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浅葱色を求めて…  作者: 結月澪
半年ぶりに帰った屯所
143/281

誘拐の理由

本気で巡察行きたかった千夜は、ため息を落とした。その後、隊士達は、部屋に返された。


昼に帰宅したから、留守番組みは、そのまま就寝。池田屋で戦った隊士達は、風呂へと向かい

風呂は、大混雑した。


眠くてたまらない隊士達も居て、風呂を待ってられないからと、井戸で身体を拭く隊士もいた。

本当、男所帯だと自由だ。自由過ぎるほど…。


近藤は、別宅へ行ってしまい、山南さんも、源さんも留守番組みだったので就寝。


残るは、いつものメンバー


お風呂入りたいなぁ。と、みんなの会話を聞きながら思う。


「土方の事だから、千夜を誘拐した経緯とか聞きたいんだろ?」


意外に、察しがいい高杉。


「当たり前だ。」


はぁっと、息を吐き出す高杉は、何処か面倒臭そうに桂を見る。やれやれ。と、代わりに桂が口を開いた。


「始めに言っとくが、吉田は、千夜誘拐には関与してない。」


桂が釘をさす。土方は周りを見渡し、黙って聞くように促した。


「わかった。」


「千夜誘拐の話が藩から出たのが、去年の暮れの事だった。俺は、反対したよ。千夜を誘拐しても、言いなりになる様な子じゃないしね。」


誘拐に関与していない吉田が口を開く。


「だけど、高杉が年を明けてから動き出した。

千夜を誘拐する為にね。」


「千夜を誘拐する時、いつもは、大体誰かしら一緒に居るのに。その日は一人だった。

だから、簡単に誘拐できたってわけだ。」


一人だった?ちぃが?


「その日は…」


「一月五日…」


日付は覚えてるんだが、誰が、千夜についてる日だったか?


そして、土方は、思い出す。その日の朝、その男に頼んだ事を・・・


「山崎。」


バッと、千夜に視線がいく。


「千夜、お前まさか…」


永倉にまで気付かれた。


はぁ

「みんなが思ってる通り。私は、わざと高杉に捕まった。池田屋事件を止めるために、これから起こる、禁門の変を止めるために、どんどん焼けを止めたかった。」


悪びれる様子もなく、そう言い放った千夜


パシンッ


頬に感じた痛み


「テメェ一人で。抱え込んでんじゃねぇ! !

俺たちは、何の為に一緒に居んだよ!仲間じゃねぇのかよ!」


頬が、熱を帯びたように熱かった。


「土方、お前案外とバカなんだなぁ。」


「あ?」

声を発した高杉の方に視線を向ける


「千夜が男の力に敵うわけねぇだろ。どんなに強くても、千夜は女なんだよ。」


「そんな事は」


わかっている。


「わかってねぇよ。群れをなすだけが仲間じゃねぇ。千夜はな、ずっとお前達の名前を呼んでた。媚薬と麻薬を使った香を焚こうが、その薬に負けないように、ずっと、

———テメェらの名前を呼んでたんだよ!


連れ去ったのは俺だ。

千夜は何も悪くねぇ!殴るなら俺にしろ!」


俺にしろ。と言われても、さっきまでの怒りは既に冷え切ってそんな気分でもない。冷静になった。と、いった方がいい。


そして、千夜の頬が赤くなっているのに気づく

怒り任せで叩いてしまった頬は、自分が手を上げた結果。


ただ、頼って欲しかっただけなのに———…


「————っ!」

 

なんでこうも、思い通りには、いかないのだろうか?


怒るつもりは、無かったんだ。叩くつもりも無かった。ちぃが、戻ってきて、喜ぶべきなのに

己の手を見れば、ジンジンと痛む。


手を出してしまったのは、自分。



「ちぃちゃん、大丈夫?」


見れば総司が、ちぃに手拭いを渡している。


いつもそう。ちぃが泣きそうな時には、総司が側にいる。何か起きる時は、山崎が。


俺は、お前の何なんだよ。


そんな思いを押し殺し、副長として、芹沢千夜が、長州に連れ去られた話に耳を傾けるしかない。


「————すまない。取り乱した。話を続けてくれるか?」


桂に、そう言う土方。


平静をよそえているか?そんな事を考えながらも、視界に入る、沖田と千夜の姿が、鬱陶しかった。ギリッと奥歯を噛み締め、耳にだけ神経を集中させた。



千夜を欲しがる長州藩。


だが、高杉は、千夜誘拐を支持しながら、単独で行動をしていた。理由は、脱藩を考えていたから。


藩では、京に火を放つ話が持ち上がっていた。

反対するも、話すら聞いてもらえない。

そんな状況の中、高杉は、思いついたのだ。千夜を誘拐し、藩を止めてもらおうと。



「千夜を守りたくても、千夜は新選組。俺が守るのは、不可能。

————だから、他の奴にさらわれる前に、

怪我をさせないように、俺が実行した。」


一人で歩いている所を拉致し、表向き藩に貢献したように見せかけ、千夜に協力を仰いだ。


千夜も、京に火を放つのは反対だったから、すんなりと了承してくれた。


だけど、藩のお偉方は、千夜に薬を浴びるほど使い始めた。


それを止めようと、高杉は、薬をすり替えるが

一人ですり替えられるのは、ごく僅か。結果、千夜は、洗脳され。新選組の事を忘れてしまった。


どの時期に、新選組を思い出したのか三人共、わからなかった。


ただ、池田屋に行く時に、なんとなく、新選組を助けに行くんだと、そう思ったんだと高杉は、語った。



「どれぐらいの期間、薬漬けに?」


「————二カ月だ。」


二カ月も、


「医者には、診てもらった。媚薬と麻薬の方は大丈夫だ。ただ、千夜は長州藩に来た時から、病にかかっている。」


「ちぃちゃんが?何の病に!」


沖田が桂に攻め寄る


「心の病だよ。今も、俺たちの声は届いてない。少しの間だけどね。

たまに、今みたいに、どっかを見つめてボーっとしてる。」


千夜を見れば、確かにあさっての方向を見たまま座っていた。


「ちぃ!」


慌てた様に、藤堂が千夜を揺する



「へ?平ちゃんどうしたの?」


何事も無かったかの様に、笑みを見せる千夜


「いや、大丈夫か?」


「大丈夫だよ。」

どうしたの?


