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浅葱色を求めて…  作者: 結月澪
副長助勤
112/281

狙われた新選組


そして、その日の夜。

千夜のお祝いの為、皆が島原へと向かっていた。


場所は、角屋。なんで、新選組は宴というと、決まって、角屋なんだろうか?


そんな、疑問を残し、気づけば、目的地である、角屋の前に到着していた。


なんだろ?嫌な予感がする。ものすごく嫌な予感が、、、。


「ほら、ちぃ!お前の祝いの席だろ?早く入ろうぜぇ~。」


早く呑みたいのだろう。平ちゃんが早く入れと、千夜の背中を押す。


「う、うん。」


入ったらダメな気がしたのに、私は周りの空気に流され、店の暖簾をくぐってしまった。




(クスクス。さぁ、どうなるかな?楽しみだね。貴女のお祝いだもの。

————貴女が、一番望むモノをあげなきゃね。)


そんな声に、気づく者なんて、居なかった。





座敷に入り、お酒が、次から次へと、運ばれてくる。待ってました。と、言わん限りの隊士達は、店の人が持ってきたばかりの酒を手に、杯に酒を注ぐ隊士達の姿。店の人も、苦笑いするぐらいだった。


舞妓や芸妓が入ってきて、部屋の中は、華やかな雰囲気に色づいた。


酒独特の香り、それに混ざる匂いに、思わず立ち上がった。白粉や、料理の匂いではない。


「酒を呑むな!」


そんな事を言えば、注目を浴びるのは当たり前。


「ちぃ?」


「毒だ!酒に毒が入ってる!」


酒を呑もうとした隊士達が杯を落とす。お祝いなんて、してる場合じゃなくなった。一人の芸妓の手を見て、千夜は固まった。


「小寅、なんで手に、白い物がついてるの?」


小寅が、それを聞いて、手をバッと隠した。


「なんで小寅が?」


馴染みの隊士も居ただろう。そんな声が聞こえた。ただ、幸いな事に、隊士はまだ毒入りの酒に手をつけてなかった。


「さすが君菊。そう言うたら、よろしい?」


冷ややかな声。

新選組隊士の前で、堂々としている小寅が、そう言った。


「お前は————

スパーンッ


突然、開け放たれた襖に、さすがに驚いた。


「アレ?部屋間違えたか。悪いな!」


そう言って、笑った男。一人酔った男に肩を貸してる様子だ。


唖然とした隊士達、酔っ払いが部屋を間違えるなんて別に珍しくもない。


同じ襖で仕切られてるのだから………。

嵐が過ぎ去った様に、襖は閉められた。


「………」

「………」


あいつらは、バカなのか?

まぁ、いいや。


でも、なんで、ケイキと高杉が一緒に?

敵だよな?


