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浅葱色を求めて…  作者: 結月澪
池田屋事件
137/281

池田屋事件当日

必要があれば。と言った千夜を見て、

小馬鹿にした顔をする藩主。


勝手に部屋へ入り、真ん前にドカッと座った千夜の顔は、いつにも増して真剣な表情で口を開く。


「志士の会合を止めて頂きたい。」

ギロッと、千夜を睨んだ藩主

「………」


「長州の誇りとやらは何処にやった?暗殺に、誘拐など企ててどうする!幕府が憎いなら

幕府に立ち向かえばいいだろう!関係のない京の町人を巻き込む必要がどこにある!」


まくしたてる様に言い放つ千夜


「長州の力を見せつけるためだ!」


————そんな力を見せつける為に、京の町人は、犠牲になるのか?


怒りで体が震える。そんな事の為に、稔麿は死ぬのか?

そんな事の為に、藩士達は命を捨てるのか?


ふざけるな……っ。


「お前が戦を仕掛けるなら私は、そこに爆弾を落とす。お前を木っ端微塵に粉砕してやるっ!」


「————何をバカな事を!」


藩主が信じるわけない。そんなのは、わかっていた。カタカタと小さなプラスチックケースで、何かを作る千夜。

出来上がって藩主に見せつけるが、

それは、変なケースに火薬が詰まっているだけの代物にしか見えない。


「そんな小さなもので俺を木っ端微塵?笑わせるな。」


「火をつけるよ?」


藩主なんて無視。


「千夜!火はつけるな!」


言葉とは裏腹に、慌てた藩主


「なんで?こんなんじゃ死なないんでしょ?」


アタフタする藩主


「うるさい!外に投げろ。」


藩主の内心は、ヒヤヒヤものである。

本当に、木っ端微塵に粉砕されたら、たまらない。


「はいはい。」


火をつけて空に思いっきり投げた。空高く投げられた小さな箱


ドカーーーン

凄まじい威力のそれは、空で大きな爆発音を放った。


「………」


「あら、火薬多すぎたかな?でも、あれぐらいなら、木っ端微塵だね?所司代も奉行所も動かなきゃいいけど。ねぇ。毛利。」ニヤリ


力無く、藩主は座り込んだ。いや。腰が抜けた。そう言ったほうが正しいだろう。

千夜を怒らせたら命はない。

藩主の頭に、この言葉が深く刻まれた瞬間だった。


バタバタと足音が聞こえ、スパーンッと開け放たれた襖


「千夜、なにしてるの!」

「スッゲー音したぞ!」


現れたのは桂に高杉


「こいつは、何者だ?」


「あれ?言ってないっけ?お前が暗殺したがってる一橋慶喜の妹だよ。」


ズササササッ~っと音が聞こえるぐらいに

後退した藩主。


「はぁ。あのね、藩主殿、

私は、何度も京に火をつけるなっていった。

流石に誰でも怒るでしょ?

少しは人の意見も聞きなよ。藩主である、あんたが止めるから意味があるんだよ。今日、志士が大勢死ぬ。助けられるのは、毛利。お前だけだ。」


「助け無かったら?」


「は?所司代に奉行所に突き出してあげるよ。

あんたの、首をね。」


嘘だけどもそうしてやりたい


「わかった。暗殺も誘拐も京に火を放つのもやめる。」


「本当に?」

桂と高杉は顔を見合わせる


「長州の誇りは、まだ残っておるわ。千夜、お前ぐらいの人間なら権力を振りかざし、俺を縛り付けるなんか、容易いだろうに…」


「バカなんじゃない?縛り付ける意味がわからない。そこに毛利の意志はないじゃない。」


「はぁ、お前の考え方はわからん。お前は何が欲しい?」


キョトンとする千夜


「藩も幕府も関係なく、思想も関係ない。日の本全ての人に笑顔と幸せを———。

そして、日本を一つにする事。

私は、日本に笑顔と幸せと平和が欲しい。」


「————無茶を言うな。」


何故?欲しいものを答えただけなのに!