そう言って笑う。


「千夜は、きっと気づいてたんだろ病に。だから、お前に心配かけたくなくて、わざと俺に捕まった。俺は、そう思ってる。」


部屋の中に流れる重苦しい空気。


そんな時、


「副長、すいません。中村です。」


遠慮がちに副長室の外から声が掛かった。

スッと開けば、中村が申し訳ない様な表情を見せ、彼は、軽く頭を垂れた。


「中村、どうした?」


「前川邸の風呂沸かしたんで、副長達は、そちらに入って下さい。八木邸の風呂は、まだ、空きそうに無いんで。」


「あぁ、すまねぇな。中村、ちぃ頼めるか?」


「構いませんよ。」


「ちぃ、お前、風呂入ってこい。」


「え?わ、わかった。」


千夜が立ち上がり、着替えを手に持つ。

土方の横を通り過ぎ様とした時、


————悪かった。


そう声が聞こえた。なにへの謝罪か?

微かに痛む頬に、千夜は、苦笑いする。


あぁ。なんだ。そんな事、


「————気にしてないのに。」




お前が気にしなくても、俺が、気にするんだよ!とは、思っていても言えない土方は、


「とっとと、入ってこい。」


と、風呂へ行く様に、声をかけた。


クスっと笑って、千夜は

「はーい。」


と、気の抜けそうな声で答えて、部屋を後にした。



「千夜は、相変わらず。だな。」


と永倉が言って、土方は、苦笑いする。コッチは、必死に探してたっていうのに。いつもと変わらない千夜。


「アレですね。親の心、子知らず。」


人差し指を立てて、自信満々に言った沖田だったが、

「俺は、親じゃねぇよっ!」


「誰も、土方さんが親なんて言ってませんよ。」

と、シラッと返されてしまった。

そして、急に真剣な顔をした沖田は、長州の三人に、その顔を向けた。


「どうして、ちぃちゃんを狙うんですか?

————未来を知ってるから?」


「いや。藩には、未来を知っている事も

一橋公の妹君だと言うことも、伏せてたよ。

まぁ、一橋公の妹ってのは、千夜が自分でバラしたがな。」


「じゃあ、ちぃを狙う必要は?」

ないんじゃないか?


頭の上に、ハテナを沢山並べた、藤堂が身を乗り出しながら、長州の三人に視線を向けた。


「千夜はね、今じゃ、坂本龍馬にも、あの石頭の西郷隆盛にも一目置かれてる。まぁ、長州藩主にもだけど。」


何か思い出したような桂


「あれは、脅したんだろ?」

呆れた様に、高杉が口を挟む。


脅した?


「————。何したんだよ。」

ため息混じりに土方が問う。


「あー、爆弾を作って、藩主の前で火をつけた。」


千夜ならやりそうだ。と、幹部達は、一斉にため息を落とす。


「で?」どうなったんだ?と、桂に話を進めるよう促す土方



「まぁ、元々藩主が、千夜の話を無視したからなんだけど、京に火を放ったら、藩主を木っ端微塵に粉砕してやると、爆弾に火をつけた。爆弾の威力に、藩主は、腰抜かしたけどね。


結局、それが決定打になって、京に火を放つって計画は、長州藩は関与しないと決定した。

決まったのは、昨日の夕方だったけど。」




長州が参加しないと決めたのに、何故、彼らは、池田屋に来たのだろうか?


「池田屋には、何で?」


新選組は、知らない。


宮部という男が、あの会合に参加していた事を


「千夜はな、新選組に帰るつもりだったんだよ。」


————高杉、嘘に無理がある。


「そうなんだ。」と、藤堂。

意外に、信じるもんなんだね。と、胸を撫で下ろす吉田。


「ちぃちゃんを離さなかったのに、なんで急に返すの?」


「一旦、長州に帰るんだよ。本当は、一緒に連れて行きたいんだけどね。」


「千夜が言うには、戦があるって話だ。千夜は行くと言ったけど、病にかかった千夜を連れて行けるわけない。」


「戦って、どこと?」



「————…異国だよ。その戦の前に、久坂という男を千夜に合わせる約束もしたからね。

そいつは今、長州にいる。」


「なんで、俺たちに長州の話をするんだ?」


敵だと思ってた男達。


「俺はね、千夜と約束した。新選組と敵では無い世を作ると。そうする為には、歩み寄らなきゃ、はじまらないでしょ?」


さも、当たり前の様に言うが、長州の情報を流すのは勇気がいる事。


裏切られる可能性もある。リスクはかなり大きい筈


「俺は、お前ら嫌いじゃねぇからな。」


ニカッと笑う高杉


「————嫌いじゃ、ないか…」


人斬り集団と呼ばれた新選組。長州にも、幕府の犬と呼ばれ、別に、幕府の為にここまでやってきたわけじゃねぇのに、町人にも、怖がられていたのに……。なんでだろうな。


俺もこいつらは、

————嫌いじゃねぇんだ。



こうして、話しに耳を傾けている時点で、それは、明白。









































































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