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浅葱色を求めて…  作者: 結月澪
長州の姫
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三カ月ぶりに会った彼女

それからと言うもの、千夜は。藩士達に、長州の姫から、「ヒメ」と呼ばれる様になった。


彼女の医術も、剣術も、男で敵う者は、一握り。


裏切る様子など、全くなく、長州を敵視する様子もなく、此処へ来て、たった三か月の彼女の存在は、日に日に、大きなものへとなっていった。



まだ日が高い、春の風が穏やかに流れる町中に

ズシャーと、嫌な音が響き渡った。


そして、流れる赤は、地を汚し徐々に黒く変化する。


「おいこら、総司!不逞浪士は捕縛だっつてんだろ?」


また、土方さんに怒られんじゃん


不逞浪士の刀を避けながら、縛った後ろの髪を揺らした藤堂が不満の声を上げる。


「こいつら邪魔なんだから、仕方ないでしょ?」


ガキンッ

刀を受け流しながら、涼しい顔で言い放つ沖田


————でしょ?じゃねぇー


そんな事を考えていた藤堂をよそに、沖田が刀を一振りすればドサっと、不逞浪士は、地面に倒れた。


「へぇー、邪魔だと斬るんだ?」


その声に、二人は停止する。


凛とした声。聞き間違えるはずがない。視線を徐々に、声のした方に向ける。

二人の視線が定まったのは、近くの民家の屋根。


サラサラと桜色の髪が風に揺れ、碧い瞳がこちらを見つめて居る。


屋根の上に腰掛け、白い細い足をブラブラ遊ばせる、女は、間違いなく、ずっと、探していた人物だった。


「……ちぃちゃん?」


声が震える。どれだけ探したか、どれだけ会いたかったか、目の前に、

手を伸ばせば届く場所に彼女は居る。


声をかけたのに、返事はない。


もう一度、声をかけようとした時、


「ヒメッ! !」


その声と共に、沖田らの前に現れた男達。


「……吉田……」


その中に、吉田の姿があった。


ヒメって…————何?

そこに居るのは、ちぃちゃんでしょ?


吉田だって、千夜って呼んでた筈。


なんで、ちぃちゃんは、僕を見ても、僕が呼んでも返事してくれないの?

もう、三カ月以上、会いたくても会えなかった。目の前に居るのに


「ヒメ!勝手に居なくならないでよ。」


そう言いながら、斬られた不逞浪士を回収する吉田。


「ちょっと、散歩してただけだよ?」


散歩って…と、吉田が呆れる中、悪びれる様子もなく屋根の上から飛び降りた。


縛られてる訳じゃない。逃げ出せるのに、逃げない。


ちぃちゃんは、長州についたって事なの?


嫌だよそんなの


「ちぃちゃん、新選組に帰って来て?」



「ヒメは、渡さないよ。」


「……帰る?稔麿?私は、 新選組に居たの?」


「————…違うよ。」


ちぃちゃんは、自分の意思で長州に行ったんじゃない。


あの薬だ!媚薬と大麻を使ったっていう、

あの、お香! !


「ヒメ、ほら、おいで?」


いつだか、ちぃちゃんが操られてた時の様に

吉田は女を抱きしめる。


見たくないのに、視界に入ってくる二人の姿。


「ヒメはね、長州の姫なんだよ?渡すわけ無いでしょ?」


長州の、姫?

さらに、吉田は言葉を続ける。


「それに、ヒメはもう俺のものだから。ねぇ、ヒメ?」


勝ち誇った様に笑う吉田


二人の視線が合わさる。


————やめて、言わないで。その声で、その唇で…


「なに?」



お香を使って、俺は、千夜にこう吹き込んだ。


————いい?千夜。

女の君が長州藩に居るには、何か理由が必要なんだ。

いくら、君が強くても、君の身を守る為に。ね?わかって?



「君は誰のモノ?」


————そう聞かれたら、


「私は、稔麿のモノ。」



そう、答える様にと————…。



特に意味なんてない。ただ、自分が優越感を味わえる為に教えた事。



まさか、沖田に使えるなんて思ってなかったけどね。



見てよ。あの辛そうな顔を……

あざ笑うかの様に、吉田は、千夜の頬を撫で上げる。


 

————…ああ、ダメだ。



感情を抑えつければ、つけるほど、ちぃちゃんを抱きしめた奴を斬りたくなる。


————僕は、もう、血に溺れている。


ちぃちゃんが、居なくなってからというもの、僕は、見境なく敵なら切り捨てた。


寂しさを埋めるかの様に————…


持った刀を力任せに、握り締める



あいつも、切り捨てたらいい。今まで、斬り捨ててきたやつらの様にっ!


沖田は、地を蹴り、吉田に向け刀を突き出した。


ガキンッ

「————斬らせないっ!」


刀を受けたのは、千夜だった。


「————っ!どうして邪魔するの! ?」


ギリギリと刀が交わる


「お前が、間違ってるから、————止めたんだよっっ! !」



間違ってる?僕の何が、間違ってるの?


「お前は、今、何の為に、斬ろうとしている?

邪魔だから斬るのか?

それじゃあ、辻斬りと変わらないじゃないかっ!」



————っ! !ちぃちゃんだ!


なんで、僕、刀を合わせながら、喜んでるんだろう?止めてくれる人は居なかった。


止めて欲しくても、誰も止めてくれなかった。


血を浴びるように刀を振るった僕を


カラン カラン


沖田の刀が地に転がった。


「ヒメ、トドメだ!」


そんな声が、長州の男達から放たれる。


「総司!ちぃ、よせ! !」


藤堂が叫ぶ。


「バカなんじゃない?何がトドメ?


この人は、なんの敵?長州?幕府?人間?なんの敵なの?

何度言えばわかるの?私に敵なんか居ないんだよ!」


「仲間がやられたんだぞ!」


倒れた男を見て、視線を戻す。


「あいつは、まだ、戦えるだろ?

私なら、自分を斬った人間と可能なら話したいと思うけどね。できなきゃ、私闘をするけど?

お前達は違うのか?負けたら負けたまま仲間に殺して貰えば満足か?

だったら、お前らは弱いままだっ!」



「………」


「…ちぃだ…」

藤堂は無意識に声をだす。



「ヒメ、もういい。わかったから、帰ろう。」


肩に優しく置かれた、手の持ち主を見て

にこっと笑う千夜。そして、視線を沖田に向けた。


「またね。」


「………」


行ってしまう。操られてても、行かないでほしい。


千夜の腕を掴もうと腕を動かす


千夜が沖田の横を通り過ぎる時、沖田は腕を引っ込めた。



————…またね、総ちゃん



そう聞こえたから…


「————っ。」


そうか。君は、何か、するつもりなんだね。



また、みんなの為に、新選組の為に————



だったら、僕は、君を追いかけたら、行けないんだね。


































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