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浅葱色を求めて…  作者: 結月澪
副長助勤
122/281

壬生の屯所

幕末に武士として生きる男達にとって、千夜の話す未来は、はっきり言って未知の世界。


刀が無くなって、武器も持たない世界なんて 、考えられなかった。


「お前は、その、平和な世界に帰りたいのか?」


「全然。考えた事ないよ。私は、元々幕末の人間だしね。きっとね、私がやってるのは、馬鹿げた事なんだよ。

だけど、

せっかく同じ日の本に生まれたんだから、力を合わせて、生きていきたいな。って。


歴史に残った人達を、斬殺とか斬首、暗殺で、失いたくないな。って。

死ぬなら、日本じゃない敵と戦って死んでいきたい。それだけ。」



それだけなのに、歴史は、塗り変わってくれなくて、思い通りにならなくて、足掻き続ける。


そのまま、畳に寝転んで、涙を流す。


歴史は、簡単に、ぶち壊れてくれない。

————それは口に出来なかった。


泣きだしてしまった千夜。泣き止もうと思えば、思うほど、涙は止まらず、土方が腰を上げ千夜を布団に運んだ。


布団の中で、しゃくり上げて泣いている千夜を土方は同じ布団に入り、ただトントンと、

背を怪我をしている場所を避け、肩の方を優しく叩く。


ごめんなさいと言いながら、千夜は、そのまま眠りについた。


その声が、同じ部屋にいる男達には、痛くて、痛くて、たまらなかった。


理由を知らない、桂、高杉、吉田も何かを感じたのか、手をキツく握りしめた。


ーーーーー

ーーーー

ーーー


チュンチュンと鳥の囀りが聞こえて、見慣れぬ天井に、


あぁ、そうだ。ここ、茶屋だっけ?


そう思い出し、昨日の事までも思い出した。



————最悪だ…


みんなと話をしたかったのに、泣いて寝るなんて。しかも、泣きすぎて目が痛い。


手拭いを烝に、濡らしてきてもらって、上を向いて、それを目の上に乗せてる私は、間抜けだろう。


「ちぃちゃん、おはよう。」


総ちゃんの声の後に、みんなの気配がした。


「おはよう。総ちゃん、みんな起きたんだ。」


「あ、うん。」


気を使ってるよね。

そんな事を思いながら、手拭いを取り払う。


「ごめんね、昨日は。みんなの言いたい事は、わかってるんだけどさ、これが私のやり方だからだから、無理するなとか、

そんなに抱え込むなって言われても、大丈夫って私は言うから。


馬鹿だと思われても、私は、そういうから。

私は、お前らが敵でも、バカだから助けるから。それはもう、私の中で決定事項だ。


だって、私にとってお前達は、

————仲間だから。」


そう言って笑う千夜に、目を丸く見開く三人


「桂、稔麿、高杉、————生きろ。自分の信念を貫いて。悔いの無いように。」


ぐちゃぐちゃと頭を撫でられる。


頭、ボサボサなんですけど?


「千夜~桂、やっぱ連れて来たい!」


抱きついてきた稔麿


髪を直してたら

チュッ


高杉が目の前に、どう考えても唇に触れたのは?


ゴツンッゴツンッ


「————!土方、いってえ。」

もう一人悶絶してる。稔麿だ。


「高杉、テメェ、ちぃに、汚ねぇもんつけんじゃねぇ!」


「なんで俺まで!」


「あ?昨日の思い出したから、ついでだ!」


そんなついで、いらない。


「汚ねえって、なんだよ!こんな、美男子捕まえて! !」


言ってしまった。土方の前で…………。


鬼が、目の前にいた。


この後、高杉は、頭にたんこぶを作る事となる。犯人は、言わなくてもわかるだろう。





少したあと、私たちは茶屋から出た。


桂らと平和的に別れ、今は屯所にむけて、四人で歩いてた。


ゆっくり千夜の歩みが止まった。


————私は帰っていいんだろうか?

そんな事を思ったから。


「ちぃちゃん、どうしたの?」


総ちゃんが、私を見ながら首を傾げる。


そんな総ちゃんの声に、烝もよっちゃんも振り返る。


昨日から、よっちゃんとは、ほとんど話してない。屯所から逃げ出したのは私


————私は邪魔?


なんでか、今日は、いつもは考えない様な事しか思い浮かばない 。


一向に歩き出さない千夜を見て、土方も山崎も沖田もなんとなく、千夜の考えてる事はわかった。


帰り辛い……。


千夜の感情は多分これ。


「ほら、隊務に支障がでる。」


ハッとした様な千夜の瞳が土方をとらえる。


何も言わない千夜。その瞳は、


————…帰っていいの?


そう訴えかけていた。


「俺は昨日ちゃんと言ったぞ。”帰って来い”と」


千夜の瞳が揺れた。


「土方さん、意地悪ですよ?帰ってきて欲しいって、言えばいいのに、ちぃちゃんが居ないと、土方さん筆ばっか折るんだから。」


「ちぃの居場所は、新選組やろ?」


冷たい風が吹き抜ける


「 帰ろ?」


「ちぃ、帰るぞ。」


帰っていいんだ。新選組に、


「うん、帰ろう。」


そう言って吹っ切れたみたいに千夜は、笑った。




しばらくして


「あ、そうや、あの、お香って」

「え?ああ、稔麿が持ってたやつ?」


「せや。ちぃ、お前また嘘ついたやろ?」


「嘘?」

「んー?」


バシッ

「誤魔化すなや。」


「叩かなくても~。わかったよ。ごめんなさい。あのお香、紛い物じゃなかった。」


「「はぁ?」」


「本物なんて言ったら、持ってかれちゃうし。」


ジャラッとお香を懐から取り出してみせる


「え?はぁ?じゃあ、これ人、操れちゃうの?」


「途中まで操られてた。結構、強い薬だよ?これ」

「山崎は、なんとも無かっただろ?」

「あー。耳栓入れとったからな。」


「……」


到着が遅かったのはそのせいか?




きっと、千夜はお香を使う気だ。


「ちぃ」

「どうしたの?よっちゃん。」


「そんなもん、使わなくていい。辛いなら、吐き出せ。苦しいなら、もがけ。

俺たちは、ずっとお前の側に居る

————だから、もっと頼ってくれ。」



————頼って、くれ。


目を細めた千夜


その言葉が嬉しくてたまらず、土方に抱きついた。


「ありがとう。よっちゃん。」


頭を撫でながら、土方も、また目を細めた。


そして、新選組屯所に、また足を歩みだした。

皆が帰る場所は、壬生の屯所しかない。





































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