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浅葱色を求めて…  作者: 結月澪
長州の志士達
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突然の訪問者ーー弐

ちぃちゃんが、僕の部屋に戻って来てくれて、安心した。

壁にもたれかかり、書物を読み進める彼女。

なんの書物を読んでいるのか?好奇心に任せ、書物を覗き込む。


「…………。ちぃちゃん、それ、異国の書物?」


文字が全く読めない、ソレは、どう見ても、日本語では無かった。


「うん。そうだよ。」


そう答えるが、僕は、三つの疑問を抱く事になる。

一つ目は、何故、山南さんが異国の書物を持っているか、

二つ目は、その書物に書かれている事はなんなのか、

三つ目は、ちぃちゃんは、異国の言葉がわかるのか、


なんか、覗かなければ良かった。と、

今更ながら後悔した。

真剣に、書物を読み進めるちぃちゃん。

邪魔をするのも忍びない。そう思って、その三つの疑問は聞けずじまいだった。


夜になっても。部屋に帰れない千夜は、山南から借りて来た、書物も読み干してしまい、書物を返しに行くと言って、書物を手に沖田の部屋を出た。

土方の部屋の近くを歩く千夜。

自室に、視線がいってしまうのは、気になるから。


まだ、いるんだよね?話し、長くない?

朝から、こんな夜になるまで、

話が長引くなんて、考えても居なかった。


「まぁ、いいや。」


と、再び、山南の部屋に向かって縁側を歩き始める。


冷たい風に、借りた書物を抱きしめるようにして、自分の腕を摩った。


何?この朝と夜の気温差。


火鉢も、そろそろ出さないとな。もうすぐ、十一月だし。

そう思った時だった。


「————!————?」


「————……!」


言い争う様な声が聞こえてきた。

何?喧嘩?咄嗟に、そう思ったものの、会話の内容なんて、全く聞き取れず、ただ、聞いた事のある女の声に、千夜は、足を停止させた。


私、この声知ってる。


なんで?だって、いるわけないよ。


気のせいだと、自分を納得させ、その場を離れ様とした時だった。


スパーンッと襖が開き、


「ちょっと、待てっ!」

よっちゃんが、女の人の腕を掴んで、どこかに行かないようにしたのは、わかった。


私が、わからないのは、


なんでこの人が、此処にいるのか?って、事だけで、


「梅姐?」


信じられないと言った千夜の声と、千夜が持っていた、山南から借りた本が音を立てて、床に落ちた。


なんで?どうして?此処に、彼女が居るの?


————芹沢に愛され、芹沢を愛した、お梅の姿に、千夜は、目を見開いたまま、微動だにしない。


『芹沢はんと一緒に、おりたいんよ。なぁ。千夜?うちも、殺して?』


私は、彼女の望みを叶えた。


————私が、初めて、手にかけた彼女が、今、目の前にいる。


「ちぃ?」


芹沢を追った梅姐を壬生浪士組に関わらせない様にしてきたのに、どうして?

————新選組になった今、現れるの?


紅い。朱い。赤い己の手。


「違う。違う。————嫌だ。嫌っっ!」


頭を横に振りながら、千夜は、縁側に崩れ落ちる。何かに怯えた彼女を、今まで、見た事がない。

赤く見える手。


大好きだった、梅姐を、

————殺したのは、私だった。


また、繰り返すの?あの過去をっ!


様子が可笑しい千夜に、土方は、思わず駆け寄った。


「ちぃ?」


情けねぇ声が自分の口からこぼれ落ちる。


手と体を、カタカタと震わせ、目は虚ろな千夜。しきりに、首を横に振る。


「ちぃ? !」


ハァハァと、苦しそうに肩で息をする千夜と視線が合わない。


「山崎!山崎は、いないか!」


たまたま、千夜の帰りが遅いと、部屋から出てきた沖田が、異変に気付き、駆け寄ってきた。


「ちぃちゃん!何?何で、ちぃちゃんが!」


「わからねぇ。」


土方に、呼ばれ、その場にやって来た山崎


「土方さ————ちぃ?すんません。」


千夜の異変に、土方に声をかけてから気付き

土方を押しのける形で、千夜の様子を診た。


「ちぃ?」


何で?何でや?何があったん?何でちぃが、震えてる?


山崎は思い出した様に、千夜の懐から、

薬が入った巾着を取り出し、千夜の口に薬を放り込み上を向かせた。


ゴクン


上下に動いた喉に、少なからず安堵した。



三人の男が、縁側で千夜を囲む。

少し、呼吸が落ち着いてきた時、


「副長?沖田組長も

そんな所で何を————?千夜さん? !」


そこに現れたのは、中村だった。

千夜の様子を見てから土方の部屋の前に佇む女に鋭い視線を向けた。


「なんで、あんたが、千夜さんの前に現れるんですか? !」


女を知っているかの様な物言いに、

「中村?お前、こいつを知っているのか?」


と、土方が声を出す。


「この人は、芹沢鴨の妾になる筈だった人。

千夜さんが、初めて、殺した人です。」


千夜が初めて殺した人?


女の口角が上がるのを見て、背筋が凍った。


「なんで、そんな奴が。」


今頃、現れた?


「副長、何を言われました?」

「俺の子が出来たと。そう言われた。」

「確かに、目のつけどころは、良かったかもしれませんが、残念ながら土方副長は、あんたには、手出しする訳ない!

だって、土方さんは、知っていたんだから。

あんたが、————芹沢鴨の女だってね!」


ですよね?と、土方に確認する中村。


「あぁ。」


そう。俺は、知っていた。芹沢が、この女の所に通っていた事を、芹沢鴨が死んだ今、新選組に近づくのをやめろと、話をしていたんだ。


そうしたら、突然、俺の子が居ると騒ぎ出した。


何が目的か、そんな事は知らないが、そんな事を、ちぃの耳には入れたく無かったのが本心だ。


「うるさい!」


明らかに動揺した梅という女


「千夜さん、何をしてるんですか?

そんな所で、立ち止まるんですか?


また、後悔するんですか?


過去に囚われたら、前に進めない言ったのは誰ですか?あなたは、歴史を変えるんでしょ?


託されたの忘れたんですか?」


————託された?


あぁ。そうだ。私は、託された。


芹沢に、新選組を頼むと、近藤勇を頼むと

あいつが命懸けで作り上げた土台に、私は、立派なものを作り上げなきゃいけないんだ。土台が立派なのに、建物が貧弱じゃ格好悪いだろ?


過去に囚われたらダメ。


わかってる。だけど、体が言うことをきかない。カタカタと震えるだけの体。私は、みんなが思うほど、強くなんてない。



































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