大掃除
時は師走。
師走と言えば大掃除。
屯所は男だらけだし、早めにやらないと片付かないのに、副長室で、いつも文机と戦ってらっしゃるよっちゃんに、すす払いは、いつやるのか?と尋ねれば、
「あー。大掃除なー。やらなきゃなー。」
絶対、やる気ないよね?という、返事が返って来た。
スパーンっと勢いよく開いた襖。犯人はわかってるし、あえて振り返らずにいれば、
「ちぃちゃーん」と、声がして、
「————っ! !」
いつもの様に入ってきた沖田だったが、入り口近くに、千夜が居たもんだから、沖田が降ってきて、そのまま、千夜も畳へと倒れこんだ。
痛いし。
「何してんだよ。」
呆れ顏でよっちゃんに見られた。
「総ちゃん離れてー痛い。」
背中の傷、まだ治ってません。千夜の背中に、くっついたまま、顔を上げた沖田の目は、何処か虚ろだ。
「酷いよ、ちぃちゃん。僕より、こんな、女ったらしの豊玉の方がいいの?」
いや、そんな事、誰も言ってませんが?
「総司っ!テメェは、俺の事をそう見てたんだな、あぁ?」
「だって、そうじゃないですか!見てくださいよ、この恋文の山を!」
ビシッと指指した先には、確かに文の山。
そのまま視線をよっちゃんに向ければ、
「違う!これは仕事の山だ!」
そんなに声を大にしなくても、でも、総ちゃんがおかしい。
「ねぇ総ちゃん、」
「はいでし。」
「……」
「ちぃちゃん、好きでし。」
酔っ払い?沖田から匂う、お酒の匂い。
「総司!テメェさっさとちぃから離れろ!」
「イヤでし、よー」
バタバタと聞こえて来た。
「総司、テメェ!やっと見つけた!俺の部屋、
メチャクチャにしやがってー」
開けっ放しの襖から、藤堂が怒鳴った。
平ちゃんが、何やら持って居るのはわかった。しかし、怒ってるなんて、珍しい。
「僕から、ちぃちゃんを取るの?」
全く意味がわかりません。
「とりあえず、総ちゃん離れて?」
「ヤダ!」
押し倒されて身動きが取れない。
「おい!総司、
ちぃ背中の傷が————うわっ」
バシャン平助が入り口で足を引っ掛けて、すっ転んだ。
持ってた桶が宙を舞い、見事に千夜に中身がぶっかかった。総司が、逃げるように、千夜から身体を離し千夜がゆっくり動き出す。
みずもしたたる……なんたら…
「テメェら、掃除が終わるまで、島原も酒も
煙管も沢庵も甘味も禁止!」
ヒッ
「ちぃが、キレた。」
「さっさと、掃除をしなさい! !」
「「「はい!」」」
ドタバタと大掃除の始まりです。
「あー、もう。冷たい。」
濡れた着物を着替え、掃除を開始した。
「なぁ、ちぃ。」
掃除をしている千夜に話しかけた土方
「なに?」
「俺の恋文しらね?」
「あー。多磨に送っちゃった。」
「……」
聞き間違いだろうか?
パタパタと大掃除をしてる、ちぃ 。
あっちに行ったり、こっちに行ったり、
「……多磨に…送った…?」
「ちぃ、これどこや、る? あれ、土方さん、なにしとるん?」
「恋文を多磨に、」
「あれ?烝どうしたの?」
そこに戻ってきた千夜。
「いや、土方さんが固まって”多磨に恋文”言うて、おかしいんや。」
「は?あーよっちゃんの。恋文、邪魔だったから、多磨に送っちゃったんだよね。それの事?」
「ちぃ、恋文はな、男のマロンなんや。」
最近、少し千夜の影響か、横文字を使いたがる
山崎。だけど、ベタな間違いをどうも。
「烝、ロマンね。」
「そうそう。それや。」
わかってるのか、わかってないのか?
「あのね、あの恋文なんか、客寄せだよ?
また、客が来るように書くの。わかる?
