申し訳ありませんでした。
池田屋から帰還の途中に、宮部と別れて、屯所に向かう新選組。
「ねぇ、千夜。これ、絶対おかしいよね?」
そう、文句を言うのは吉田で、歓迎すると言いながら、吉田は、捕縛された人の様に縄で巻かれていた。
確かにおかしいが、千夜とて、両サイドに腕を掴まれてるし、何も言えない。
囚われた宇宙人?みたいな感じになっている。
なんで、桂と高杉だけ普通に歩いているのか?
屯所に帰ったら、確実に叱られるよね。これ。
土方に視線を向けてみるが、ちらっと見て、再び視線を前に向けてしまった。
はぁ。と、ため息の後、千夜は、行く方向の空を見上げた。
————今日の朝日は、すごく綺麗。
朝日に照らされた町中。
いつもと何ら変わらない筈なのに、そう思ったんだ。
たくさんの人が、死んでしまった。千夜が銃で撃った人も………。それでも、守った命もあった。
死んでしまった人は、どんなに願っても生き返りはしない。
もし、生まれ変わりがあるのなら、次の世は、死んでいった志士達の為に平和な世を。新たな日本を必ず、創り上げてみせる。———必ずね。
屯所に着き、みんな疲れてるから解散。とはならず、広間に集まった新選組。
「申し訳ありませんでした。」
局長である近藤の前で三つ指を付き、頭を下げた千夜。
例え、初め連れさらわれたとしても記憶が戻ってから、帰らなかったのは千夜が決めた事。
迷惑をかけたのは事実。最悪、脱走ととられても仕方がない。
目の前に座った三人の男。近藤、三南、土方
右隅には幹部隊士が座り、後ろには平隊士が勢ぞろい。桂、吉田、高杉は千夜の後ろに座っていたが、まさか、千夜が頭を下げて謝るとは思わなかった。しかも三つ指をついて。
しばしの沈黙の後、ガハハっと笑う目の前の男。
「近藤さん?」
「千夜君、ご苦労だったな。」
————ご苦労、だった?
「え?」
思わず顔を上げたら、山南さんと目が合った。
ニッコリと微笑む彼は、仏の様な笑みを千夜に向けた。まるで、大丈夫。そう言っているかの様に。
「敵を騙すには、まず、味方からっていいますからね。」
何を言っているの?
「千夜君はな、長州に間者として潜入してもらっていたんだ。」
そんな事は、全くしてないのに。長州の情報なんて、教えてもないのに、 この人達は、局中法度に触れないように、切腹をさせないように、————こんな嘘を……
桂達も、千夜が、そんな事をして居ないのは知っていた。だから、山南と近藤が嘘をついているんだと悟る。
「長い間、すまなかったな。」
そう言って、笑う近藤と山南の表情を見て、千夜は、頭を下げた。流れ落ちる涙が、畳を濡らす。
ヒクッ
「……ありがとう…ございます。」
本当に、ありがとう、ございます……、
山南が千夜の近くまできて、あんまりにも、
千夜が泣くから手拭いを渡してくれた。
「よく、帰って来てくれました。あなたが居ない屯所は、お通夜の様でした。」
それは、言い過ぎです。山南さん。
「まぁ、千夜君も戻ったし、よかったなぁ、トシ。」
そこで、俺に振るのか?よかったには、良かったがまだ、聞かねぇといけねぇ事はあるんだよ。
まぁ、近藤さんと山南さんが機転を利かせてくれたおかげで、隊士たちの対処は、必要なくなったがな……。
「テメェら、今日はゆっくり休め!幹部隊士は、巡察だからな!いいな!」
みんな、休みじゃないのかよ!と、幹部隊士達は、口から出かかった言葉を飲み込んだ。
平隊士「はいっ!」
平隊士しか返事しないし
返事をしない幹部隊士達に、鬼副長の視線がギロッと向けられた。
なんで、私を見るのか?と思ったら、後ろに総ちゃんら、幹部隊士達が千夜の背に隠れるように、隠れないんだけど後ろにいた。
「ちぃちゃん、お願いします。」
「何を?」
「土方さんを止めるのは、ちぃのがうまい。」
「………」
そんなの、上手くなりたくない!
「そうか。お前らは文句があるのか?」
「千夜がな。」
こいつら!自分の事、棚に投げやがった!
「ほお、ちぃが文句があるのか。」
で?なんだ?言ってみろ。と、距離を詰められる千夜
「ないよ?え?みんな行くの嫌?
じゃあ、桂達と行くよ。お団子でも食べようね?」
ニッコリ笑う顔を桂に向ける千夜に、桂は、うんざりとした表情を向ける。
「………」
「僕、行きます。」
「じゃあ、俺もいく~。」
平隊士「組長ばかりズルいです!」
俺も~っと言う声が、後から後から聞こえてきた。
「みんな、巡察行きたいって。」
フッと、土方は笑う。
「よし、言い忘れたがちぃは、屯所待機だ!」
まんまと、騙された隊士達。
千夜は怪我をしているのに、土方が巡察に行かせる訳がない。
「そんなぁー」
っと、みんなの声が広間に響いたのだった。




