表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
浅葱色を求めて…  作者: 結月澪
池田屋事件
136/281

枡屋喜右衛門


ドスッ ドンッ ドカッ

男の呻き声と、鈍い音が、前川邸の蔵の中に響いていた。

この日の早朝

四条小橋上ル真町で炭薪商を経営する、枡屋喜右衛門の存在を突き止め捕縛。武器や長州藩との書簡等が発見された。


拷問を受ける、枡屋喜右衛門の姿が前川邸の蔵にあった。


はぁはぁ…

「さっさと、吐いちまったらどうだ?」


汗をかきながら、男を見据える鬼副長

何一つ、吐かない男に喋るように促す。しかし、話す気配は全くない。幹部総出で拷問にあたっていた。


局長ですら、蔵に現れ、その様子を見届けている状態だ。屯所中に響く、怒鳴り声に叫び声。


平隊士達が恐怖に怯える程、その声は、すさまじかった。赤く染まりつつある男は、自らの名を名乗った。何を企んでいるのか、喋るのは、時間の問題かと思った。その時だった。



ドカーンッという音がしたと思ったら、突然、蔵の壁が崩れ出す。幹部達は唖然とするしかない。壁が崩れるなんて、誰が考えただろうか?


「テメェは!加減ってモノを知らないのか!」


「だって、あんまり弱いと、壁穴開かないし…」


言い争う男女の声。白い煙が邪魔をして姿は見えないが、その声に、


枡屋喜右衛門いや。古高俊太郎は口角を上げ

幹部達は唖然としたまま、体の動きを停止させた。そして現れた男と女の姿。


「ちぃ……」


その声に、女の視線は、声を出した鬼にむけたのだった。結ばれて無い髪がサラサラと靡く桜色の髪。女物の着物だが、下は足をさらけ出している白い履物は履いているが、少し奇妙な格好をした千夜の姿がそこにあった。


「古高を返してもらうぞ~」

と、ニカっと笑う男


「高杉。」


二人が現れたのは古高の奪還。そんな事はわかっている何故、千夜が?


「あーあ、こりゃ結構ひどいねー?」


脱力しそうな程の声。いつの間にか、古高の近くに千夜は、歩みよっていた。


「…ヒメ。」


弱々しく千夜を呼ぶ古高。幹部隊士の体が、やっと動き刀を高杉に突きつけた。


「ちょっ、ちょっと待て!俺は敵だけど、敵じゃねぇ!!」


「………」

意味がわからない高杉に刀が、更に近づいた。


「高杉、お前日本語話せよ。」

「日本語だわ!」


はぁ。っとため息を吐く千夜


「祇園祭の前の風の強い日を狙って、御所に火を放ち、その混乱に乗じて中川宮朝彦親王を幽閉し、一橋慶喜・松平容保らを暗殺し、孝明天皇を長州へ連れ去る。————それが、長州藩が企んでいる事。」


新選組隊士達は目を見開く


「ヒメ。なんで?」

何故、敵に情報を?って事だろう。


「俺も千夜もそれに関しては反対なんでな。

反対っつっても、仲間は殺したくない。」


「古高に説得をと思ったら、捕まったって言うし、何度も間違ってるって言ったのに!」


古高を見て治療をし始める千夜。


ここは、一応敵陣なんだが?と、高杉はジト目で千夜を見る


に、しても着物の丈が短い。


「ちぃちゃん!見えちゃいます!」


千夜の前に立ち、男共の視線を浴びないようにする沖田だが、「残念ながら、下は履いてるぜ?」と千夜の着物の裾をヒョイっと持ち上げる高杉。



ガコンッ


「ワザワザ、お前が捲るんじゃねぇ!」


鬼の一撃が炸裂した。

「————!痛ってぇ!」


「……何してんの?高杉」


千夜の冷ややかな視線がとてつもなく、痛かった。


何をしている?って、千夜が下に履いているという事実を新選組に教えたかっただけの高杉。

鬼の一撃をくらって暫し悶絶する高杉。


やっと、立ち上がったと思ったら


「ここは、アレだ。共同戦線でも————」

「バカなんじゃない?高杉。」


千夜の冷たい一言に、言葉を詰まらせた。


当たり前だ。殺したくない。と言ってるのに、

新選組に共同戦線なんて、殺してください。って言ってるようなもの 。


これは新選組にとっては手柄となる事は明白だ。張り切るに決まっている。


張り切れば張り切る程、怪我をして命を落とす者が増加する。


千夜の頭の中では、池田屋事件は起こしたくない。だから、古高俊太郎を助けに来た。


会合は、古高を助けるために開かれたと思っている。だからこそ、千夜の中で古高を助ければ、回避出来る筈なのだ。


バカな高杉を放置し、古高を縛り上げた縄をクナイで切り自由にした。さっさと、退却しなければならない。


目的は、達したのだから。


新選組は刀を構えている。相手は九人


こっちは、二人に怪我人一人

高杉に古高を担がせたら戦えるのは千夜のみ。


どう考えたって負けるのは、明白。


だったら————…


「高杉、古高を連れて逃げろ!」


これしか、方法がない。


「馬鹿野郎っ!お前を置いて逃げれねぇだろ!」


高杉は怒鳴る。何を言っているんだ!と…


だが、

「古高を担いで私が逃げ切れるわけないだろ!

