新選組襲撃——弐
スパーンッ!!
襖が乱暴に開け放たれた。部屋にあった出入り口は、二つ。その両方が一斉に、開け放たれたのである。20人ほどの刀を持った男達に、ぐるりと部屋を取り囲まれていた。
「テメェら何者だ!」
土方の怒鳴り声
平隊士達は、刀を見て後退する。自分達は、丸腰だから。
「名乗る必要は無い。
————どうせ、お前達は、此処で死ぬのだから。」
ドサッと、部屋に投げ込まれた黒い塊。
「はじめ君!」
「はじめっ!」
一人で、戦ったのだろう。至る所に刺し傷や殴られた跡が痛々しい。
「う……」
斎藤から呻き声は聞こえたが、意識は無かった。
「————っ!」
唇をぎゅっと噛みしめる。
わかってるんだ。こいつらが、何者かなんて。
だけど、手を出していいか、迷う自分がいる。
刀を持った男達。足元に、はじめは転がされたまま。
目の前の刀なんか、どうでも良かった。
千夜は、刃を向けた男達に怯む事もなく、はじめに、駆け寄り身体を揺する。
「ちぃっ!————っ!」
心配して、声を上げた土方だったが、近くの男に刀を向けられ、それ以上動く事も、声を出すことさえ、出来なくなってしまった。
「はじめ!」
ピクッと、名を呼ばれ、反応した身体。
良かった。痛々しいのは、変わらないが、出血は、たいしたことない 。
ホッとしたのと同時に、首元に感じた、冷んやりとした感覚。首に、刀を突き付けられたのだと、すぐに理解した。
「ちぃちゃん!」
「手を出さないでね。総ちゃん。よっちゃんも、みんなもね。」
「ちぃ!」
そんな、何でだ?って顔しないでよ。私だって、どうして良いのか、わからないんだから……。
「誰の命で、ここに来た?」
「答える必要はないと、言ったはずだが?」
相手をキッと見据えた千夜の瞳。
「答えろ。お前達は、見廻組だろ?
殿内を殺ったのも、清河を殺ったのも、お前達だな?新選組を潰してどうするつもりだ?」
首に当たってた刀が離れた。
動揺しているのか?はたまた、呆れているのか?
「これは、藩からの正式な命か?
それとも———お前達が勝手にした事か?」
クククッ
「どちらにせよ、お前達に手も足もでまい!」
刀を構えた男達。
確かに、手も足も出せない。
こいつらが、”会津藩”の命で動いてたとしたら、絶対手を出してはいけない相手。
会津藩御預かり新選組、なのだから。見廻組と言ったが、否定はされなかった。
見廻組は、会津藩正規組織。
新選組は非正規組織。
この差の違いは、多分、生まれ。
見廻組の人間は、旗本、御家人そんな人ばかり。
ここでも身分。本当に鬱陶しい。身分なんかで縛り付けるのが、
————どうする?
みんなを救う方法は、確かにある。だが、自分の正体を明かす事になる。平隊士達の前で————。
バッと、千夜は立ち上がる。一か八か、やってみるしかない。
パンッパンッパンッ天井に向かって空砲を打つ。
男達は、千夜の行動を驚きながらも、止める事は、出来なかった。
「いい?新選組は動かないで。これは、私が片付ける。」
「ちぃ!お前、何を言ってる?狙われたのは俺たちだ!」
「だったら手を出せる?この人達は、会津藩の人間。手を出せば、新選組はなくなるよ?
