薩長同盟の話し合い?
話はいつしか、同盟から思想の話に移り変わった。
「千夜殿の思想は?」
「私は、尊皇開国ですよ。
開国派は少ないです。だけど、それはどうでもいいんです。」
どうでもいいと言った千夜を男達は唖然とした表情で見る。
「どうでもよくないだろうに。」
桂が口を挟む
「あのね、此処には色んな思想の人が集まってるんだよ?開国派は確かに少ない。
だけど、思想が違うからって、斬るような人達じゃないでしょ?私は、思想を持つのは大事だと思う。
だけどその思想に縛り付けられ、人の思想を否定するのは間違ってる!
はっきり言ったら、思想なんかどうでもいいじゃないですか?
何で考え方が違うからって、殺されなきゃいけないんですか?
人間ってそんなもんの為に生きてるわけじゃないでしょ?
確かに、将軍も天皇も大事です。
今ある幕府は、弱ってたとしても、なくなったら、たくさんの人間が職を失うんです。
叩き潰すのなんか簡単。その後が大変なんです。お金が欲しいから働いてるんです。
代々ずっと幕府だから幕府にいる人間だっている。
そう言う人達は、自分の思想すら押し殺して生きてるんです。生きていくために、同じ思想の人間を殺さなきゃいけないんです。
思想なんて、あっても無いと同じ。
だから私は、思想なんて関係なく日本を一つにしたい。同じ日本人同士殺しあう事のない世界にしたい。」
「そげん事出来うはずん
(そんな事できるはずない。)」
「やる前から、諦めるんですか?なにもやらずに逃げるんですか?新しい事をするのは怖いですか?
そんなの私だって同じです。
誰も殺さずにが理想。でも、それは無理です。
私が言ってるのは甘いし戯言の様なモノです。
だから、———だからこそ、
感謝します。大事な席なのに、私の話を黙って聞いてくれる貴方達に。私の戯言をわかろうと
少しでも考えて頂き、ありがとうございます。 」
突然三つ指をつき、頭を下げた千夜に驚きを隠せない男達
「頭を上げやーほがなつもりで、話し聞いてるがやないんやき」
坂本が頭を上げるように促す。しかし、千夜は頭を上げない。
「日本を一つにしてみませんか?
私の戯言を誠に変えてみませんか?
貴方達の頭を私に貸してください!
私に貴方達の力を貸してください!
————お願いします。」
千夜は頭を更に下げる畳に擦り付いても、そんなのは気にしない。世を変えたい。歴史なんか、ぶち壊してしまいたい。千夜の中はそれだけ。
「千夜、やめろ。」
桂が口を開いた。それでも、千夜はそのまま動かない。
「千夜、お前は、一橋公の妹だろ?俺たちの様な者に頭を下げる必要はない!」
知らなかった三人は目を見開く
「何故ですか?そんなの血だけです。
こんな血なんか、何の役にも立たない!」
「本当なのか?一橋公の妹って言うのは。」
千夜が声のした方に体を起こす
「はい。私は、一橋慶喜の妹
————徳川椿。
四歳の時に幕府に捨てられた人間です。」
幕府に捨てられた。それでも、彼女は幕府の人間を心配し助けたいと言った。
頭まで下げた千夜。
わからない。捨てられたら憎むべき相手ではないのか?
そんな疑問が、男達の頭に浮かび上がった。
疑問を残しつつ、その日の話し合いは、
何の進展もなく終わりを告げた。
それでも千夜は、坂本らに会えた事は嬉しかった。話を聞いてくれたから
帰りにわざわざ、見送りに近江屋の外まで出てくれた。
お礼をいい、帰ろうと足を動かした瞬間、背後から殺気を感じ振り返る。
ガキンッ
千夜は咄嗟に龍馬の前に出て何者かの刀を受けた 。
「千夜殿!」
ギリギリと刀が音を立てる。
まだ10代の若い男の子
15、16ぐらいだろうか。刀を両手に握り力をかけてくる。少し迷いがうまれる。殺したくない。こんな若い人を。と
ズシャッ
その音と共に、
男の子の体がゆっくりと倒れた。
千夜の目が見開く
何が起こったかわからない。
男の子が居なくなって、見えたのは桂の姿 。
刀を持った、桂の、姿
「大丈夫か?」
桂に言われ、ハッとして倒れた男の子の止血をしだす千夜
「何を————
「うるさい。
見ればわかるでしょ!助けるの!」
「 殺そうとした男ながに。」
「誰も死ななかったでしょ!
決めて下さい。龍馬の命を狙ったんです。
彼が許せませんか?」
「………」
許せるか?そんな事を急にいわれても
突然の事で驚きのが大きい
「戦でも、指示を早く出さないと、兵はどんどん死んできます。いいんですか?
まだ若いこの子が死んでも!」
ぎゅーと桂が刺した場所を止血し続ける
「心臓が、止まった。」
目を背けた坂本。あんな短時間で決められなかった。
生かすか、殺すかなんて、人が死ぬのを見るのは、誰が死のうと辛いもの。
目の前で死んだ、まだ若い男を見て
龍馬は、顔を歪めた。
「何、諦めてるんですか?今、後悔したんでしょ?この子は、死なせません。」
もう心臓は止まったのに
傷口をぎゅーと結び、近くに居た桂に傷を押さえつけさせ、人口呼吸をし心臓マッサージをする
「————生きて。
刀を持つ勇気があるなら、生きてよっ!」
何度も人口呼吸と心臓マッサージを繰り返す。
しばらくやりつづけ
「はぁ————っ!」
男の子が息を吹き返した。
「生き返った?」
「おんしは、神か?」
「はぁ?神なんかじゃないよ。やり方さえ、覚えれば、こんなの誰でもできるよ。誰もが助かるとは限らないけどね」
はぁはぁ
呼吸がまだ正常ではない千夜。
それでも、男の子の脈や体温を確認する
「桂、あの子しょうえいな。儂は気に入った
まだ、返事はしやーせんが前向きに考えてみる。」
うんうんと頷く中岡。
「坂本ならそう言うと思ったよ。だから、連れてきたんだ。」
「変わったオナゴだな本当に」
西郷からもこんな声が聞こえた
「桂、少し藩邸で面倒見て。」
また、この子は無茶を言う…
はぁ
「おおごとだな、桂。
(大変だな)」
他人事だと思って…
仕方なく三日ほど藩邸で男の子を治療し、その後男の子は藩邸を去った。