何の為に、此処まできた?古高を救う為だろう!だったらそれを優先させろ!」


のっそりと動き出した高杉


新選組の面々が、古高と高杉に容赦なく刀を振るう


ガキンッと、千夜が受け止めたのは沖田の刀


「ちぃちゃん!」


千夜に刀を向けたくないのに、高杉と古高には逃げられたくない。千夜が9本の刀を相手に出来るわけがない。だけど、少しの時間食い止めるだけなら


————私にだって、できる!



「高杉、少ししたら後を追う。古高、お前は長州を志士を止めろ!」


「……俺は————っ!」


ギリギリと刀が交わる音が、前川邸の蔵の中に響く。


高杉らに向かっていく新選組をクナイで近づけない様にするが、それが、精一杯。


「————っ。」


「お前は、弱い子や、弱い女が死ぬのは正しいと言えるのか?間違ってる事を、志士達にやらせるのか!」


ギリギリッ交わる刀は、千夜の方へと傾いていく。徐々に、ゆっくりと————


力じゃ敵わない。


「馬鹿ども、さっさと行け!」


言葉は乱暴だが、千夜にも限界がある。腕がもう、もたないのだ。


剣豪と呼ばれる、沖田の力に、腕は、悲鳴をあげていた。高杉は意を決したように、古高を担ぎ走る。


それを見て、千夜は、沖田の腹に蹴りを入れ沖田を自分から引き離し飛躍した。



高杉らを守るように、パンパンパンパン

銃を発砲させるが狙いは全て幹部隊士の足元


それ以上出てこれないように、地面を狙い発砲した。


手を狙えばいい。足を狙えば、相手は止まる。

傷つけて仕舞えば、こちらのが優先になる。


だけど、千夜は撃てなかった。目の前の相手をどうしても、撃つことはできない。

だけど、此処で捕まる訳にはいかないのだ。


既に逃げ出した、高杉らの後を追わねば、志士達を止めねばいけない。

長州の奴も千夜にとっては仲間。


ジリジリと、距離を詰めてくる新選組の幹部達


カチッカチッ


弾が無くなり、千夜は、懐から煙幕を取り出し、それを放った。蔵の中は一瞬にして、白い煙に覆われる。


後は、逃げればいいだけ。



千夜の視界には、白い煙しか見えない。


だけど、振り返った場所に、入ってきた時に壊した壁があるのは、煙幕を放った時に確認済み。


振り返って走ろうとした瞬間


バシッと腕を掴まれた。


————捕まったっ!


千夜は、そう思う事しか出来ない。フワッと体を包み込む体温。その体温は、言葉を発しない。鼻を掠めたその匂い。


————今、捕まりたくなかった。


そう思った時、スッと体温が離れ、トンッと背中を押される感覚に、やっと、先ほどまで、自分が抱きしめられた事を知る。


その後、訪れない温もりに、千夜は悟った。


動かない千夜を見かねたのか、再び、背中を押された。


————行け。と、ワザと背中を押した彼に千夜は、自分を奮い立たせるように身体を動かし、白い煙が漂う前川邸の蔵の中から抜け出したのだった。


蔵から出て、屯所から離れた場所で、千夜は、後ろを振り返った。


こんな事はありえない。


新選組が、逃がしてくれたのだと千夜は思った


高杉を逃す時だって、九人居れば、捕まえられた筈だ。なのに、捕まえなかった。


————私は、まだ、頑張れるっ!



あの温もりから、元気を少しもらった気がした。


「時間がない。急がなきゃ。」


今日は、———六月五日。池田屋事件が起こる日。古高を救ってもまだ、今日という日を終えてない。

阻止しなければ、繰り返されるんだ。

あの、池田屋事件が・・・


高杉らが行っただろう長州藩邸に走った。


やっと、目的地に到着。下駄なんかポイポイ脱ぎ捨て部屋に走る。すれ違う長州の方々を無視して、たどり着いた部屋の前。


スパーンッっと、襖を開け放ったら、ビクッと身体を跳ねさせた藩主、毛利の姿


「千夜、俺の心の臓を止める気か!」


「必要があれば。」


ヘラっと笑って見せるがはっきり言って千夜の精神状態は最悪


何度も何度も、京に火を放ったらダメだと

言ってきていた。



それなのに、古高は、捕まった訳で


着々と、天子誘拐も一橋慶喜、松平容保の暗殺も準備をしていた事になる。


藩主に、かなりご立腹である。


今の千夜を止められる人物は、長州藩邸には、居るはずがなかった。




































































評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