「————…日本を一つに?」


藩主が口にする。


「初めから無理だと言うのは、誰でも出来る。

でも、やってみる事に価値がある。どっちみち、色んな考えの人間がいるんだ 。


やってみなくても、やってみても、たたかれる事は、当たり前。新しく何かをやるのは、それ程難しい。やらないで、後悔するより、やってから後悔した方がいい。

人間の未来は、決められた道一本じゃない。何千本も選択肢はある。

————どれを選ぶかは、お前達次第。

私は、そう思う。」


「何千本もの選択肢。」



「お前は、千夜は、一橋公を暗殺しようと企てた俺が憎くないのか?」


「なんで?まだ殺されてないでしょ?


あのね、そんな負の感情ばっかり欲しくないんだよ。だから止めたんでしょ?実行されてたら

間違いなくケイキの盾になったよ。私はね。」


そう、小さく笑った千夜。


「藩主、私は、お前を信じるからな。志士を見殺しにするな。」


頼む。そう言って、千夜は、藩主の部屋を後にした。


「日本の夜明け。」

「桂?」

「いや、坂本龍馬が前に話していたのを、今、千夜を見て、思い出した。

あの子は、日本を明るく照らす光なのかもしれない。」


「桂も惚れたか?」


「藩主、叩き斬りますよ?」


「ごめん被る。」


日本を照らす光。か。



****



新選組は、所司代、奉行所に、

桝谷喜右衛門の供述により、京に火を放ち天子様の誘拐を企てていると知らせた。


身元は不明。供述後自害したと嘘の報告をした新選組。


大事だと、所司代、奉行所などが会津藩士などを数百人捜索にあてがう事を約束した。



この約束は、果たされる事は、ない————…


奉行所の帰り道。近藤と土方は二人で屯所に向け歩いていた。


ふと足を止めた近藤。


「なぁ、歳。」


その声に振り返りながら、土方は答える。


「あぁ?どうした?勝っちゃん。」


この男は、組から少し離れれば、昔の様に自分を呼ぶ。それを聞いて、頬を緩めた近藤。


「あの子はな、帰ってくる。必ずな。」


穏やかな笑みを浮かべながら、土方をみる。


「どうした?急に。」

「歳は、千夜君が好きなんだろ?」


近藤にそんな話をした事はない。好きなんだろ?って聞かれれば、気恥ずかしく思える。


なんでも言い合って居た仲でも。


「…あぁ。好きだなぁ。」


目を見て話すのはやめ、照れ隠しの様に空を仰ぐ。

「本当に、俺が育てたのか、たまにわからなくなる。俺は、あんな真っ直ぐじゃねぇ。

記憶はあるんだよ。

あいつと過ごした時は、ちゃんと覚えてる。


だけど、やっぱり違う。今の千夜みたいに、愛おしいとも思った事なかったからな。

側に居たいと思えるのは————あいつだけだ。」


ククク


「あの、歳がな。まさか、一人のオナゴに骨抜きにされるなんてな。」


過去を思い出して、笑いを堪える近藤。


「なんだよ…俺ちゃんと答えただろ?」


少し口を尖らせ、もう喋らねぇ、と、口を一文字に結ぶ。


「悪い悪い。総司もな、千夜君は特別だと言っていたからな。なんでも、歳ですら相手にされないとか。あの歳が…」


まだ笑いを堪える近藤。


「笑うこたぁねぇだろ?あれだ、山崎も平助も狙ってるのに、あいつは、気付きもしねぇ。」


照れ隠しなのか、ガシガシと首の後ろをかく土方


「本当、不思議な子だよな。」

「勝っちゃんまで千夜に惚れんなよ。」


釘をさす土方に、近藤はまた笑う。


こりゃ、本当に重症だと……




****




















































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