————正式な命なら、確実に。」
闇に葬りさられる。
「会津藩の人間?」
「お前一人で、勝てると思って居るのか!」
「……」
銃を持ってるからか、相手も斬りかかって来ない。勝てるなんて思ってない。
助ける方法が、あるとすれば、私が、幕府の人間に、椿になりすませばいい。そう。————徳川椿に………。
メチャクチャなのもわかってる。
でも、助ける方法は、それしか思いつかない。
しかし、正体をバラせば、自分は、此処には居られなくなる。そう思えば、見廻組に睨みをきかすだけで、身体は、素直には、動いてくれなかった。
「ちぃ!お前何迷ってんねん!死ぬぞ!」
「!」
突然、部屋に現れた黒装束。屯所待機を命じられた、山崎が島原の角屋に現れた。屋根裏からの登場に、見方も敵も驚いた。
「山崎、どうしてお前が?」
土方が、そう声を出した時だった。
パンッパンッ
突然の銃声に、千夜も、皆も驚きを隠せなかった。千夜は、銃を手には、して居たが、発砲は、していなかったからだ。
「おー!やっぱり、千夜だったか。」
突然現れ、見廻組の間を堂々と通る男に、呆れて息を吐き出した。
「あんた何してんの?」
「あ?助太刀?」
助太刀って、もしバレたら————。
「長州の高杉晋作だ!」
会津の誰かが、そう叫んだ。
あぁ。やっぱり……。
高杉に男達が、向かっていくから、とりあえず、はじめを避難させる。
「お前は、何を考えてる!」
今にも、手を上げそうな土方が、斎藤を運ぶのに、手を貸してくれた。沖田、山崎も駆け寄って来る。
「だって、手も足も、でないじゃん、会津相手じゃ。」
「ちぃちゃん、高杉は敵です!」
「高杉は敵じゃないよ。
烝、はじめ見てあげて?流石に高杉一人じゃ————は?」
高杉の応援に、行かなければ。と、高杉の様子を見ようとしていた千夜の目に飛び込んできた光景に、ただ、驚きすぎて、低い声がでてしまった。
「おい。椿、釈をしろ。」
ドカッと座ったケイキ
「………」
「………」
こいつ、いつ現れた?そういえば、高杉と一緒にいた。
「慶喜様! !」
頭を下げる小寅。
「ああ、小寅か。」
「おい、普通に話してんじゃない!しかも、ここの酒は呑むな!」
「なんだ?新選組はケチくさいな。」
「………」
「………」
「毒が入ってんだよ!」
高杉を新選組を助けなきゃ、こんなバカやってる場合じゃない。
パンッパンッ
高杉が撃つ、銃声が聞こえてきた。
行かなきゃ、
「椿、佐々木という男は知ってるが、会津の人間だぞ?どうするつもりだ?」
「だったら、見て見ぬフリして、新選組を潰されればいいのか?
皆殺しになるまで、黙って見てればいいのか!?」
フッと笑う。ケイキ。
なに?なんなの?
「あんた、なんで、こんなトコに居るの?」
「仕事をしにな。」
仕事?島原の角屋に?
「慶喜様、この無礼な者は?」
「あぁ、椿か?こいつは、俺の妹だ。」
「申し訳ありません。」
は?いつ現れたの?しかも、
「————だれ?」
「俺の家臣だ。おい、あの行いはどう思う?」
「あれは不逞浪士では?」
なんなんだ、こいつら、わざとらしい会話しやがって。まって、今、不逞浪士って言った?
「ケイキ?」
「よかったな、仕事ができて。」
そう言って、笑うケイキ。
「はい!いってきます。」
新選組の仕事は、不逞浪士の捕縛、取り締まり。あいつらは名乗ってない。
私が、確認しただけ。思う存分、暴れてやる!
「全く、勇ましく、育ったものだ。」
土方に目を向けるケイキ。土方は、頭を下げるしかない。
「なにをしておる?土方、新選組は、椿だけの物か?責任なら、いくらでも、とってやる。
お前達も行ってこい。」
「ありがとうございます。」
走り出した幹部隊士たち。高杉の登場により、部屋のみならず角屋の中庭や、別の部屋までに
金属音が聞こえる。
「小寅、お前も、不逞浪士の仲間として捕縛だ。」
家臣が小寅を縄にかけて連れて行く。
「山崎、お前は椿に今もついているのだな。
引き続き、椿を頼む。」
「御意。」
「全く、世話がやける。」
そう、ケイキは外を眺めながら、嬉しそうに言った。




