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浅葱色を求めて…  作者: 結月澪
副長助勤
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零番組の戦い方


まだ、日が高い頃、

土方は、文机に向かい、仕事をしていた。


「どうぞ。」


土方の仕事中のお茶は、大体、千夜が持って来るのがいつもの光景だ。だが 、今日は千夜ではない。


相手をジト目で見ながら、恐る、恐る、湯のみに口をつける。


ズッとすすれば、いつもと同じ、土方の好きな濃さのお茶に、少し頬が緩む。


ちぃは、巡察中だから茶を淹れたのは、源さんか。お茶を置いても下がらない男に、どうしても目がいく。


————こいつ、何する気だ?

一向に話さない男。気になって仕事にならねぇ。


「おい、総司。お前、隊務はどうした?」


お茶を持って来たのは、沖田だった。


「 せっかくお茶持ってきたのに、いつも、そんな態度なんですか?土方さん。」


「どう考えても、テメェが、入れた茶じゃねだろうが!」


少しキョトンとした沖田


「へぇ、お茶入れたの誰かわかるんだぁ~」


ニヤっと黒い笑みを貼り付けて、土方を見据える。


「うるせえよ。用がねぇなら、さっさと隊務に戻れ。」



「零番組は

————…どうなんですか?」



どうなんですか?

つまり、使えるか、使えないか。

そういう話しだ。



今目の前に居るのは、

新選組一番組長 沖田総司



いつも千夜が呼ぶ、”総ちゃん”の、顔では無かった。


千夜が副長助勤が決まった時、沖田が喜んでいたのを土方は覚えていた。何故今、そんな事を聞くのか?


「総司、組を作ってんのは、競わせるためじゃねぇ 。それを理解した上で、聞いてんのか?」


「当たり前じゃないですか。」


「零番組は、救護優先。お前は、それが気に入らねぇんだろ?」


「……」


グッと唇を噛んだ沖田


これは、肯定。



「お前が、どう思おうと勝手だがな、これは、近藤さんも、俺も、納得した上で許可を出した。いいか?

