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浅葱色を求めて…  作者: 結月澪
副長助勤
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弱い心

 

「近藤さん?」


のっそり、広間に入ってきた近藤。その表情は、険しいものであった。


「千夜君、それは、誠か?」


ゆるゆると、千夜の襟元を掴み上げていた、土方の手が離れていく。


「残念ながら、誠です。」

「君が、姫というのは?」


どれだけ前からいたんですか?と聞きたくなる。


「それは、言う必要ありますか?」


近藤には、伝えては居なかった。千夜の正体を………。

「ある!俺は君の手を————」


「言わなくていいです!」


「汚してしまった。」


言わなくていいと、いったのに………。


「どういう事?近藤さん?ちぃちゃんの手を汚したって!!」


「千夜君に、暗殺を、頼んだんだ。」


だから、言わなくていいのに。


「ちぃ?」


はぁ。バレた。こんなに、アッサリと


「いつから?」


みんなの視線が痛い。


「島原潜入の時からや。ちぃは、簡単に夜、抜け出せる様になった。島原行く言えば誰も疑わん。」


「山崎君知ってたの?」


「知っとった。でも、これは局長命令。壬生浪士組、しいては、新選組の為なら、ちぃは、拒まん。」


「俺はなんて事を!」

頭を抱え、畳に崩れた近藤。近藤の姿を見て


ギュッと手を握り締める。


「人を殺してから、後悔はするな。と、言ったはずです。私は、ちゃんと言ったはず。

後悔するなら、人を殺してからは言うなと。」


だって取り返す事はできない。

死んだ命も、汚れた手も、戻ることはない。



「ちぃ、何で言わなかった?」


「近藤さんを、のし上げたいんでしょ?


邪魔だと言われた。だから殺した。それだけ。」


突き放すように、言葉を吐き捨てた。


「違う!

千夜君は、何度も話し合いをと言ったんだ!

————でも俺が、」


情けない。身分が違うと分かったら、あっという間に、手の平を返した。

私の大っ嫌いな身分に縛られた、局長の姿。


「これが、芹沢鴨がのし上げたかった男の姿。

よっちゃんが、総ちゃんが、みんなが、のし上げようとした男の姿ですか?


あなたは誰ですか?宮川勝五郎ですか?

嶋崎勝太?嶋崎勇?

近藤勇は、どこに行ったんですか?


身分がなんなんですか?人を殺すのに身分なんか関係ない!人殺しは、人殺しです。

綺麗な手ってなんですか?

そんなもの、この時代に求める方がおかしいんです。


あなたは何がしたい?天下をとりたいのか?

簡単だよ。将軍も天子も逆らうものは、全部斬り捨ててしまえば、それで天下。


でも、きっと、そんな事をすれば、日本は戦しかない国になる。


将軍がえらいんじゃない!


将軍を支えてくれる人たちがいるから、国は成り立っているんだっ!


人間、一人じゃ何にも出来ない。


近藤勇!お前は、隊士達に支えられて生きている。その隊士達を、見捨てるのだけはやめろ。

無駄死にを増やすだけなら、


————新選組なんか、捨ててしまえ。」



「………」


新選組なんか捨ててしまえ。



そんな事、思ってない癖に、言ってしまった言葉。誰も、なにも言葉を発してはくれなくて、

重苦しい空気だけが、流れてゆく。


「ちぃ。新選組は、お前の組じゃねぇ。好き勝手するのはやめろ!」


ギリッと、奥歯を噛み締める。


「……わかり、ました。」


ここに居たくない。この部屋に、居たくなかった。

みんなの、目が、私をいらないと言ってるみたいで、


そんな事、だれも言って無いのに、私は逃げる様に広間を飛び出した。


屯所から出て、とにかく走った。


真っ暗な空の下、あてもなく、ただ、ひたすらに————。


みんなの目が怖かった。


ハァハァついた先は川。息を切らし、ゆっくり歩く。そして、橋の下に、チョコンと座った。

何故だか落ち着くその場所、千夜は、そこに座り空を見上げた。


平成では、考えられないほどの、満点の星空

こんな綺麗な星空を見たのは久しぶりだった。


「綺麗ぇ。」


そんな千夜の声は、誰にも聞かれる事はなかった。





千夜が走り出して、あとを追った山崎、だけど、途中で、見失ってしまった。


不逞浪士もいる。長州に狙われている千夜が、

一人で闇夜の中に居るのは、さすがに危険すぎる。


本当は、まだ探したい。しかし、山崎は、報告を優先させた。


副長室に着いて、山崎は、報告をする。


「ちぃを、見失いました。」


目の前には土方の姿


「…もういい山崎休め。」


探せと言わない?

