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浅葱色を求めて…  作者: 結月澪
池田屋事件
141/281

赤く染まった池田屋

倒れた志士達を悲しそうに見つめる千夜。

高杉達は、彼女を見て、手を強く握りしめた。人が死ぬ事を一番嫌がる彼女が、自分達を守るために、銃を使った。志士たちが死ぬ事を分かっていながら……。

静かになった池田屋。店の中は、もはや、原型を留めてはいなかった。


赤で染め上がった池田屋は、史実通りで、千夜は、銃を懐にしまい、気持ちを切り替えた。


志士が倒れたら、終わりではないのだ。まだ、救える命があるかもしれないと、痛む手を気にせずに、千夜は、一階に走った。


「負傷者は?」


平隊士にそう問う千夜。真っ赤に染まった千夜に新選組の隊士達でも、流石に少し引いた。


「えっと、志士は20人亡くなり、隊士は、軽症者ばかりです。」


「志士の死亡者は、まだ増えると思われます」


要は、それ程の深手を負っているという事だろう。


「私が診る。休める隊士は休んで。」


自分が一番志士が多い場所に居たのに、隊士を休ませようとする千夜。


「ダメだよ!ちぃちゃん。自分の治療が先でしょ?」


慌てて降りてきた、沖田が声を荒げる。その後を、桂と高杉も階段を降りてきた。


咄嗟に、右手を隠す千夜。沖田が声を荒げるのは珍しい。中村は、千夜の手をとり、赤く染まった晒しを外した。


「————っ!」


千夜の傷は深く、指の付け根まで切り裂かれていた。


「晒しを巻くだけでいい。」


「ダメです。ほっといたら、刀握れなくなりますよ!」


中村の声に、隊士達も驚き、千夜を見る。階段付近まで来ていた、吉田に宮部も、その言葉に驚いた。


「中村、私は、この傷があっても生きれる。

志士を助けるのが先だ。」


そう言って。自分で手に晒しを巻き、志士の怪我の手当てを開始する千夜


「千夜さん!」


慌てて止めようとする中村だが、ポンっと肩を叩かれ、足を止めた。


「無駄や。ちぃを治療したかったら、志士の治療を先やらな。手分けした方が早い。」


「山崎君。何やる?俺、手伝うぜ。」


俺も俺もと幹部隊士が志士の治療を手伝う。


「新選組は、人斬り集団じゃなかったか?」


「千夜が、変えちゃったんだよ。あの子は、本当、不思議な子。」


志士達を治療している新選組。そんな光景を見ながら、吉田は口にした。


千夜の治療が出来たのは、半刻程たってからだった。治療を終えた千夜は、脱力した。


応急処置にしか過ぎないが、傷口は広く、一番神経が通ってる手だけあって、叫ばずにはいられなかった。


「痛い。」


よくもまぁ、刀なんて握れたもんだ。

必死だったからだけども


ガツンッ


「————っ!よっちゃん私怪我人!」


「馬鹿野郎。」


そんな悲しそうな声で、馬鹿野郎なんて言わないでよ。


「どれだけ心配したか、わかっ、てんのかよ。」


泣いちゃえばいいのに、よっちゃんは泣かないんだよ。

隊士の前だから……。声は泣いてるのに。


「————ごめん、なさい。」


そう言えば、よっちゃんは、私を抱きしめた。

こんな弱ったよっちゃんを見たのは初めてで、どうしていいか分からず、よっちゃんの背に、手を回そうとしたら、


「男の匂いがする。」

ガコンッ


感動したのに!一言で台無しじゃん!

真っ赤に染まっているのに、そんな匂いがするわけない!そりゃ殴るさw


「痛え。ったく。食われてんじゃねぇよ。」


キョトンとする千夜。千夜には、意味がわからない。


ギョッと、するのは隊士達だ。


「さて、高杉、桂、宮部も帰るよ。」


さっさと、退却しようとする吉田。


「ちょっと待て。助太刀してくれたんだ。

それ相応の礼をしなきゃならねぇ。なぁ、近藤さん。」


何かを企む土方


「ああ、勿論だ。」


素直に歓迎する近藤


「屯所に招待するぜぇ。どうだ?桂。」


「俺は構わないよ。」

「俺もだ。」

二人の視線は、吉田に。


ビクッ


「千夜、助けて?」


「え?屯所これば?」


「……」



「まぁ、いいんじゃない?高杉も桂も稔麿も

真っ赤だし、長州藩に帰ったら流石にヤバイからね。」


確かに。


「よし。決まりだな。近藤さん。」



「新選組!これより帰還する!」




中村が旗を掲げ、赤く染まった浅葱色が列をなして歩く



長州藩の助太刀という前代未聞の池田屋事件は幕を下ろした。

























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