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浅葱色を求めて…  作者: 結月澪
長州の志士達
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虫歯


帰りも、将軍家茂公の警護だ。京に、上京する道中。コンクリートで道が整備されていない。

この時代の道は、砂利だらけで、歩きづらい。


千夜も、もちろん、将軍の護衛の真っ最中なのだが、行きは、将軍の籠すら見えない位置に居たのに、今は、新選組の真横に、将軍さまの籠がある。


そして、ニコニコしたケイキの姿に千夜は、脱力する。しかもこの方、籠にも乗らず千夜の横を歩いてる。突き刺さる家臣らの視線は、相変わらず痛いまま。


新選組はまだ無名。名を轟かせるのは、池田屋事件。名を知らぬ者たちが、将軍の籠の横に居るのだから、その視線を浴びるのは、致し方ない。

千夜の中に、迷いが生まれたのは、この頃だった。

はじめ、長州に新選組を持っていって、薩長同盟に参加する予定だった。


ケイキ、いえもち君。


二人とは、血縁関係があるからか、助けたいと思ってしまった。幕府は衰退していく。

何をどうすればいいか、わからない。


ブツブツと、考え事をして歩く千夜を見て

藤堂は、土方に話しかけた。


「ねぇ土方さん?ちぃ、何、呻いてんの?」


「うーん。」


と、何やら考えてるらしい千夜をチラリと見て

小さな、ため息をもらした。


「わからねぇが、———おい、ちぃっ!」


少し控えめに言ったつもりだったが


「はひ! ?」


千夜は、驚いた上に噛みやがった。


「今は、警護中だ。」

「……ごめん。」

「ちぃ、口大丈夫か?」

ケラケラ笑う藤堂。

みんな真剣な中、そんな事をしたら、さらに突き刺さる視線に、みんな黙るしかなかった。



しばらくして、やっと休憩。

それでも、警護は解かれる事はない。


「いえもち君、籠の中大丈夫?」


行きに熱中症にかかった、将軍の体調を気にかけた千夜は、籠を開け放ちながら声をかけた。


「あぁ、椿か。大丈夫だ。」


竹筒の水を渡し、水分を取るように促す。

私は、千夜だって言ってるのにな。


「いえもち君は、佐幕?」


悩んでたからか、唐突に、そう、聞いてしまった。


「椿は、本当、可愛いな。」


そんな事、聞いてません。なんなんですか?人が悩んでいるのに。


そう思っていたら、急に、自分の頬に手を当て顔を顰めた将軍。


たしか、虫歯が酷かったって、、、。読み漁った、歴史書に書かれていた事を思い出す。


「歯、痛い?見せて?」


顔を近づけてくる千夜に、将軍の顔は、赤く染め上がる。


///


いや。顔を赤らめる意味がわからない。


「歯、見るだけだよ?」


口開けて?と、お願いすれば、なんとか口を開けてくれた。


歯を診る千夜だが


————…あれ?虫歯があんまりない?


確か、31本中30本が、酷い虫歯だと書かれていた。今、二、三本は確認できたけど、それ以外は、虫歯らしきとこはない。



————…なんで?


死ぬまでに増えたとしても、そんな、病になるぐらい酷く、しかも30本も増えたりしないもっと、酷いかと思っていたのに。



これを意味する事、家茂君は、病気で死ぬのではなく、暗殺されるんじゃないか?


なんで?だって、いえもち君は、13歳の時から将軍になって家臣からも慕われてた。


いえもち君が死んだ時、


『今徳川は死んだ』と言われた程だ。


暗殺される理由がわからない。

歯を見終わり、

「ありがと。」と、言った千夜は、どこか、上の空で、家茂は、先ほどの千夜の問いを思い出し「椿、俺は尊王攘夷だよ。」そう、告げた。


将軍が、尊王攘夷を掲げている。

おかしいか?と、言われたら、おかしくはない。


ケイキも尊王攘夷。将軍だからって、佐幕を掲げているとは限らない。ただ、口にしないだけ、家臣達が迷わないように。


そんな大事な事を、私は、今、聞いてしまった。



「ごめん。」

「椿、おいで? 」


ふわっと、抱きしめられる。


こんな警護がたくさん居る中で、、、。

そう思ったけど、引き離せなかった。


いえもち君の手が、僅かに、震えていたから。



震えた体を、抱きしめ返してあげる手を、私は持っていない。


幕府を利用しようとした。あわよくば、裏切ってしまおうと考えた私に、————そんな手や腕はない。


どれだけ、いえもち君が悩み、苦しみ将軍に居るのか、今頃、気づいた。


将軍だって人間。自分の思想すら、押し殺さなきゃいけない。自分の考えなんて通らない。好き勝手に生きれない。それを13歳の時から


将軍だから、自由気ままって訳じゃ無かった。


私なら耐えられない。そんな重圧を抱えた、いえもち君。

「————…ごめんなさい。」



それしか、言葉にしてあげられなかった。



****


護衛を終え、壬生の屯所にやっと戻ってきた。


頭の中は、幕府、長州、尊王、佐幕、攘夷、開国。いろんな思想を持ちながら、共に同じ国で生きれないのだろうか?


