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浅葱色を求めて…  作者: 結月澪
池田屋事件
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太夫、君菊。池田屋へ!

藩邸の一部屋に、千夜と吉田の姿があった。千夜の桜色の髪で遊ぶ吉田は、そのままにして、

千夜は、書物を読んで居た。



「宮部 鼎蔵って、長州藩士じゃないの?」


「————熊本藩士だよ。千夜」


吉田から何言ってんの?的な目を向けられる。



「北添 佶摩は?」

「土佐藩。」


「大高又次郎は?」

「林田藩…」


池田屋に居たのって、長州藩士だけじゃないんだ。知らなかった。じゃあ、長州藩を止めても

————池田屋事件は、起こる。


頭を抱えた千夜


「千夜、どうしたの?」


なんで、こいつは、私に優しくするんだろうか?失いたくない。死んで欲しくない。そう思えば思う程、流されてしまう。稔麿の優しさに、溺れてしまう。


それは、ただの同情に過ぎないと、わかっていながら、近づいてくる彼を押しのける事すら出来ない。


視界一杯に映り込む吉田。そしてその後、二人の唇が合わさった。————慰められてるのは、どちらだろうか?


————最低だ。私……。


いつもそう思うのに、傷つけてしまう事が怖いのだ。その唇は、すぐに離れていった。



「千夜?言わなきゃわかんない。何?」


「なんにもないよ?古高は大丈夫?」


「大丈夫。隣の部屋に寝てるよ。


ねぇ、千夜。————抱かせてよ。」



そんな言葉を言い放った吉田。今まで、彼が身体を求めてきた事なんて、無かった。


唇しか・・・。


抱きしめる事しかしなかった彼が、私を、畳へと押しやった。


なんて、悲しそうな顔をするんだろうか?


私を組み敷いて「抱かせてよ」そう言った吉田の顔は、悲しみの表情を見せる。


逃げられない様に、頭上で私の両手を固定して、彼は、こう言った。


「俺、死んじゃうんでしょ?」


と。



————違うっ!!死なない!死なせない!


そう言いたいのに、声が出ない。

本当に、未来を変えれるか、不確かだから・・



稔麿の悲しそうな目が、私を映す。


「千夜。————君が好き。」


私は、この言葉に、答えられない。

首筋に顔を埋めた吉田は、私の名前を呼ぶ。


何度も、何度も————


そして、彼は、「ごめんね。」そう言うんだ。

自分が、死ぬとわかっていて、私に、謝る彼を拒む事なんて、————出来なかった。


恋なんてしない。愛なんて要らない。

そう言いながらも、そんな感情を一番欲してるのは、自分自身。


頭に浮かぶのは、浅葱色だった。ずっと、帰りたい場所も、彼らが居る場所。


「————ごめんね。千夜。」


その言葉を最後に、意識は遠退いて行った。

そして、目が覚めた時には、茜色の空が広がっていた。千夜が眠っていた部屋に、吉田の姿は、すでに無かった。急いで、着物に着替え、部屋を飛び出す。


「おい、千夜!」


その声に、振り返った。そこに居た男に、千夜は、駆け寄る。


「高杉!稔麿は?」


千夜に声をかけたのは、高杉であった。


「あぁ、あいつなら、島原行くって。」


島原?池田屋じゃ、ない?


「どうした?吉田になんかあるのか?」


「今日なの!稔麿が死ぬ日は!長州は、会合に出ないよね?」


「あぁ。藩主が、ちゃんと会合には出るなと言ったから大丈夫だ。吉田にも伝えた。

会合の場所すら知らねぇよ。」


だから、行くわけない。


でも、池田屋に行かなくても、何か、あるんだ。————きっと。


自分が死んでしまうと、的を得た様に言った吉田。何かをしようとして居なければ、そんな言葉は、出てこない。

稔麿は、————池田屋に行くつもりだっ!


