第三十三話 悪女メイド
わたしは小さい頃から誰とも遊んだことがない。
この世界の遊びというのは大体が魔力を使うもので、それはボール遊び一つとっても同じことが言える。魔力がなければ生きる価値はなくて、誰の役にも立てなくて……
そんな自分が嫌で、わたしは騎士を目指していた。
お父様に無理を言って挑みかかり、何度もぼこぼこにされていた。
だからか分からないけど、動体視力というのはついたと思う。
「《光よ!》」
(あれ?)
少なくとも、周りを取り囲む魔法使うたちの魔法はすごく遅かった。
右に一つ、左に二つ、前に一つ。
斜め四十五度に身体を傾けながら前進する。
右から来た光の弾はわたしの頭上を通り過ぎて行った。
「嘘……!?」
すかさずやってくる左から二つの光弾。
膝をばねのように曲げたわたしは真上に飛んで避けた。
「なっ!?」
左右の光弾は交差するように直進し、魔法使いたちは慌てて避ける。
続いて前に来た光弾を、腰に佩いた剣で以て斬り伏せる。
「やぁぁぁあ!」
「はぁぁああ!?」
真っ二つになった光弾は後ろの樹に着弾して消えた。
『いいかアンネローゼ、魔法は斬れる』
シグルド様の言葉を思い出す。
『君の流麗な足運びと剣技があれば魔法使いたちを翻弄するのは容易い』
『安心しろ。万が一当たっても私の加護がある』
『だから──全力で遊んで来なさい』
(ほんとに斬れた……魔法って斬れるんだ)
シグルド様に会ったあの日、私は不審者に反撃されて死ぬところだった。
やっぱりわたしは無力なんだなぁと思ったものだけど、こうして使う魔法が限定されている魔杖競技の中なら、それなりに動けるみたいだった。
(なんか嬉しいなぁ)
よし。こっちもやられてばかりじゃダメよね。
反撃しなきゃ。
胸が弾むのを感じながら、わたしは杖を取り出した。
「《光よ!》」
きゃーーー! 魔法が! 魔法が出たわ!
わたしが使ってるわけじゃないけど、わたしが持ってる杖から魔法が!
光の弾が飛び出したわ!
すごいすごい! これほんとすごい! わぁああ、綺麗~~~!
「……っ、どういうことだ。あの侍女は魔法が使えないはずじゃ」
避けられちゃった。
そうよね。わたしだけ避けられるわけじゃないものね。
「あ、また来た」
さっき左右で交差した光弾を避けた魔法使いさんだ。
わたしの斜め後ろからなんかしてくる気配があったので全力で飛び退いた。
「また避けた……! まさか異能!? 異能持ちだというの!?」
「違いますよ?」
わたしはただ鍛えただけ。
私は本当に何の力も無い、ただの侍女だ。
シグルド様に迷惑かけてばっかりで、わがまま言ってお仕えしているだけ。
──でも。
「楽しい」
魔法が来る。避ける。
避ける。光。また魔法。避ける。斬る。
次々と着弾する光の弾が乱舞して、わたしの視界でチカチカ明滅する。
なんだか新聞記者さんのカメラでぱしゃぱしゃ撮られてるみたいだった。
トロイの悲劇の生き残りとして取材されたこともあったっけ。
……ちょっぴり嫌なこと思い出しちゃった。今は忘れて遊ばなきゃ!
せっかくこうして身体を動かせる機会を貰えたんだし。
全力で動いて汗をかいて、魔法の中で遊ぶのってすっごく楽しい。
楽しい。
楽しい。
楽しい。
「あはは! シグルド様、わたしすっごく楽しいです!」
後ろで戦っているであろうシグルド様に叫んでみる。
ニ―ナ様のお相手で忙しいだろうから返事は期待していない。
というか。今はニ―ナ様のお相手をしてあげてほしい。
きっとあの人の中ですっごく葛藤があったと思うから。
そうして遊び始めてどれくらい経っただろう?
たぶん何分も経っていないんだろうけど、魔法使いたちの息が切れ始めた。
「ハァ、ハァ……なんで当たらない。どんな目をしてるんだ!」
「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ……あの、私、そろそろ魔力が……」
あれ? 光弾も途切れ途切れになり始めちゃった。
左に一個。避けるのは簡単だった。
わたしもちょっぴり休憩。
首を傾けて避けて、魔法使いさんたちを眺める。
「もう終わりですか? わたし、もっと皆さんと遊びたいです」
「……っ」
もちろん剣で傷つけるようなことはしない。
これはあくまで身を守るためのものだから。
魔力がないわたしに補助具として認められたものだし。
(あんまり魔法を使ってシグルド様の魔力を使わせちゃうのもアレだし……)
でも、あと一回だけならいいかな。
魔法を使うのって初めてで、とっても楽しくてドキドキするもの。
嬉しいなぁ。楽しいなぁ。
「わ、笑ってる……」
「私たちの魔法を避けて、こんなに疲れてる私たちを嘲笑ってる……」
「悪女だわ……あの子は悪女よ!」
魔法使いさんたちが周りを見渡す。
その中の一人が、茂みの向こうに居た女性を見て目を輝かせた。
「ロンディウム夫人! あの女をやっつけてください! その銀の杖で!」
「え」
「あ」
エスメラルダ様だった。