そればかりを考える。


LOVE&PEACE。そんなので、世界は平和なんかにならない。


こんな言葉、平和だから言える言葉。


刀振り回されて、愛を語ってたら、ただのバカだ。愛があれば平和に、なんて、なるわけない。


「ちぃちゃーん。おかえり~」


屯所の門間で着けば、ガバッと効果音がつくほど勢いよく、飛びつかれる。

そのまま見事に、地面に押し倒されてしまった。


犯人なんてわかってる。


「ちぃちゃん、ちぃちゃん!」


総ちゃんだ。


大型犬じゃあるまいし、やめてくださりませんか?頭おもいっきり打ったし、


「総ちゃん、痛いよ。」


倒れたまま文句を言ってみる。


「おかえり、ちぃちゃん。」


満面の笑みで、お出迎えしてくれた。今の総ちゃんに、文句なんて通用しなかった。


「ただいま。」


寝転んだまま見る空は、青かった。


青い、青い空。清々しい程だ。誰も争いなんて望んでないのに、なんで、話し合いという方法では、解決しないのだろうか?


どうして、殺し合いと言う選択肢しかないのだろうか?



「総司!屯所の真ん前で、ちぃを押し倒してんじゃねぇ!ちぃもサッサと起き上がれ!」


————騒がしい。


「なんなんですかぁ?

土方さん、ちぃちゃん独り占めしてさぁー」


口を尖らせて言う沖田だが


ちげぇだろ?


「いつ、俺が独り占めした?あぁ?

将軍様の警護に行ってたんだよ!仕事だ!」


「さぁ、ちぃちゃん、鬼がなんだか騒いでるから部屋もどろう?」


え?は?怒らせたのは総ちゃんだよ?


「帰って早々これだよ。」


呆れた平ちゃんの声。


「まぁ、元気な証拠ですね。」


ため息をつきながら、山南さんの声がつづいた。


「騒がしい思うたら、門の前でなにしとるん?」


呆れた山崎


「おー帰ってきたのか!おつかれさん。」


原田の声が聞こえる


「————…眠い。」


「おい、ちぃ!そんなとこで眠るな! !」


だって、みんなの声がして、


青空の下だし、お昼寝にはもってこいだよ?


やっぱり、みんなが居る屯所が一番落ち着く。


「……」


「おい、ちぃ?」


静かになった千夜。


「あー!ちぃちゃん寝ちゃった!」

「……」

「……」

「……」


スースー


マジか! !



「おいおい。千夜には、危機感ってもんはないのか?」


「本当によく寝る子ですねぇ。」

「ちぃちゃん可愛い!」


「まぁ、俺らいない時、不逞浪士の撃退もしたしな。あれ、ほとんど、ちぃが仕留めたし、疲れたんだろ?」


「え?ちぃちゃん戦ったの?」


なにそれ、僕きいてないんだけど?


「あー、俺は見てねぇけどな。はじめ君が一緒だった。」


斎藤にみんなの視線が向けられる


「————…なんだ?」


斎藤に、不逞浪士との戦いでの、千夜の様子を語らせるのは無理みたいだ。


「すごかったですよ。千夜さんは、敵を一撃で確実に仕留めて、しかも銃でも、外さなかったですからね。」


私も助けられました。そう言った山南。


「見たかった。土方さん、やっぱりずるいですよ!」


ずりぃとか、そういう問題なのか?


でも


「舞ってるみたいに戦ってたぞ。あれは、かなり綺麗だった。」


「はぁ?やっぱりずるいです!」


「ああ、あれは————ズズズ」


「はじめ君、鼻血!」


「なに想像したの?僕かなり気になるんだけど!」


「ああ、すまない。————…のぼせた。」


なにに、のぼせるのさ!涼しいよ?今10月!


「俺もみたかったなぁー」


そんな藤堂の声に、皆が頷いたのだった。




















































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