「高杉、島原行くよ!」

「はぁ?」


高杉に構ってられず、千夜は、走り出す。島原へと。


千夜の後を追う高杉。吉田が、死ぬなんてあり得ない。聞いてしまった以上、捕まえとかなきゃ、不安が募るばかり。


「くそッ!何考えてんだ!吉田の野郎っ! !」


そんな、高杉の怒鳴り声が、背後から聞こえたのだった。


島原につき、千夜は迷わず、置屋に駆け込んだ。


「女将、吉田稔麿、見ませんでした?」



はぁ。はぁ。と息を切らす千夜を見て、ただ事じゃないと悟る女将。


「ちょっと、待っときぃ。」


奥に入っていった女将


どうやら、中にいる芸妓や舞妓に聞いてくれるみたいだ。


「千夜!」


後から置屋に高杉が入ってきて、すぐに女将が出てきた。


「角屋や。そこにおる。」


本当に、いた。


「座敷、上がらせてください。」


「————…座敷って?」


唖然とする高杉


「高杉、先に、角屋に行ってて!稔麿は、死んだらいけない。絶対に!」


「わ、わかった。」


意味もわからず、置屋を後にした高杉の背を見送り、千夜は、女将に視線を向けた。


「太夫の初仕事なんよ、ちゃんと気張りぃ!」


まさか、こんな所で、君菊になる羽目になるとは、思わなかった。


着物を変え、角屋に急ぐ。


部屋に案内され入った座敷に、吉田と高杉の姿。二人を見て、ホッと胸を撫で下ろした。


「吉田、千夜が心配してたから帰ろうぜ?」


「高杉、太夫の前で言うことじゃないでしょ?」


「恋仲どすか?」


他の芸妓が吉田に問う。


「ん?いや、違うけどね。」


私、この場にいない方が良いような気がする。

気付いてないけど、二人共。


さりげなく、吉田に近寄った。


「君菊ねぇさん、お酒どうぞ。」


と、徳利を渡された。


「へぇ、君菊っていうんだ。今日、俺と夜どう?」


と、芸妓を見つめる吉田に、内心、ため息を吐いた。


「おい!吉田、千夜はどうするんだよ!」


「心配ありません。夜は、二人まとめて私と一緒に、いかがどす?」


吉田が顔をジッと見てから


「ち、千夜! ! ?」


やっと、千夜に気がついた吉田


「小春、下がって。」

と芸妓を部屋から出す。



「お前、なにして?」


「うるさい。稔麿、あんたは死なせない。

だから、私から逃げないの」


普通の話し方に戻せば、高杉も気づき、目を瞬かせた。



「本当に、千夜だ。」


目の前の太夫。

いつもの千夜ではないみたいに、美しい。


「千夜がなんで?」


「こっちのが、情報を頂けるんで。」


「千夜らしいね。会合に行こうと思ったんだよ

ここで呑んだら。会合には、友が参加するからね。」


だから、自分が死ぬか確認したのか。


「ごめん、千夜。」


「ワッチは君菊でありんす。何のことだか、わかりやせん。」


廓言葉になった千夜は、そう言う。


それを聞いて、ふっと吉田が笑った。


「そうだね。千夜には、ちゃんと謝らなきゃ

だから、まだ、死ねないね。」



目の前の女が、自分は、君菊と言い張るのならば、ちゃんと、千夜に謝らねばならない。


吉田の言葉に、千夜は、少しばかり微笑んだのだった。



「今日は、高杉はんも、稔麿はんも、

ワッチに付き合って貰いんす。」


「おいおい、千夜。お前二人も相手出来んのかよ。」


ガコンッ

「高杉お前バカだろ!」


「失礼します。」


スッと開かれた襖。入ってきた小春という芸妓

その手には刀が、三本抱き抱えられていた。


高杉、吉田、千夜の刀だ。


「ありがとう、小春。」


「君菊ねぇさん、着物預かります。」


バサッと戸惑う事なく脱ぎ小春に渡す千夜。

下には、いつもの短い丈の千夜の着物


「お前、何を……」


する気だ?顔を拭き髪を結い直す。


「どっちみち、行くつもりだったから池田屋にね。小春、後は任せた。」


「へえ。」


着物を渡し、やっと二人を見た千夜


「助けたいんでしょ?宮部を。」


「————っ!…千夜。」


「絶対、死なないで。

二人共私の大事な、仲間だから。死んだら、絶対、許さない。」


「わかった。ありがとう。千夜。」



「行こう!池田屋に! !」




三人は走る、池田屋に!




三人が池田屋に着いた時、すでに、池田屋事件は始まっていた。


浅葱色の羽織を纏った新選組


そして、志士たちの戦いが、目の前で繰り広げられていた。


「千夜、生きのびて、必ず新選組と敵じゃない世を約束する。」


————本当に、稔麿は、優し過ぎる。


私が洗脳されていないのをちゃんとわかってる。


「生き抜いてよ。お前達も、私の仲間なんだから。」



「おうよ!」


池田屋事件に、長州の志士が、新選組の仲間として参戦する。


それは、ありえないこと。


友を助けたい気持ちもある。だが、


長州の姫を、千夜を心から信用出来たから・・・



京に火を放つ事は致し方ない。

そう諦めて居た。


間違っていると初めからわかって居たのに

言えなかった。


————本当に、それでいいのか?



その問いに、自分の意志は何処にあるのか

示してくれたねは、目の前の、長州の姫。


彼女が、止めたいのなら

自分達が間違って居ると思うなら、


今から、正せばいい。



友を、間違いの無い道に行かせない為にも、


例え敵対したとしても、

————止めなきゃならないっ!


間違ってたら、間違っていると言う勇気を持てっっ!


千夜の言葉を胸に刻み、


池田屋へと踏み込んだ。



























































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