ちぃを探せと、何故?


「何を言うとるんですか?ちぃを探さな!」


「もういい!」


もういいとは…どういう意味だろうか?


「それは、ちぃは、もう、いらんと言う意味ですか?」


「……」


何で、否定してくれへんのや?


何でや! !

「土方さん、何でちぃを探せ言わん?何でや! !」

「ちぃは、一橋公の元に、戻った方がいい。」


「それは本心ですか?なんなんですか!確かに、さっきのは、ちぃが悪い思う。


だけど、

————間違ってる。言うてやれよ!!」



『間違ってるって、言う勇気を持て』


千夜の言葉を思い出し、見開いた土方の目。


「ちぃはな、ずっと、いっぱい、いっぱいやねん!芹沢が死んでから、毎日、媚薬なん飲んでまで、自分たもっとんねん!


梅って女を殺した時も、俺が、ちぃの口に放り投げた薬も、媚薬や!」


媚薬を飲んでいたなんて、知らなかった。


「今、見捨てたら、ちぃは確実に、ココロ壊れてまう!それでも、土方さんは、探さなくても

いいゆうんですか! ?」


「………」



「土方さん、ちぃが、毎日、”ごめんなさい”ずっと、いいながら、泣いとんの知ってんのか?


あの子は、ちぃは、みんなに心配かけん様に、

ずっと、あの子なりに、頑張っとったんよ!」


山崎は部屋を出て行こうとする。

なにも言ってくれない土方。


「山崎、何処へ行く?」


「俺は、ちぃを探しにいく。もし、それが、何かの罰になるなら、俺は、喜んで腹を切る。

俺は、あの子の為なら、自分の命も惜しくない。 」


山崎は部屋を出て行ってしまった。


毎日泣いてた?


ごめんなさいを言いながら。


「ちぃっ。千夜っ。」


絞り出す様に名前を呼ぶ。


そこに、その子は居ないのに、


自分は何をしている?


こんな墨と煙管の匂いしかしない部屋で、


勝手に、一橋公の元に帰った方が幸せだと決めつけて、俺は何をやってるんだ!


ドンッ


文机を殴りつける。


バタバタと、足音が聞こえた。


スパーンッこんな開け方するのは、総司ぐらいしかいねぇ。


「土方さん、ちぃちゃん探しに行きましょう。」


「何を?」


振り返ったら部屋に来たのは、総司だけじゃ無かった。


近藤、山南、源さん

原田、永倉、藤堂、斎藤、沖田


試衛館の仲間がそこにいた。



「なんだ?みんな揃って…」


不貞腐れた様に吐き捨てる。


本当に、自分は素直じゃねぇと思う。


こっから、引っ張り出して欲しい癖に、ちぃの元に、行きたいと思って居るのに、口は、全く違う事を言いやがる。


「だから、ちぃちゃん探しに行きますよ。」


何で、そんな、にこやかなんだよ。


「歳、何意地を張っとる?」


何なんだよ。


「意地なんかはってねぇ。」


「土方君、ほらサッサと支度して下さい。」


促されるまま、刀を手に持ち、腰にさす。


本当は嬉しい癖に、ぶっきら棒に振る舞う。


「本当、素直じゃねぇよな?土方さんは」


何で、平助に言われなきゃならない?


「何なんだよ。」


「歳、局長命令だ。千夜君を連れ戻せ。

あの子はな、新選組に必要なんだ。


————仲間としてな。」



「何で命令なんか出してんだよ。勝っちゃん…」


ここまで素直じゃないと呆れてしまう。



















































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