知らない。見なかった事にしよう。うん。



「ちぃ?」

‎⁦‪

「他人の空似じゃない?」


と、あえて、深くは追求しなかった。


部屋を間違えるバカが、乱入したため、なんだか部屋の空気がおかしい。


「小寅、テメェは、ちぃに助けてもらった恩があるんじゃねぇのか?なんで、酒に毒を入れた?」


よっちゃんも、手当たり次第に、殺したくはないのだろう。とりあえず訳を聞くあたり、すぐに、手にかけようとしていない証拠だ。



しかし、目の前の小寅は、嘲笑うかの様に、口元に、狐を描いた。


「何が、恩や。おかしい事、言わんといて下さい。君菊は、知っとって、ワッチらをあの座敷にあげたんや。」



「小寅が、どう思ってようと勝手だけど私が座敷に誰を上げるかなんて決められない。そんなの小寅が良く知ってる筈でしょ?」



入ったばかりの千夜が、座敷の人間を決めるなんてありえない。


「………」


そして、小寅の表情から、後ろ盾に誰か居るのだと、感じた。だから、思いついた名を口にしてみた。


「会津藩主松平容保公。」


ビクッと小寅の肩が揺れる。


「そう。貴女は、会津の人間なんだね?」


「————っ。違う!」


「じゃあ、どこの者?長州?薩摩?それとも他の藩?新選組を消そうとした貴女は、何者?」


視線を彷徨わせた後、小寅は、三つ指をつき、頭を下げた。


「ワッチは、普通の芸妓でありんす。」


凛っとした声で、そう言い放った彼女に、土方や隊士らの冷ややかな視線が突き刺した。


「普通の芸妓が、毒なんか盛るわけねぇだろうが!」


ガシャーン

怒りに任せ、お膳をひっくり返した、土方。それでも、苛立ちは、収まらないのか、自らの手を震わせ、爪が食い込む程強く握りしめた。そんな苛立ちを見せる土方を見るのは、初めてだった。


芸妓達の悲鳴が響き渡る部屋の中、こちらを見つめたままの小寅からは、一切声は上がらなかった。


よっちゃんが、ひっくり返したお膳へと、視界が向く。食べ物の匂いが漂って来たからだ。

一切手をつけなかったお膳。どっちみち、酒に毒を盛られたのだ。お膳にも、盛ってないとは限らない。


ご飯を食べられない子も居るのに……。と、無残に散らかるそれをみて、小さく息を吐き出した。


いつもなら、すぐに刀を抜く新選組だが、此処は島原。刀は、入店の時に、預けるのが決まりとなっている。刀箪笥がちゃんと設けてあるため、今は、丸腰の新選組。


睨みを利かす事しか出来ない。


「斎藤、刀を持ってこい。」


「御意。」


よっちゃんが、鬼の仮面を被ってしまった。

刀を取りに行った、はじめの背を、見送るしかなかった。そして、次の瞬間、


「刀。」

小寅の口が動いた。でも、彼女は、怪しく笑う。どうやら、素直に喋るわけじゃなさそう。


「そんな、物がなきゃ、何にも出来しんの?

新選組は。」


冷ややかな視線をよっちゃんに向ける小寅


「そんなもんだと? !」


新選組隊士の怒鳴り声 。二人の芸妓や舞妓は青い顔をして、身を縮めた。


刀は武士にとって命


そんなものと言われたら、そりゃ怒る。


「君たちやめなよ。どうせ、この女にはわからない。


僕達が、どんな想いで、刀を振るってるのかなんて。ね。」


こんな女に、わかってもらおうとも思わない。

沖田が立ち上がりながらそう言い放った。


「そんな事より、なんで、今日!よりによって、ちぃちゃんのお祝いの席に毒なんて盛ったのさ?」


「邪魔なんどす。君菊が。」


鋭い視線が、千夜に向けられた。


「ちぃが、お前に何をした!」


土方の怒鳴り声にも、怯まず、小寅は、負けじと鋭い視線を土方に向ける。


————この目、


こいつは、人を殺めた事ある目だ。


土方は、そう、確信した。


ほとんどの隊士が立ち上がり、舞妓や芸妓は怯え、その場に座り込む。小寅だけが、何も臆する事なく、立っていた。


私を睨みつけたまま、普通の芸妓が

こんなに、殺気を出すなんて考えられない。


そして、殺意を感じる視線は、私に向けられたもの。


新選組の中に、逃げずにとどまっている彼女。

毒を盛るだけなら、座敷に上がる必要はない。

呑んでしまってから、座敷に入った方が疑われない筈。


見つかる危険性が高いのに、彼女は、なおも、この部屋に居続ける。刀を持ってない隊士相手なら逃げるなんて容易いはず。


それでも、逃げようとしない?

なんで?どうして小寅は逃げない?


店に入る前感じた、あの、嫌な予感。


「————…はじめは?」


刀を取りに行ったまま、まだ、帰ってきてない。


そんなに時間がかかるか?


いや。よっちゃんは頼んだ時、怒っていた。


それに新選組が狙われたなら、はじめなら、刀を早く届けるはず。小寅が逃げない理由、

スッスッっと

大勢の着物が擦れた音に千夜は、気がついた。


そうか、

「小寅、あんたは、私達をこの座敷に留まらせるの事が仕事だったんだね。」


ニヤリ笑った小寅に、背筋がゾクリと震えた。






























































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