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最終話 わたしの騎士様

 

 男の子を避難所の近くまで運ぶとジョン様が居た。

 わたしを見たジョン様は頭の上に「?」マークを浮かべていたけど、


「おいなんでアンネローゼ嬢がここに」

「貴様はこっちへ来い」

「は? ニ―ナ? どういうちょっと説明しろオイ!」


 どこからともなく現れたニ―ナ様に連れて行かれた。

 ちらりと視線を向けると、ニ―ナ様が親指を立てて応援してくれる。

 思わず頬が緩んだわたしは居住まいを正してシグルド様を見た。


「シグルド様……」

「ひとまず安全なところに来たはいいが」


 蒼水晶(コバルトブルー)の瞳がわたしを捉える。


「なぜ君がここに」

「ニ―ナ様にお願いして連れてきてもらいました」


 戸惑うシグルド様は「ニ―ナが?」と怪訝そうだ。

 無理やりじゃなくてわたしから言った、と誤解になりそうなことを解いておく。


「シグルド様とお話しがしたかったんです」

「……ここは戦場だ。君のような者が来るべきところじゃない」


 シグルド様の目が鋭くなった。


「君に剣を渡したのはあくまで護身用で、騎士の真似事をするためじゃない」

「はい」

「力がなければ何も救えない。自分の身を守れない者が騎士にはなれないんだ」

「騎士になりたいんじゃありません」


 もしかしてわたしが騎士に憧れて戦場に来たと思ってるのかな。

 それもやっぱり誤解だ。

 ニ―ナ様の言う通り、シグルド様はわたしと同じ──


「わたしはあなたの力になりたいんです」

「……俺の」

「はい。騎士なんて夢はもう諦めました。わたしだって子供じゃありませんから、魔法が使えないと騎士にはなれないって分かってます。でも……」


 涙が滲む。


「心は、救えると思うんです」


 不安で胸が苦しくなる。声が震えてちゃんと言えるか分からない。


『言わなきゃ伝わらないわ。特にシグルド様にね』


 シャム婆様の声を思い出して、わたしは顔を上げた。


あなた(・・・)の傍に居たい」

「……」

「わたしを救ってくれる誰かじゃない。わたしを蔑まない人じゃない。他の誰でもない……あなただからお支えしたいんです」


 シグルド様の声を思い出すだけで元気になる。

 彼の顔を見ていると、胸がぽかぽかして浮き立つような気持ちになる。

 これを刷り込みというなら笑えばいい。

 でも、今、わたしが感じてる気持ちを偽物だなんて呼ばせない。


「……」


 シグルド様は何も言わない。

 その沈黙が怖くてたまらなくて、わたしは息継ぐ暇もなく続けた。


「分かってます。わたしは侍女だし、魔力がないし、魔法が使えないし、貴族院にも行ってないから礼儀作法も何もかもダメダメで、シグルド様のお傍に居ていい女じゃないかもしれない。でも、それでも、わたしは」


 突然、シグルド様の手が伸びて来た。

 気付けば分厚い胸板の上に顔があって、心臓の音まで聞こえてしまう。

 ゆっくりと頭を撫でられて、シグルド様の顎が頭に乗った。


「もういい」

「え」

「もう十分伝わった」


 ぎゅっと手に力が込められて苦しいくらい。

 でもそれ以上にシグルド様がどんな顔か気になって、わたしは顔を上げた。


「シグルド様……?」


 シグルド様は泣きそうな顔をしていた。


「すまない」

「……あの」

「怖かったんだ」


 怖かった?

 …………シグルド様が?


「街に出かけたときのことを覚えているか」

「はい」


 確かあの時、ニ―ナ様とシグルド様がそういう関係じゃないかって誤解したっけ。

 ニ―ナ様と話しているのを見て胸がモヤっとしたことを覚えている。

 今考えれば嫉妬以外の何物でもないし、当時は気付かなかったけど。


「君がジョンと話しているのを見て怖くなった」

「怖い……」

「いつか君が、私の傍から離れていくのではないかと」

「それは」

「それは当たり前の話だ。私は騎士として君を保護しているだけに過ぎず、いつか巣立ちのために出来る限りのことをする。君が離れたいと言えばすぐにそうする手筈は整えていた。君が幸せになれるならそれでもいいと思った。そうすることが騎士としての務めだと」


 騎士の努め。シグルド様は頑なにその言葉を貫いて来た。

 弱き者を救い、理不尽を退ける、その在り方が眩しかった。


 あの時わたしは嫉妬してたけど、シグルド様は怖かったんだ……。

 同じようで、少し違う。不思議な感じ。


「だが、君と一緒に過ごすたびに……離したくなくなった。君の顔を見るたびに頭がどうにかなってしまいそうだった。君を守るべきものだと一線を引かなければ、我慢できないほどに」

「我慢……ですか?」

「ずっと閉じ込めて、俺だけの籠の鳥にしてしまいたくなった」

「あぅ……それは、ちょっぴり怖いですね」

「そうだろう」


 シグルド様は頭の上で頷いた。

 顎が髪にこすれてくすぐったいけど、背中に回された手が心地よくて。


「私が王国の筆頭騎士ではなく、ただのシグルドで在れる場所は君の傍だけだ」

「……っ」


 顔が熱い。

 今、顔が見られたら恥ずかくて死んじゃう自信がある。

 心臓の鼓動がどくんどくん脈打ってどうにかなってしまいそう。

 抱きしめられながらこんなことを言われたら……


「君に傍に居てほしい。君だけの騎士でありたい」

「あぅ……」

「騎士の誓いを君に。受けてくれるか、アンネローゼ」


 ゆっくり体を離され、シグルド様は跪いた。

 わたしは彼が差し出した剣を手に取り、肩に置いた。


「シグルド・ロンディウム。あなたは如何なる厄災からもわたしを守り、わたしを慈しみ、わたしの傍に居ることを誓ってくれますか」

「この魂に懸けて」


 剣を返すと、シグルド様はわたしの手を取って口づけを落とした。

 それはどんなに熱烈な言葉よりも雄弁に、わたしの心を虜にする。


「私はあなたの騎士であり、剣で居よう。あなたが死するその時まで」

「はい」


 暗雲が晴れて光が頭上に差し込んでくる。

 光に照らされたシグルド様の微笑みは、太陽よりも眩しくて。


「ずっと、傍に居てくださいね」

「もちろんだ。私の姫君」


 ロンディウムのことや、わたしの魔力のこと、解決すべきことはいっぱいある。

 これからも何かと苦労することはあるんだろうけど……。


 でも不安はなかった。

 この人の傍に居れば、どんなことだって乗り越えられる気がした。



Fin.


ご愛読ありがとうございました!

アンネローゼとシグルドのお話は一旦完結となります。

感想や評価など頂けたら嬉しいです~~!


下部にリンク張っていますので、新作も良ければ見てください。

強くてかっこいいツンドラ令嬢が悪役令息を拾ってだんだんデレていくお話です。


それではまた!


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― 新着の感想 ―
[良い点] いつも楽しく読んでます! とりあえずの一旦終了ですがお互いに自分の心に素直になれて良かったですね〜 まだまだ問題はあるかもだけど、そこは二人で無理をせず、今回みたいにみんなに手を借りて…
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