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浅葱色を求めて…  作者: 結月澪
長州の姫
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長州の姫

年も明け、新たな年、文久四年が始まった。

寒さは、一層酷くなり、ちらほらと、ほんのりと白く染まる京の町。町中では、新年の挨拶や恵方参りへと行く人達で賑わっていた。しかし、新選組に正月らしい正月なんかない。


局長ならびに、副長が挨拶回りで居ないぐらいだろうか。それでも、やっぱり正月が無いのは可哀想。食べ物ぐらいと、用意したおせち料理

江戸時代で、重箱に入った料理は出てきたりはしない。


お屠蘇と言って、一年間の邪気を払い長寿を願って正月に呑む縁起物の酒。それを呑みながら、筑前煮などをつまむのが一般的。千夜が作った、おせち料理が珍しいのか、結構な量を作ったのに、あっという間になくなってしまった。


「あ!もう、料理無くなっちまった。ちぃ、また作ってよ。」

最後の筑前煮の人参を箸に持ちながら、藤堂に頼まれるが、


「来年ね。」と、返した千夜に、えーっと抗議の声が上がった。


なんで、正月の保存食を何度も作らねばいけないんだ。嫌に決まってるじゃないか。

ワイワイと、騒ぐ隊士達をよそに、千夜は、淹れたばかりの湯気の立つお茶を乗せたお盆を持ち、山崎の部屋へと向かった。


「烝。」


襖越しにそう声をかける。


「なんや?ちぃか。入ってえぇで?」


そう、返事を聞き、襖を開け、部屋へと入った。山崎の部屋は、温かく、辺りを見渡せば、火鉢の炭が少しだけ、跳ねる様子を見て、手にしたお盆から、お茶を文机にそっと置いた。


「烝、総ちゃんは、まだ、大丈夫だよね?」


声をかければ、文机に視線を向けていた山崎が、振り返る。


「まだ、大丈夫や。」


高杉の労咳が早まったのもあり、全てが史実通りではないと、気にはしていた事。


全てが私の知ってるように、動くとはかぎらない。


「烝、もし、私が居なくなったら、零番組と新選組を守ってね。」


下を見ながら言い放った言葉に、山崎は、目を丸く見開き、唇を噛み締めた。


千夜の顔をゆっくりと、見てから


「————御意。」


苦しそうに吐き出された言葉に、こっちまで胸が苦しくなる


————ごめんなさい……


それは口に出したらいけない。


「お前は、ほんま、悪い女やね。」


そんな事を弱々しく言われても、どうしたらいいかわからない。文机から離れ、千夜の前に立つ山崎


「何度も言わせるなや。”つばき”、俺は、いつでもお前の味方や。」

頬に触れる烝の手が、小刻みに揺れていた。


「ありがとう。」


ベシッ

「痛いっ。」

叩かなくてもいいじゃないか。


「アホ、礼なんいらん。ほんま、体、大きくなったけど、頭、何処においてきたん?」


置いてこれるなら、どこかに置いてきたいです。切実に————


さっき、叩いたのに今度は、頭を撫でる山崎の声色は、とても、優しいものだった。


「なんで、お前なんやろな?」

「何が?」

「……。教えん。」

「教えんって?」


「あームカつくわ。お前今から食われろ。」

「何、食べたいの?」


「………」





なんか悪いことを言ったのか、烝に部屋を追い出された。山崎の部屋の前で、息を吐き出せば、それは、すぐに白い息へと変わり、消えていった。

今日、夜は島原に行かなければならない。


正月の挨拶で利用する人が多く、忙しいから

手伝ってくれと言われていた。夕方になって、袴姿のまま、一人で島原へと足を向ける。


一月の京は寒すぎる。はぁ。っと手に息を吹きかけ、冷たくなった指先を温める。


ピューピューと、冷たい風が容赦無く吹き付ける。肌に当たる風は、突き刺すように痛い。


「……雪降りそう…」


空を見上げ、独り言を口にした。

ブルッと体が震える。早く部屋に入りたい。

そう思って、足を前に出した瞬間、背後から大きな手に鼻と口を塞がれ、両腕の自由を奪われる。


もがいても解けない。


男だとは、わかった。だけど、鼻と口を覆った手が、私の呼吸の邪魔をする。


朦朧とした意識の中



「…すまない……千夜。」


それを聞いた瞬間、体から力が抜け、真っ暗な闇に、引きずりこまれた。




****


はぁはぁ


白い息が視界にはいる。ちらほらと雪が舞い散る、夜の京の町を、ただひたすらに走る。


「……ちぃが……」


そう口にしながら、急がなければ、早く、伝えなければ、頭の中はそれだけで、


やっと目的地である、壬生の屯所についた。履いた草履なんてどうでもよくて、そのまま、伝えたい人の部屋に走る。


スパーーンッと襖を乱暴に開け放ち、


振り返った人物に、


「ちぃが、いなくなったっ!」そう言い放った。


はぁはぁ。と、息を切らし、草履を履いたままの男の姿。嘘なんてつくはずがない。


こいつは、島原に行くといっていた。そんな情報が頭の中を駆け巡る。


「それは、本当か?平助。」


上がった息をなんとか、落ち着かせながら返事をする


「あぁ、置屋の女将が、ちぃが今日来るって言ったのに、来てないって…はぁはぁ……


島原の通りも探したんだけど、何処にも、居ねえ。」


左之さんと、新八さんがまだ探してるけど。と、付け加えた。


千夜が居なくなった知らせを受け、幹部隊士が動き出す。山崎も高台である屋根から探すが見つからない。平隊士も、動けるものにも捜索させたが、千夜は、見つからなかった。


深夜、その日の捜索は、————中止となった。


ダンッ


「————ちぃ、何処に居るんだっ!」


答える人なんて居ない。ただ、土方の右手に

痛みが走るだけだった。






体が痛い。


お香の匂いがする。

目をゆっくり開けば、そこは、白い煙が漂う部屋。


後ろに縛られた両腕により、身体を起き上がらせる事さえ、出来ない。


畳に頬をつけて倒れたまま、顔を少し上げることしかできない。視界に入ってきた男に、目を見開いた。


「高杉?」


「目が覚めたか?悪いな。千夜。」


意識を飛ばした時に聞こえた声。


あれは、高杉の?


身体を起こしたいのに、その場に無様に

転がってる事しか出来ない。

近くに高杉が跪いて、私を見下ろす。


「なんで?」


高杉が、どうして?


目尻から流れる涙は、生理的なモノなのか、そうじゃ無いのか、自分でもよくわからない。


「泣くなよ。」


そんなことを言われも、うまく話せないし

縛られたまま。


しかも部屋を漂う白い煙。これは、麻薬と媚薬を合わせた、あの時の、お香。


どうして高杉が、


……嫌だ。嫌だよ。


わかってくれたと、友達だと、私だけが、そう思ってたの?

そっと、拭われた涙。


その後、高杉が放った言葉に、息が止まった感覚を覚えた。


「お前は、今日から、————長州の姫だ。」













































































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