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浅葱色を求めて…  作者: 結月澪
池田屋事件
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池田屋事件と助けたい友

しばらくして、土方隊が二階になだれ込んだ。

殺気立つ土方隊。それでも、志士たちの方が圧倒的に多いのが現状であった。


土方隊と共に、戻ってきた山崎の姿に、千夜は声をかけた。


「烝、状況は?」


その声に、瞬時に答えられる山崎は、流石である。


「一階もまだ、志士が15、6人。外に隊士を張らせとる。」


「外は隊士はいらない。二階から志士が飛び降りたら、一発でやられる。

池田屋は、もう、会津藩士に囲まれてる。」


逃げられる場所は、屋根ぐらいだ。


千夜の言葉に、山崎は、身を乗り出す様に店の周りを見渡した。


行灯の火が、夜の町にゆらゆら見えた。

不自然な程に真っ直ぐに並んだ火に、山崎は、眉を顰めた。


「外は、危険やな。外の隊士移動させるわ。」


「お願い。」


「御意。」


頭を下げ、その場を後にした山崎


その背を見送った時


ガキンッ キィンッ


ザシュッ


近くで、人を斬った音が聞こえ


「ちぃ!お前、こんな所で何を!」


そんな声が、後に聞こえてきた。


「げっ、千夜、鬼副長だ!」


私に振るな!高杉!


「テメェの上司になった覚えはねぇ!」

「いや、上司は俺だっ!」


「なんでだよっ! !

って、何で浅葱色の羽織を?」


長州の高杉らが、新選組の隊服である浅葱色の段だら羽織を着ている事に眉を顰める土方。

訳がわかんねぇ。


「なんだよ。連れねぇなぁ。今は、新選組だっつうのによ!」


羽織をわざとらしく、パタパタさせる高杉。

羽織着たからって、新選組じゃねぇ。


「何で長州が…」


「長州のヒメが居るからだよ。」


「は?」

長州の姫。そう呼ばれているのは、千夜だと土方は、知っている。


確かにちぃの姿は、今も確認出来る位置に居るが、


「千夜は、たった半年で長州藩主まで洗脳しちまった。間違ってる事はするなと

長州藩の誇りはどこに行ったと。藩主に、啖呵きりやがった。」


ちぃらしい。が、


「本当、こぇえ、女だよ。」


そう言って高杉は千夜を見た。

その目は、怖がってるモノではなく見守る様な瞳。


チッ


また、恋敵が増えんのかよ。


「高杉、千夜は、俺のモノなんだからね?」

わかってるよね?

と吉田


「ただ、言わせてるだけだろうが!」


「……………。そう?」


ピクッと土方と高杉の眉が動く。

女好きな二人、そういう事は、人一倍鋭い。


「「吉田、テメェ!叩き斬ってやる! !」」


「馬鹿どもだね。本当。」


やれやれ。と、冷ややかな桂。


志士達ですら四人に近づかなかった。

殺気がものすごかったから



「はぁ。なに、遊んでんの!

よっちゃんは会津の牽制!

高杉と稔麿は、さっさと宮部を探して!」



「………。」


「………。おう。」



四人の姿を視界に映し、一人の男が襲撃されて居ない部屋へと身を隠した。


*志士side


何故、吉田や高杉、桂まで邪魔しにくるなんて。幕府の犬まで、ここを嗅ぎつけた。


肩を斬られた男は、傷を押さえて苦笑いする。

赤くなってく左肩は、悲鳴をあげていた。


俺は、もうここまでか…


二階の空いた部屋に逃げ込み、上半身着物を急いで、はだけさせる


小刀を持ち、腹へと勢いよく振り下げた。



ズッっと、鈍い音が部屋に響く。


ポタポタと生暖かいモノが腹を伝った。

————…痛みはない。


「死なせないよ。」


その声に、目を見開く男の目の前に、桜色の髪の女がいた。


小刀を見れば、女が刃を握りしめて赤くなった手が自分の腹のすぐ前にあった。

そこから流れる赤は、俺の腹を赤く汚していく。


「お前が死にたいなら、死ねばいい。

だけど、友の気持ちを聞かずして死ぬのか?


お前は、死ねば楽になるけどな、残された人は、一生、楽になれないまま生きていくんだよ!


吉田稔麿は、お前を助けたいと、友だと、

そう言ったんだぞ!奴の想いぐらい聞いてやってもいいんじゃないか?」



そんな事の為に小刀を止めたのか?


