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第三十一話 真意 × 心意

 

 いよいよ待ちに待った魔杖競技(ウィザード・ウォー)の時間だ。


 今回の魔杖競技はいくつかのチームに分かれて行われる。

 ルールはいたってシンプルで、魔法シールドを破壊されたら負け。

 殺傷系の魔法は杖に禁じられているが、移動系の魔法は認められている。


 こう見れば魔力が強いシグルド様が圧倒するように思えるけど、競技用の杖は魔力の出力も制御されているから、純粋な魔法技術がモノをいうらしい。まぁそれでもシグルド様が強いと思うけど。


『──全員、配置につきましたか?』


 空から声が降って来た。

 見上げれば、空中で箒の上に立った審判役の人がいた。


『では地形を変えます。足元にご注意ください』

「へ?」


 突如、ぐらぐらと大地が揺れた。

 地面に描かれてたまばゆい魔法陣が競技場を光で染める。


「まぶしっ……」


 思わず目を閉じる。

 次に目を開けると、景色が様変わりしていた。


「わぁ……」


 森だった。

 小鳥のさえずりが響き、樹々の梢が揺れる音。

 不規則な樹々が入り乱れていて、樹の根が地面を張っている。


「すごい……森! 森に入っちゃいました!」

「今回は森林ステージか。総合力が試されるな」


 シグルド様が顎を撫でて言った。


「木が邪魔で視界が見通せない。木の裏に誰が隠れているか分からないぞ。おまけにこの地面だ。自由に動き回るには相当な技術がいる。少しでも仲間と引き離されたら地面に足止めされ、挟み撃ちにされて終わりだ」

「なるほど……他にはどんなステージがあるんですか?」

「沼地や雪山、火山も人気だと聞く。最近では淑女の間でバカンスステージが流行っているらしい」

「へぇ~~~~~~、魔杖競技(ウィザード・ウォー)って奥が深いんですねぇ」

「そうだな。戦術やチーム、地形、設定する魔法……単純だからこそ多彩だ」


 アンネローゼは何度も頷きながら笑った。


「ふむふむ……なるほど。わたし、足を引っ張らないように頑張りますね、シグルド様」

「君は安心して守られていればいい」


 うーん、守られるだけじゃ嫌なんだけどな……。

 わたしはちょっぴり抗議の目で見るけどシグルド様は聞いてくれなかった。

 残念。


「それより、エスメラルダ達に気を付けろ」

「え」

「アイツらは絶対に何か仕掛けてくる。油断するな」

「……はい。分かってます」


 周りを見渡す。

 樹々に遮られてエスメラルダ様の姿はどこにも見えない。

 さっきのシグルド様とルーク様は目で会話していたし、ちょっとは仲良くなれたと思いたいけど……


「あ、そういえばニ―ナ様の姿が見えませんね?」

「あいつはガチ勢だからな。今ごろどこかに潜んでいるだろう」

「ガチ勢」

「奴が狙うのは私だけだ。気にするな」


 なんだかシグルド様は遠い目をしている。

 過去に袖にしたと言っていたからきっと何かあったんだろう。


 ──何があったんだろう。


 別にどうということはない。

 シグルド様は大変にカッコいいし、魅力的な男性だ。

 そりゃあ、ニ―ナ様が惚れるのも分かるし、わたしだって魔力があったら……。


『皆様の準備を確認出来ました。それでは──始め!』


 あぅ……今はこんなこと考えちゃダメよね。

 シグルド様に貰った剣の柄を握って勇気を貰う。

 そう、わたしはメイド騎士アンネローゼ。今は主人のために頑張る時。


「……んみゅ?」

「気付いたか、アンネローゼ」

「はい、シグルド様」


 開始の合図が鳴ってすぐのことだった。

 わたしたちの周りにたくさんの人たちが潜んでいるのを感じた。


 樹々の裏と、茂みの影、空の上にも。


「えーっと、こういうの、あれですよね」

「あれだな」

「強い人はみんなで叩けばいい理論……です」


 つまりはそういうことだった。

 今回の魔杖競技で一番の脅威であるシグルド様を真っ先に叩く。

 それが彼らの選んだ戦法のようだった。


 そして、真正面から現れたのが──


「ニ―ナ様……」

「悪く思わないでくれ、アンネローゼ嬢」


 シグルド様にまっすぐ杖を向けながら、ニ―ナ様は言った。


「こうでもしないと、この男はまともに戦ってくれないからな」


 それはまるで、熱烈な愛の囁きのようだった。



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