副長とおつかい—弐
刺されてくれても構わねぇって…。
死ねって事じゃねぇか!
歩きながら理解した土方、当たる場所なんかない。当たりたい人物は、屯所で甘味を食べてるんだろう。今頃。
だから、ぶつくさ文句を言うしかない。
町を歩いても、千夜と同じぐらいの背丈の子を見ると、どうしても目で追ってしまう。
墨と筆なんか、本当なら、買っている場合では無いのだ。
会いたい。触れたい。
土方を襲う感情。しかし、新選組副長としての仕事は、待ってはくれない。さっさと、仕事を片付けて、ちぃを探さないとな。
そう思えば、自然と足が速くなる。ザッザッっと、リズム良く地を蹴る。
行きつけの店で、筆と墨を買い、さっさと屯所に帰ろうと歩み出した土方。蕎麦屋の前を通り過ぎようとしたら、ドンッと人にぶつかり尻餅をついた。
今日は、厄日だな。と、立ち上がろうとした。
「あの、大丈夫ですか?」
その声に、目に映った人物に土方は目を見開いた。土方を心配そうに碧い瞳で見つめる桜色の髪の髪の女。
あんなに会いたかった人物がいる。目の前に……、
「————…ちぃ。」
千夜は、自分をちぃと呼ぶ人物に首を傾げる。
「どっか、怪我とかないですか?」
まだ、座ったまま、立ち上がろうとしない土方に千夜は手を差し出した。
手を取り、なんとか立ち上がった土方。離れようとする手を逃さまいと掴み直し、腕をグイッと引き、抱きしめる。
————…懐かしい
微かにする煙管の匂い。ドクンドクンっと聞こえる心音。少し冷たい手の感覚。
その匂いも、包まれた温もりも全て、懐かしく感じた。
そんな事を思っていたら、グイッと首が締まる感覚。そして温もりは背後にかわる。
「ヒメ、いい男だからって、抱きついたらだめです。」
お前の腕が、首に巻きついているのは、なんでだよ!
「今、首、絞まったんだけど?」
「ヒメが油断ばっかりしてるから」
意味がわかりません。
「桂っ!ちぃを返せ!」
「返さないよ。」
今にも刀を引き抜きそうな二人
ゴツンッ
「桂、お前が、ぶつかったんだから先に謝れ。」
ぶつかった事など、怒った覚えはないが、それが、原因だと思ってる千夜は、桂の頭まで殴る始末。
「悪かったな。土方。」
桂は素直に謝るが、謝られても、土方は困るだけ。
本当に、忘れてしまった?
本当に、俺を
————俺たちを
————新選組を
千夜に視線を戻せば、桂を引き剥がし笑っていた。
キリッと痛む胸
「ちぃ、新選組に帰ってこい。」
「新、選組?」
弱々しく口にした千夜。
土方に視線を向け、また、笑う
まるで、それは無理だと言っているかの様に
「ヒメ、早く行こう。」
千夜の腕を引く桂も焦った。
思い出して、土方に連れ去られるのは困る。
逃げる方法。
桂は、己の懐に手を突っ込み煙幕を放った。
その場を覆う白い煙
「なにしてんの!」
千夜は怒るが、それどころじゃない。
千夜を担ぎ上げ、その場を逃げた。
ゴホゴホッ
煙のない方にやっと抜け出た土方。そこには、千夜の姿はなかった。
「クソッ桂の野郎! !」
**
タッタッタ
流石、逃げの小五郎。走るのが早い!
千夜を担ぎ上げてるにも関わらず、息も切らさず走っている。担がれた千夜は、たまったもんじゃない 。
視界が右に左に上に下に、酔う~
バシバシ桂の背中を叩けば、やっと止まった。
「……。気持ち悪い。」
食べたばかりの千夜には、かなりキツイ揺れであった。
しばらくして、やっと着いた先、近江屋。部屋へと案内される、桂の後ろを追った。
スッと開いた襖の先に、坂本龍馬の姿。
「おんし! !平井を知っちゅう奴!」
私の顔をみるなり声を上げた坂本。ジトッと
桂に見られるが、
無視しよう。うん。
まさか覚えてたなんて、龍馬と会った時、
喘息で何言ってるかわからなかったのに、私。
部屋には龍馬だけではなく、中岡 慎太郎と西郷隆盛の姿。
さすがに驚いた。歴史的人物に、一遍に会えると思って無かったから。なんか空気悪くないですか?此処。
「 とりあえず、座っていい?」
ゴツンッ
「お前は遠慮というものを知らないのか?」
「————!いちいち叩かなくても!」
「桂殿、なんちゃーがやないだ。(大丈夫だ。)
こっちがボーっとしてたんだ。座ってくれ。」
スッと座布団を出してくれて、腰を落ち着かせた。
「平井収二郎は?」
遠慮がちに、千夜は、口を開いた。
「おんしのゆう通り切腹したちや。誠に酷い。
ワシは今いっさん、日本を洗濯したいと思っちゅう 」
「そうですか。」
史実通りになってしまったんだ。
「おんしなんちゃーちやなんだ?
(お前は何者なんだ?)
なき、桂と一緒におるんだ?」
そうだ、まだ自己紹介もして無かった。私が自己紹介しようとしたら、桂に遮られ、勝手に紹介され、相手も名乗ってくれた。
知ってるんだけどね。
「女子だとは思っちょったが、 綺麗やし
かぇり、はちきんみたいだな。」
かなり、お転婆と言われました。
「よろしゅたもいやはんか。
(よろしくお願いします。)」
と西郷さん。
「私がお転婆でも、何でも良いですから、話し合いをしましょうか?」
顔を見合わせた男達
「意外にあっさりした女子だな。何の話し合いがしっちゅうかえ?」
「薩長同盟でしょ?」
「なんで知ってる?」
何にも言ってなかった筈だと、桂は私を見据える。
知ってるに決まってるじゃないか。
薩長同盟は有名だし、幕府が薩摩を怒らせ手放すから旧幕府軍は負けるんだ。
15代将軍が逃げるからでもあるが
会津は激戦区になったのも、池田屋事件の復讐だとも言われてるし、
「桂、忘れたの?」
私が未来まで生きたなんて、今は言わなくていい筈。
「あぁ、そうか。」
なんとか、思い出したらしい桂。
薩長同盟は、まだ早い。
だけど、池田屋事件は起こさなくていい。
起こしちゃいけない。
「ヒメ?どうした?」
桂が顔を覗き込みながら聞いてきた。
「千夜だからね?大丈夫。さっきかなり頭が揺れたから。」
少し気持ち悪かっただけ。
「そう?ならいいけど。」
「おんしはどう思う?」
中岡が千夜を見ながら聞く。
「同盟の件でしたら後日お答えします。この同盟の内容を把握してませんので。」
この話し合いだけで、次は無しとかあり得ないからね。そんな心配無いとおもうけど
「ほーおんし、なかなか、やりおる。」
「なにもしてませんが?」




