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とある僧侶が鬱陶しい

 どうすればいいんだ。


 真面目に触手は頭を抱えた。


「雑用でも何でもしますので、力不足かもしれませんが、どうか、どうか連れて行ってはくれませんか!」

「じゃあ今ここで裸になれといったら――」

「なります!」

「いえ、冗談なので、服に手をかけないでください」


 なんなのこの僧侶。アホか、アホの子なのか!? と触手が戦々恐々とする。

 しかしそんなことには気付かず、アホの子は遂に土下座まで始めてしまった。


「お願いします! わたしは町の皆のためにも、あの魔王を打倒しなくてはいけないんです!」

「いえ、知ったことじゃないので自分一人でやってください」

「そこをなんとか!」

「正直こんな所に出現する魔物と相討ちでは、完全に力不足ですし、足手纏いになるので」

「戦闘には参加しませんから!」

「いやほんと、いる意味無いので帰ってください」

「家族の敵が討ちたいのです!」

正式まっとうな騎士団にでも入団してください」


 触手が踵を返しても、がっしりと足にしがみつき、離れようとしない。


「お願いします! 絶対に強くなりますから! そのためだったら何でもしますから!」


 いい加減もうまるっと吹き飛ばそうかとも触手は考えたが、思いとどまった。

 どちらにせよ、雑用係は必要なのだ。だったらしっかり利用した方が誰も不幸にならずに済むのでは?


 呪いのせいでロクに探知も利かないので、頼りになるのは人からの情報だけだった。

 ぶっちゃけ触手が本気で魔法を使えば事は簡単に済むのだが、本人にはその気がまったくない。酷く疲れるので気が進まないのだ。


「……わかりました。雑用係として付いてきてください」

「は、はい!」


 まあ、正直付いてくるのが危ないとかなんとか言ったが、触手の力量ならば一秒かけずに戦闘を終わらせることさえ可能なのだ。

 本人は面倒くさがってやらないのだが。


 かくして、アホの子が触手の旅のお供になったわけである。


「あの、そう言えば、名前をまだ聞いていませんでした!」

「名前ですか」

「はい。あっ、わたしはミリア・オルカンと申します!」


 キラキラと期待に満ちた目が、触手に刺さる。


 しかし、彼はアルドレインなどという長ったらしい上に大仰な名前をそうそう名乗るつもりは無かった。


 理由は単純。

 既に何度か使ってしまっているのだ。それも数十年前に。


 アホの子――ミリアは、恐らく冒険者組合の組合員だろう。

 一応触手もそこの組合証を持っているので、組合員と言えなくも無いのだが、それも数十年前のことである。


 十中八九、人間でないことがばれてしまう。


 人間というのは、人間以外の隣人に過剰に反応することを知っている。

 そして万が一記録が残っていたら、大層面倒なことになるのも……まあ、簡単に予想出来た。

 流石に数百年前の記録が残っているとは思わないが、数十年前くらいのものなら残っているかもしれない。


 そんな長い時間、外見が変わっていないのはどうやっても不自然だろう。


 おまけにあそこのシステムは中々に複雑で、一々改竄するのも本当に手間なのだ。

 勿論触手はそんなことはしない。


 記録がなくなる頃合に、同じ名前で再発行である。


 一応用意していた偽名などもあったのだが……役に立つとは用意した本人さえ思っていなかった。


「アーロン。ただのアーロンです」


 触手――アーロンが、その偽りの名前を告げる。


「アーロンさんですね! あ、冒険者組合には入っていますか?」

「いえ。でもそうですね。今回は組合の情報網を頼りにさせていただきましょう」


 流石に自分の足――しかも重石ミリアつきでは時間ががかかると理解している。

 だったら上手く重石ミリアを利用するだけのことなのだが。


「では案内しますね!」


 意気揚々とミリアが歩き出す。


 無言でアーロンは周囲に魔力を奔らせ――周囲のの脳を潰した。


 最も脆弱かつ最も重要な部位を無残に潰され、魔物共は即死した。

 アーロン達を襲うつもりだったのだろうが、相手が悪かった。


 一々このアホの子ミリアの目の前で詠唱するつぶやくのもバカらしい上、この魔法は回復魔法より余程手がかからないため、無詠唱で発動させている。


 古来より、物は作るより壊すほうが簡単なのだ。


「? 今なにか動きましたか?」

「いや、気のせいじゃないですか?」


 アーロンは心の中で感心した。


 今のは魔力の微妙な動きを感知されたのだ。

 ただのアホの子と思いきや、案外魔力感知の精度が高い。


 触手らしい素晴らしく最低の案を彼が思いつくのに、一秒と時間はかからなかった。


「ミリアさん、強くなりたいと言っていましたね?」

「はい!」

「手っ取り早い方法があるのですが……如何でしょうか?」

「ぜ、是非!」


 アホの子って話が早くていいわー、と内心黒い笑みを浮かべながら、表面上はにこやかな笑顔でアーロンはミリアの肩に手を置いた。


「では早速。……変化せよ」

「え?」


 きょとんとした顔が一瞬で苦痛に歪む。


「い、いた、いたたたたたたたたたたたたたたたたたた――――っ!?」

「はーい、後十秒耐えてくださいねー」

「え、ちょっ、十秒とか無理で――うなああああああああああああああああああ――――っ!?」


 言質は取った。慈悲はない。


 合意の上で行われた、アーロンによるミリアへの

 きっちり十秒後に終わったことが、彼女にとっては救いだったのかもしれない。

 ~前回忘れたヤツ~

 本作品は「触手なんだけど触手らしくなんて生きたくないし出来ればニートで(ry」の主人公、アレン君の過去話ですが、先に「触手ニート」を読んで読んでいなくとも、単品で楽しんでいただけると思いますので、どうぞよろしくお願い致します。

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