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91.師匠

 走るのが楽しい、なんて思った事が最近全然なかったけど……今、ずっごく楽しい。


 走るなんて単純な事でも、久しぶりにやると笑みが零れるぐらいに、楽しめる。


 それに、オセラの温かい手は迷う事なく、私に従ってくれる。久しぶりに誰かと一緒に手を繋いで、走った気がする。


 タッタッタッ、走る音が二つ重なって……少女二人は噴水の前で足を止めた。


「ねぇ、本当にありがとう。もし良かったら……」


 絵里が笑みを浮かべながら、オセラを見る。オセラは少し息が切れている絵里と違い、全く呼吸を乱すことなく、絵里の言葉の続きを待つ。


 絵里は息をしっかりと吸ってから、


「友達になろ!」


「まあ、いい」


 絵里の言葉に少し重なる程速くオセラは言葉を返し、絵里はキョトンと首を傾げる。


「えーと、本当にいいの?」


「いい」


「やった!ねぇ、今から何する?」


 絵里が嬉しそうにオセラの手を握って、目を合わすと、オセラも少しだけ笑みを浮かべて、


「それなら、歩きながら話をしよう。絵里。好きな人はいるか?」


「えっ、えーと……」


 オセラは絵里の手を握ったまま、ゆっくりと歩き出す。


 絵里は戸惑いながらも、少し小さな声で、


「うん。いるよ……ちょっと、喧嘩しちゃったけど」


「そうか。昔は私も喧嘩ばかりしていたが……自分から謝ればいい。そうすればきっと、絵里だから許してくれるはずだ」


 オセラの悲しげな声。それに絵里は、


「オセラは好きな人いるの?」


 話題を変えようと、オセラに質問をする。


「いるな。いや、正しくはいた」


「そ、そうなんだ……どんな人だったの?」


 なんかどっやっても悲しい話になる気がした絵里は、取り敢えず気になったことを聞いた。


 オセラはそもそも、好きな人がいるようには見えないし……どんな人を好きになったのだろうか?


「優しい人……一言で言ったら、お人好し、だな。皆に好かれ、強かった」


 オセラは遠い目をしながら、絵里チラッと見て笑みを浮かべると、


「やめよう、こんな話。機会があったらまた……それでいい。絵里、食べたいものはあるか?」


「甘いもの!」


「分かった。奢ってやろう」


 オセラはころっと表情を変えて、絵里に手をしっかりと握って、絵里の歩く速さに合わせる。


 絵里はそんなオセラに、


「んっ……」


「……絵里は、モテるな。きっと、絵里を好きな人が沢山いる」


 オセラに寄り添って、頭をくっ付ける。すると、オセラは頭を撫でて……それから、


「絵里は……師匠と少し似てるな。懐かしい」


 優しくそんな言葉を零し、絵里の頬っぺをむにゅっと掴んで、


「柔らかい、師匠よりも……絵里、急にいなくなるなよ?」


 にぎにぎ弄り楽しそうにしながら、そんなお願いを言ってきた。

面白い、続きが読みたい、そう思った方ぜひブックマークそれと、

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