解。」


正解って…と沖田の脱力した声が聞こえた。


「総ちゃん。あ、のね。」


ブスッと不貞腐れたような沖田


「なに?」


返事も何処か投げやり


「大好きだよ。」

「へ?」


急に、キョトンとした沖田を見て、千夜は、クスっと笑う。


別に恋仲になりたいと願ってはいない。ただ、自分の想いは伝えたかった。ずっと、ウジウジしてるのは、らしくないから。


「へ?何?ちぃちゃん?え?」


パニックの沖田


ずっと千夜は、土方が好きなんだと勝手に思っていた沖田


「さて、零番組の治療しに行かなきゃな。」


パニックの沖田を放置する千夜に、開いた口が塞がらない。


「ちょっ!ちぃちゃん!?本当に行っちゃったし…」


このまま放置って、アリなんですか?


「ちぃちゃんが、僕を?」


まだ、信じられない沖田…

さっき赤らめた顔も、早かった鼓動も

自分の所為だとわかると、自然と口角が上がった。








































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