自らの利き手だろう右手で………。

その手は、もうすでに、真っ赤になって小刀の柄も染め上げていた。


男の小刀の持つ手の力が、段々抜ける。


「憎いなら、私を殺せばいい。」


そう言いながら、俺の左肩を自分の手拭いで止血しだした女。敵の筈なのに、


「どうして?」


そんな湿った情けない声が出た。


「何が?」


「助けなど、いらぬ。」


「痛いでしょ?」


自分の手のが痛いだろうに、治療の手は止めない


「敵だろ?」


「ん?同じ、人間でしょ?同じ、日本人。」


ばかなのか?こいつは。


「私に敵はいないんだ。ただ、間違ったことをして欲しくない。それだけだよ。」


「千夜!」


入り口を見れば、友と呼んだ男が立っていた。


「宮部!」


女は治療を終え部屋を出た。

痛むだろうに、右手に刀を握って。


ーーーー

ーーー


上半身裸で、千夜の手をみれば、宮部が

何をしていようとしてたか、すぐにわかった。


「宮部、お前武士だろ!まだ仲間が戦ってるのに、何、逃げようとしてんだよ!」


俺は、俺は、お前を助けたいと、死ぬ覚悟で、ここまできたのに。


目の前の男は、本当に助けたいと思った、友なのだろうか?


そんな想いが、吉田を支配する。

「裏切り者のお前に何がわかる!」


それを言われるのは、正直、辛かった。だが、吉田は、口を開く。


「逃げたくないから、お前を裏切りたくないから、ここまできたんだ!お前を友だと思っているから、間違っていることを、伝えなきゃ、ダメだろうが!」



「————吉田。」


「助けたいんだよ。お前を。

確かに、天子誘拐の話を蹴ったのは俺たち長州藩だ。お前が裏切り者と言おうが、俺たちの意思は変わらない。」


「どうして、俺を。」


助けたいと言うのか?


「お前バカなのか?

お前は、俺の友だろうがっ!!!」



バカなのはどちらだ。


こんな場所に、危険をかえりみずくるなんて・・。下手をすれば、お前も命を落としかねないのに、バカな友を持ったもんだ。


そう思いながらも、宮部は涙を流した。


本当は嬉しい。素直になれないのは、男だからか?


「なぁ、宮部。一緒に、日本の夜明けを見ないか?」


「日本の夜明け?」


「日本を一つにしてみないか?」


「日本を一つに?」


どうしても、吉田の言葉を復唱してしまう。

そんな事、聞いた事がないから。


それでも、やって見たいと思うのは、吉田が同じ志しをもつ友だからだろう。


「ったく、自刃なんかしようとしてんな! 」


「うるせえよ。」


本当に、鬱陶しい友を持ったもんだ。


照れた様に頭をガシガシかく、二人の男の姿。


戸に、身体を隠しながら、

右手に晒しを見て、二人の様子を見ていた千夜は笑った。


二人の会話を聞き


————私もまだ、戦える!


そう思いながら、また、戦いの中に走った。



痛い右手に構ってられない


キィンッ


赤く染まった晒し。刀を弾くたびに激痛が、千夜を襲う。それでも、刀を離す訳には、いかなかった。


「ちぃちゃん!後ろ!」


痛みで背後まで気がつかなかった千夜に向かって振り下ろされる刀


ザシュッ


バタンッと倒れた志士に


はぁはぁ。と、息を切らした沖田が、千夜の前に立ちはだかる。



「よかった間に合った。」


「ごめん、総ちゃん。」


「どういたしまして」


呑気な声で応えるが、沖田は、千夜の手の怪我に気づいていた。


痛々しい手に、ギュッと唇を噛む。


手当をしてあげたい。もういいよ。休んで。って言ってあげたい


だけど、それは不可能。


二人は、10人程の志士たちに、取り囲まれていたから。


沖田も千夜も背を合わせて刀を構える


「ちぃちゃん、早く終わらせるよ!」


「了解。」


二人は、次々に志士を斬る。


高杉も桂も見えるが、彼らの周りには志士たちの姿。


助けを求める事は、出来ない。


右手がカタカタと、言うことをきかない。


クッ


向かってきた志士に、刀を投げつけた。


バンッ


ドサッと倒れた志士。


右手がダメなら左手を、


銃を持った千夜は、痛みで使い物にならない右手を見ながら銃を構える。



殺したくない。殺したくないけど、殺さなきゃ、仲間が、死ぬ。


頼れる媚薬もない。


千夜は、正常————。


「————っ!ごめんなさい。」

バンッバンッバンッバンッバンッ


一気に撃った銃は、高杉や桂の周りの志士を撃ち抜いた。


千夜の声は、誰にも、聞かれなかった。



そのはずだった。

近くに居た沖田は、強く手を握りしめた。

君に、ごめんなさいを言わせたくなかった。


一番近くに居たのに、何も出来なかった。


ごめんなさいを言うのは、


僕だよ、ちぃちゃん。













































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