表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
浅葱色を求めて…  作者: 結月澪
長州の志士達
104/281

岩城升屋襲撃と山南の怪我

スヤスヤ眠ってしまった千夜さん


「本当、この子は、よく眠る。」

山南は、己な膝に、千夜の頭を乗せた。

気持ち良さそうに、眠る千夜の頭を優しく撫でる 。


不思議な子ですね。芹沢暗殺の時から、

震えが止まらなかった手が、貴女に触れた今は震えていない。


「あなたのおかげ、ですかね?」


私の悩みなんて些細な事。そう、思わせてくれる。本当、あなたは————不思議な子です。


「山南さん、悪かったな、嫌な役回りさせっちまって。」


山南は入ってきた土方を見て、クスッと笑った。


「本当、貴方は、過保護ですね。総司の言う通りだ。」


う……総司の野郎…。山南さんに、なに吹き込みやがった?


「聞きたかったら、自分が聞けばいいのに、

私を使うなんて……。でも、いいものを貰いましたから、今日は、いいにします。」


「いいもの?」


「ええ。目には見えない、いいものです。」


「???」

何を言ってるのか、サッパリわかんねぇ。そんな顔を見せる土方に、山南は、また笑う。


土方くんには教えません。

手の震えを止めた、小さな奇跡の事は——。


「また後で…」

そういって部屋から出て行った山南。

結局、山南さん何貰ったんだよ?土方の頭の上には、ハテナがいっぱい。


しかし、そう思いながらも、畳の上に寝ている、ちぃを座布団に移動させる。


「はぁ。俺も、こいつには、本当甘いよな。」


「……ん…ん?アレ?よっちゃん今、何時?」


何時?座布団に移動させたから起きちまったか。と思いながらも、彼女の意味不明な言葉に首を傾げた。


「違う、何刻?」

「あ?」


起きて早々、何やら慌てる千夜に、唖然として、聞かれてるのに答えられない土方。


「高麗橋傍の呉服商・岩城升屋に不逞浪士数名が押し入る事件!今日だよ!」


「いや、何を言ってる?」


説明を願いたい。切実に……。起きて、早々何なんだ?


「はい、よっちゃん、サッサと刀持って行くよ!みんなは?」


「出払っちまったが?」

頭を抱えた千夜。


部屋に戻ってきた山南は、二人を見合わせ、声をかけた。


「どうかしたんですか?」


「山南さん!刀を持って、岩城升屋に急ぎますよ!」


「はあ?」


土方くんどうなってるんです?と言う顔で土方を見るが、わからねぇと首を振るしかない。


何してんだ?私は、山南さんの怪我を防ぐ為に

人数多く連れてきてもらったのに、寝ちゃうとかありえない!


岩城升屋に向かってる途中に、斎藤を発見。


「どうした?急いで」

「不逞浪士! 岩城升屋。」


暗号か?急いでいるから文書にできない千夜。

岩城升屋について、すぐ、不逞浪士の罵声が聞こえてきた。


「金を出せぬとは、どういう了見だっ!」


カチャッと刀を抜いた、不逞浪士達を見て

やっと、千夜が、この事件を止めたいのだと悟る。


「山南さん、腕。気をつけてくださいよ。

よっちゃんもはじめも、怪我なんかしたら、

塩塗りこむからね!」


「いや、怖えぇよ!」


「だったら怪我をしない!いくよ!」


そう言って、突入してしまった千夜。


「まったく。指揮をするのは、俺の仕事だっ!」


後を追う土方


「やれやれ。久しぶりに暴れますか。」


腕は刀を握っても震えなかった。フッと笑って、店の中に消えた山南


「全く意味がわからんが、参るっ!」


店の裏に回った斎藤



店の中に突入した、四人。


ザシュッ シュッ キィンッ千夜が確実に一人一人仕留めていく。


舞っているかの如く、その姿は美しい。土方は、突入早々に、動きを止めてしまった。


「よっちゃん何してんの!死にたいの?」


横に来ていた、不逞浪士にも気付かずに、千夜を見つめていた土方に、そう声が掛けられる。


「わ、悪りぃっ!」


ザシュッ


「ギャァア!」


そんな、さけび声と共に、不逞浪士は倒れこむ。


キョロキョロと、辺りを見渡す。

山南さんはどこ?敵を切りつけながら山南を探す。

見つけた!

しかし、山南の後ろに迫る敵。ここから走ってじゃ、間に合わない。そんな事を考えている間に、敵はジワジワ山南に近づいていく、


「山南さん!危ない!」

土方も、気がつき、そう声を上げるが、土方も助けに行ける状態では無かった。


パンッ シュッ


ドサッ

千夜の銃は敵に見事命中。クナイも、不逞浪士の腕に突き刺さった


ホッ。と胸を撫で下ろす。よかった。安心した千夜の背後に忍び寄る黒い影。


「ちぃ!後ろ!」


バンッ


ズルッと

千夜の背後に居た不逞浪士が倒れた。


「寿命が縮まる!よそ見すんじゃねぇ!」


「よっちゃんに言われたくないよ!」


………


しばらくの斬り合いの後、静かになった店の中。


「終わったか?」

「山南さん、刀、大丈夫ですか?」

「ははは、ボロボロですね。」

山南の刀はヒビが入り折れていた。


「山南さんの大事な刀。」


「いいんですよ。今度、刀を一緒に、見に行ってくださいね?」


「はい。喜んで。」


こうして、岩城升屋の不逞浪士を撃退した。

この功により山南は松平容保から金8両を賜った。


このとき山南が使った、「播州住人赤心沖光作」の銘が入った2尺8寸5分(約86.4センチメートル)の刀は、激しく刃こぼれして切っ先から1尺1寸(約33.3センチメートル)のところで折れている。この刀の押し型(刀の形を紙に写し取ったもの)は土方の手で小島鹿之助に送られ、現在も小島資料館で見ることができる(ただし展示品は模写)。


不逞浪士撃退後、岩城升屋から、縄で縛られた不逞浪士が連行された。山南さんは、この不逞浪士達に本当なら、瀕死の重症を負わされた。


そして、その怪我の所為で刀を握れなくなり、

山南さんの脱走にも繋がった。


だけど、無傷。


「はぁ、よかった。」


山南を見つめる千夜を見て、斎藤はフッと笑った。


「あんたはいつもボロボロだな。」


はぁ?自分の姿を見れば、赤く染め上がっていて、斎藤の言うように綺麗ではない。


「いいんじゃない?戦ったって感じで。私が斬られたら、きっと敵を汚しまくるよ?」


「千夜らしいな。」


「はじめは、綺麗すぎるよ。」

本当に、人斬ったの?

突入した時のまま、赤を浴びない斎藤に、そう言った千夜。


「————失礼なやつだな。」


と、斎藤は、千夜にジト目を向けた。


「悪かったね。忘れるなよ。はじめ。不逞浪士を斬っても、平和なんてこない。

私達が斬ったのは、人だ。命を奪った。その上に、私達はいる。————決して、忘れるな。」


そんな事を、考えた事は無かった。敵だから斬る。それだけお前は、人、一人斬るのに、そこまで考えるのか?


「胸に刻んどく。」


強く、綺麗になった千夜。


俺が負ける日も、もしかしたら、近いのかもな。


斎藤は、そう思いながらも、口角を上げたのだった。


山南が、怪我を負わなかった。小さな変化。こんな事に、喜んではいけないかもしれない。


だけど、喜んでしまう自分がいる。


だって山南さんは、今も、ボロボロの刀をしっかり握っている。自分が、見る事が出来なかった姿に、千夜は、笑みを浮かべた。



























評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