何にも想ってなくても好きって書くもんなの!」
「………」
「………。ちぃも書くん?」
「え?何で私?」
「島原で働いてるから。」
「書くよ。仕事だから。」
頭を抱えた二人の男
恋文を仕事だと言われたら、喜んだ自分達は、なんだったのだろうか?そんな二人なんか、ほっといて、せっせと掃除をする千夜
————山南さん一人で片付くかな?
山南の部屋は本がたくさんある。
「いってみよ。」
「俺立ち直れないかも。」
「お気持ちお察しします。」
二人の会話なんか、千夜には届かない。
山南さんの部屋を掃除して、屯所の中がどれぐらい掃除できたか確認していたら、隠れて酒を呑む、幹部隊士を発見。声を掛けようとしたら
背後から人の気配
「沖田でし。」
「……。うん、知ってる。」
ちょっと、引き気味に返事をしてしまった。
なんだかニコニコと、笑ってる総ちゃん。
笑い上戸?さっきよりお酒臭い気がするんだけど?
「ちぃちゃん~」
酔っ払いは面倒くさい。
「総ちゃん、掃除しないで呑んでたの?」
「ちぃちゃんを守るでし。」
酔っ払いに普通に話しても、理解できない言葉が返ってきます。
「しゅ、しゅ、しゅ」
総ちゃんが壊れた?少し顔を赤らめたまま
「…しゅんがが……」
小さな声で、沖田が言うのに、
「春画がどうしたの?」
普通の声で聞き返す千夜
通り過ぎの隊士ですら、振り返る。
当たり前だ。ほとんどの隊士に、千夜が女だとバレている。
ケイキの話を聞いていた者も多い。
前々から、そうなんじゃないか?と言われていた。噂は、あっという間に広がった訳だ。
ただ、暗黙の了解で、聞く人が居ないだけ、、、。
つまり、女子が春画なんて、言うもんじゃない。って見られた訳だ。
「ちぃちゃん。」
酔っ払いの総ちゃんまで、呆れ顏。
「……?で?それが何?」
「小粒が持ってたから。」
小粒?平ちゃん?以前、総ちゃんがそう呼んでた。
『部屋をメチャクチャにしやがって』
そう怒ってた平ちゃん
「さがしたの?総ちゃんがわざわざ?」
総ちゃんが春画?何故?そんなに見たかったって事?
「ちぃちゃんの、/////」
「へ?」
私の春画?
「あー!水着の本?」
やっと通じて、コクコクと首を縦に振る沖田
「あの三人でし。」
まだ呑んでやがる三馬鹿。
春画なんどうでもいいが、大掃除をしない輩には、————制裁を。
「総司なんさー、千夜の春画が、欲しいから、
酒、無理矢理呑むし、あれは、面白かったぜ?」
「左之、お前総司に酒呑ませたのかよ~。
あいつ、チビチビ呑むけど、量は呑まねぇだろ~?」
「ったく、左之さんのせいで、俺の部屋、荒らされたんだからな!」
「まぁ、いいじゃないか。まだ手元に、千夜の春画はあるんだし。
に、しても、本当いい身体してるよなぁ~」
ジッと本を見つめる左之
「左之さんずりぃーよ。俺も見たい。」
一緒に本を見ようとする平ちゃん
春画より酒の新八さん
「楽しそうだね?みんなが掃除してるのにさ。」
三人がゆっくり此方をみる
「ちぃ!」
「「やべぇ」」
本を隠そうとする二人
「ちぃちゃんを返すでし。」
本は私じゃ無いんだけどね。
「サボった分はちゃんと働かないとね?
厠掃除に、庭の草むしりに、勝手場もまだ終わってないかな。サボった罰
今、終わってない場所を三人でお掃除ね?」
ヒッ
「千夜それは、ちょっと酷くないか?」
「やるよね?」
千夜の後ろの沖田も怖いし、千夜も怖い。
やらない。なんて言ったら、明日は、生きているかわからない。
「はぃ。」
「本は没取。」
総ちゃんが、本を左之さんから取り上げた。
「「「そんなぁー」」」
そんな声を上げたが、知らない。聞いてやらない。
この後、バタバタした大掃除は終わりを告げた。
千夜は、沖田が掃除してないのをすっかり忘れていたのだった。




