赤く染まった池田屋
倒れた志士達を悲しそうに見つめる千夜。
高杉達は、彼女を見て、手を強く握りしめた。人が死ぬ事を一番嫌がる彼女が、自分達を守るために、銃を使った。志士たちが死ぬ事を分かっていながら……。
静かになった池田屋。店の中は、もはや、原型を留めてはいなかった。
赤で染め上がった池田屋は、史実通りで、千夜は、銃を懐にしまい、気持ちを切り替えた。
志士が倒れたら、終わりではないのだ。まだ、救える命があるかもしれないと、痛む手を気にせずに、千夜は、一階に走った。
「負傷者は?」
平隊士にそう問う千夜。真っ赤に染まった千夜に新選組の隊士達でも、流石に少し引いた。
「えっと、志士は20人亡くなり、隊士は、軽症者ばかりです。」
「志士の死亡者は、まだ増えると思われます」
要は、それ程の深手を負っているという事だろう。
「私が診る。休める隊士は休んで。」
自分が一番志士が多い場所に居たのに、隊士を休ませようとする千夜。
「ダメだよ!ちぃちゃん。自分の治療が先でしょ?」
慌てて降りてきた、沖田が声を荒げる。その後を、桂と高杉も階段を降りてきた。
咄嗟に、右手を隠す千夜。沖田が声を荒げるのは珍しい。中村は、千夜の手をとり、赤く染まった晒しを外した。
「————っ!」
千夜の傷は深く、指の付け根まで切り裂かれていた。
「晒しを巻くだけでいい。」
「ダメです。ほっといたら、刀握れなくなりますよ!」
中村の声に、隊士達も驚き、千夜を見る。階段付近まで来ていた、吉田に宮部も、その言葉に驚いた。
「中村、私は、この傷があっても生きれる。
志士を助けるのが先だ。」
そう言って。自分で手に晒しを巻き、志士の怪我の手当てを開始する千夜
「千夜さん!」
慌てて止めようとする中村だが、ポンっと肩を叩かれ、足を止めた。
「無駄や。ちぃを治療したかったら、志士の治療を先やらな。手分けした方が早い。」
「山崎君。何やる?俺、手伝うぜ。」
俺も俺もと幹部隊士が志士の治療を手伝う。
「新選組は、人斬り集団じゃなかったか?」
「千夜が、変えちゃったんだよ。あの子は、本当、不思議な子。」
志士達を治療している新選組。そんな光景を見ながら、吉田は口にした。
千夜の治療が出来たのは、半刻程たってからだった。治療を終えた千夜は、脱力した。
応急処置にしか過ぎないが、傷口は広く、一番神経が通ってる手だけあって、叫ばずにはいられなかった。
「痛い。」
よくもまぁ、刀なんて握れたもんだ。
必死だったからだけども
ガツンッ
「————っ!よっちゃん私怪我人!」
「馬鹿野郎。」
そんな悲しそうな声で、馬鹿野郎なんて言わないでよ。
「どれだけ心配したか、わかっ、てんのかよ。」
泣いちゃえばいいのに、よっちゃんは泣かないんだよ。
隊士の前だから……。声は泣いてるのに。
「————ごめん、なさい。」
そう言えば、よっちゃんは、私を抱きしめた。
こんな弱ったよっちゃんを見たのは初めてで、どうしていいか分からず、よっちゃんの背に、手を回そうとしたら、
「男の匂いがする。」
ガコンッ
感動したのに!一言で台無しじゃん!
真っ赤に染まっているのに、そんな匂いがするわけない!そりゃ殴るさw
「痛え。ったく。食われてんじゃねぇよ。」
キョトンとする千夜。千夜には、意味がわからない。
ギョッと、するのは隊士達だ。
「さて、高杉、桂、宮部も帰るよ。」
さっさと、退却しようとする吉田。
「ちょっと待て。助太刀してくれたんだ。
それ相応の礼をしなきゃならねぇ。なぁ、近藤さん。」
何かを企む土方
「ああ、勿論だ。」
素直に歓迎する近藤
「屯所に招待するぜぇ。どうだ?桂。」
「俺は構わないよ。」
「俺もだ。」
二人の視線は、吉田に。
ビクッ
「千夜、助けて?」
「え?屯所これば?」
「……」
「まぁ、いいんじゃない?高杉も桂も稔麿も
真っ赤だし、長州藩に帰ったら流石にヤバイからね。」
確かに。
「よし。決まりだな。近藤さん。」
「新選組!これより帰還する!」
中村が旗を掲げ、赤く染まった浅葱色が列をなして歩く
長州藩の助太刀という前代未聞の池田屋事件は幕を下ろした。




