小さな宴の席
結局、あの騒ぎの所為で、角屋は営業停止となり、夕餉も食べれず屯所に帰宅した。
今、私と、烝は、副長室で正座してます。
「山崎お前は、屯所待機じゃなかったか?」
「すんません。」
「私が悪いんだって、私が銃を三発撃ったでしょ?あれ、助けてって意味で打ったんだよ。
だから、後からケイキもきたでしょ?」
「助けてって。」
「あの時、誰も動けなかったから、ごめんなさい。」
頭を下げる千夜を見て、山崎は、覚悟を決めた。
「ちぃ、もうやめよ。隠すことないやろ。」
「え?でも。」
「隠す?」
「すんません。副長に隠し事してました。俺は、幕府に支えとった忍びです。ずっと、ちぃに、いや。椿様に支えとった、忍びなんです。 」
山崎が、幕府の?
「俺は、椿が行方不明になってから、幕府から離れ、ちぃを探した。
多摩でやっと見つけた、ちぃには、記憶が無かった。
連れ戻すつもりが、土方さん達と居ると、ちぃは、よお、笑ってて、連れ戻すのが、忍び無くなって、一年、また一年と、帰るのが先延ばしになって行った。
俺も、そんな、ちぃと一緒に過ごす日々が楽しくて、いつしか、”帰る。”なんて言葉は、消え失せた。
俺は、ちぃを守るのが役目や。ちぃが、居たいと思う場所に、居させてやりたかってん。あんな、鳥の籠みたいな所じゃなくてな。けど、土方さん達を騙しとったのは、事実や。」
山崎は、手を着き、勢い良く頭を下げた。
「騙してて、すんません!」
「そんな前から。」
「山崎君は、騙してないじゃない。別に過去なんか関係ない。ですよね?土方さん。」
「ああ。」
「あれ?よっちゃんと、烝って会った事あるよね?多摩で、大判貰ったって、騒いでたじゃない?」
「大判っ! ?」
大判とは、日本において生産された延金で
簡単に言って仕舞えば、小判の大きいモノだ。
「いやいや。ちぃ?俺が、そんな大金持ってるわけないやろ?」
「あれ?確かに、葵の御紋が入った大判を見せてくれたけど?よっちゃんが。」
「葵の御紋。いや。そんな覚えはないな。」
そう言った土方。おかしいな。と、千夜が口にして、沖田は、気づいた。
「あ、そっか。ちぃちゃんは、」
————この世界の千夜じゃない。
「ちょっと、待ちい。ちぃの過去の俺より金貰ってないって、どうゆう事やねん!」
「いや、知らないし。その辺は。」
「無いものを悔やんで、どうすんだ?山崎。」
「言わない方が、良かった?」
申し訳無さそうにする、ちぃを、山崎は、抱きしめやがった。
ゴツンッ
「————っ!土方さん!」
「ちぃ、飯食うぞ。」
「う、うん。」
大丈夫?烝?と、覗き込む千夜。
「痛い。」
頭を撫でれば、ニヤニヤと、薄気味悪い笑みを見せる山崎に、イラっとする土方。
「やっぱ、ちぃは可愛い。」
「ちぃ、お前飯抜きにするぞ。」
「え?なんで?」
烝、早く行くよ!ごはんなくなるー !
お祝いができなかったから、急遽、屯所で開かれた小さなお酒の席。
お酒の席と言っても、場所は、広間で、いつもの屯所のごはんに酒があるだけの小さなお祝いだ。
それでも、ちぃは、嬉しそうに笑ったんだ。いつもと、何ら、かわり映えもしないのに………。
「ありがとね。みんな疲れてるのに。」
「何言ってんだよ!疲れは、酒でとるんだよ。
千夜の祝いは、俺らだってやりてぇんだ。」
そう言いながら、酒を呑み進める新八さん。
「光栄だよな!まさか、千夜が本物の姫様だなんてよ! しかも、将軍様にも気に入られて、
ふぐっ————」
「左之さんは、ちょっと黙ろうね? !」
平ちゃんに、口を押さえられた左之さん。ここにいるのは副長助勤と副長だけ。
「……」
「ちぃ、お前は、新選組にいるんだよな?」
そんな、寂しそうな声で聞かないでよ。
「あのね、せっかくお祝いの席なのに、こんな話をするのは、気が引けるんだけど、
————…ごめんなさい。」
ちぃが突然、頭を下げた。
「ちぃちゃん?」
声が小さくなる。
どっか、いってしまうのか?と、不安ばかりが襲う。
「戻るのか?」
「は?何言ってんの?」
「謝ったって事は、御所にいくのか?」
「違うよ?私が謝ったのは、新選組を長州に売っぱらおうとしたからで、」
「はぁ?」
頭を押さえた烝
「お前は何してんだよ!」
「だから、売っぱってないから!あのね、この先、幕府は没落する。だから、私は長州と接触したかった。坂本龍馬に会いたかった。
————新選組を守る為に。」
「幕府が?」
今、一番偉い幕府が没落。そんな事は、聞きたくなかっただろう。
「ごめん。聞きたくないよね。こんな事、わかってるんだよ。でも、そうなるんだよ。
だから、私は幕府を利用しようとした。
私のもう一つの名前を使ってでも、新選組は守りたい。」
「ちぃ、お前に助けられる程、組は弱ってなんかねぇ。俺らは、自分の信念を貫くだけだ。」
「……。貫けるのは、
よっちゃんと、近藤さんだけなんじゃないの?」
「————どういう意味だ?」
ギロッと、視線を向けたよっちゃん
「隊士はどうなるの?尊王攘夷を掲げた隊士は、本当に信念を貫くって言えるの?よっちゃんと近藤さんの為に、死んでいく隊士は、不幸以外のなにものでもない。」
ガタンッ
千夜に掴みかかった土方は、血走った目で千夜を睨みつける。
「土方さん!」
総ちゃんが、止めてくれようとするが、よっちゃんは、私から離れない。
「ちぃ、お前は何を言ってんのか、わかってんのか?」
「わかってるよ。私は幕府なんか潰れればいいと、ずっと思ってた。でも、話してみて変わった。よっちゃん、将軍が佐幕だと思ってる?
将軍もケイキも、尊王攘夷なんだよ!
だけど、自分を押し殺してるんだよ?
佐幕だというなら、一番偉い将軍の思想を掲げてもいいんじゃない?」
「将軍が、尊王攘夷?」
「いつまで、盗み聞きしてるんですか?あなたは、ここの局長でしょ?」
スッと開いた襖
現れたのは新選組局長、
————近藤勇だった。