救護出来る人間が増えるって事は、組にとってもいい事なんだ。

いつも、山崎と島田がいるとは限らない。

死んじまう人間を、傷ついた人間を、助けられる。————敵も味方もだ。」



目を見開いた沖田

「…敵も……味方も?」


千夜の事だ。

敵を殺したくない。

そんな気持ちしかないと、思い込んでいた。


救護出来れば、確かにいい事。だけど、仲間に怪我を負わされると、そういう考えが、沖田にはなかった。


「俺らはな、人斬り集団と呼ばれてるがな、

人の心まで無くした覚えはねぇ。


何も呼ばれるがまま、人の心まで、かえる必要はねぇんだ。」


人斬り集団だと呼ばれようが、心まで変えてしまう必要はない。


本当にこの人は、不器用なのか器用なのか、わからない。


僕を”総ちゃん”に、すぐに戻してしまう。


なんか、悔しい。土方さんばっかり、

ちぃちゃんをわかってるようで、


「で?話は終わりか?」


なんか、見下してるみたいに見えるのは、僕が、ちぃちゃんの考えを理解してなかったから。


気になってたが、聞くのは今じゃなくてもいいのに、聞いてしまった。


「会津藩は、何も言ってこないんですか?」


もの凄い嫌そうな顔で土方さんが僕を見た。


「あぁ、言ってこねぇ。

一橋公が、庇ってくれているのかも知れねえがな。」


小寅が酒に毒を盛り、新選組を潰そうと企んだ男達


千夜は、会津の人間と言っていたが、確たる証拠が無く、いまだに、真相は闇の中。


何故、自分達が狙われたのか、わからない。


本当に会津の人間だったのなら、知らせぐらいは来ていい筈なのだ。


だけど全くない。


「気持ち悪いですね。どこの誰か知らない人達に、命を狙われるって。」


「ちげぇねぇ。」



**


巡察から帰って来た千夜の羽織は赤く染めあがっていた。左の腕から滴る赤を見て、山崎が副長室に運び込んだ。


クルクルと晒しが巻かれてく、細く白い腕

巻いてるのは、山崎。巻かれてのは、千夜。


「で、誰にやられたって?」


「だから、追っ掛けてきた人。」


「………」


巡察から帰ってきて、報告に来た千夜。


腕には切り傷。


「あのな、巡察してんのに何に追い掛けられんだよ!」


キョトンと千夜が土方を見て、


「不逞浪士がね、」


今度は不逞浪士。


「中村に聞くか?佐々木か?それとも他の隊士か?」


「本当に不逞浪士だってば!いつも、中村に

再度報告させるのやめてよ。」


「だったら、ちゃんと報告をしろ。」


副長室の部屋の前

零番組の隊士達が、縁側でしばしの休憩中。


「あーあ、また怒られてるし」


そう言いながらも、嫌な顔はしない新田


「いつもだろー。千夜さんは。」


安藤も声を出す。


まぁ、怪我も大した事も無い。千夜が喧嘩の仲裁に入ったら、カッとなった男が刃物を取り出して、喧嘩の相手に振り下ろした。


それを千夜が、庇って、怪我をしてしまった。


ザッザッ


「あれ、ちぃちゃん報告中なんだ。」


そこに現れた、浅葱色の羽織を着た沖田。


零番組が副長室の前に待機してる

いつもの光景。


「あ、沖田さんお疲れ様です。」

「ああ。また、怒られてるの?」


今度は何したの?と中村を見る。


中村は、左腕を指差し、スッと斬られたと

ジェスチャーして見せる。


「君達も大変だね。」


「いえ、好きでいますから。」



巡察が終わったら帰るのが普通なのに、零番組は、報告が終わるまで副長室の前にいる。


誰かにいるように、言われた訳ではないのに、彼らは、率先してそれをやるんだ。

土方と千夜の言い合いが聞こえてくる。


「報告は、まだ、かかりそうだね。


僕、時間あるし、手合わせしてあげるよ。」


「いえ、遠慮します。」


沖田さんに手合わせとか、殺す気ですか?


「なに?僕がせっかく誘ってあげてるのに、

断ったりしないよね?」


今、ハッキリ断ったのに黒い笑みを浮かべる沖田は、怖いコワイ!



「……お願い、します…」



木刀を持ち出し、屯所の中庭で沖田と手合わせが始まったが、ハッキリ言って、沖田の憂さ晴らしに使われているといった方がいい。


沖田は、手加減なんかしやしない。


「へぇ、意外に強いね。」


嫌味まで言うし、


「千夜さんに、鍛えられてますからね。

戦って、仲間を助けなきゃいけないんです。


治療できる人間が、おちおち、倒れている訳には、いかないんですよ!」


倒れても、何度でも起き上がる零番組の面々


「へぇ。」


面白いな。木刀を振り回す。

さっきから、零番組の隊士が狙う先は、手と足ばかり。


癖なのか?


「手と足ばかり狙って、何がしたいのさ。」




「武器を、取り上げるんですよ。」


なるほどね。


手と足を狙って、武器を取り上げ、相手を動かなくすれば、実戦なら、それで勝ちだ。


真剣で、胴を狙って死なれるより、手と足を狙った方が、死ぬ確率は断然低くなる。


治療をする、零番組だからこその戦い方って事だね。



腹が立つ。


ちぃちゃんの言い方だと、ムカつくって言葉だろう 。なんでも、理解してる様な、土方さんにも、零番組の隊士達にも腹が立つ……。



「あ、総ちゃん。」


この声がすると僕は、”総ちゃん”の仮面をかぶる。腹が立ったなんて事を感じさせない様に、


「また、土方さんに怒られたんだって?」


そうやって、笑顔を向ける。


君が笑ってくれる様に………。





























































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