第三十話 悪女の所以
「ねぇ、アンネローゼさん。私にも杖を選んでくださらない?」
「私もお願いしたいわ!」
「ぜひ僕も。麗しいレディに選んでいただけるなら光栄だ」
「え、えぇ!?」
エスメラルダ様の杖を選んだあと、なぜか貴族の方々が殺到してきた。
たぶんシグルド様に近付きたいんだろう。
──ここはメイド騎士としてご主人様を守らないと。
「私はシグルド様の侍従なので。主が呼んでおりますので失礼します」
「あらぁ──残念……」
これでよし。
「シグルド様! 杖を選んできました」
「うん。見せて見なさい」
シグルド様のところに戻る。
私が選んだ杖を見たシグルド様は懐から杖を抜くと、それを私の杖に当てた。
(きゃ!? 光った!?)
瞬間、手元が光に包まれる。
まるで時間を巻き戻すかのように、擦り切れていた杖が輝きを取り戻していく。
(すごい……新品みたいに綺麗になった……)
最後に杖が光って、シグルド様は満足げに頷いた。
「よしこれで君にも魔法が使える」
「わ、私に魔法が使えるんですか?」
「あくまで疑似的なものだがな。君の声に応じて私が遠隔で魔法を起動する」
「わぁ! それってシグルド様の相棒みたいですね!」
シグルド様は口元に手を当てて目を逸らしてしまった。
「まぁ、そんなものだな」
「わぁ、わぁ! 嬉しいです! ありがとうございます!」
魔杖競技でお役に立てたらシグルド様もっと喜ぶかな?
そしたら私を側付き騎士にしてくれたり……いやいや、さすがにそれはないけど!
「わぁ、でも嬉しいな……これで私にも魔法が使えるんだ……」
思わず独り言が漏れてしまう。
田舎者から都会に出て来た女の子みたいに興奮するわたしに周囲の方々は微笑まし気だった。
「なんというか……ほっこりしますな」
「えぇ、私にもあんな風に若い時があったわ……」
「無邪気でいいわねぇ」
あぅ……さすがにはしゃぎすぎちゃったかしら……
元男爵令嬢とはいえ、わたしは侍従。
あんまりはしゃぎすぎてシグルド様に迷惑をかけないようにしないと。
「気にしなくていい」
「え?」
シグルドはいつもみたいに無表情で言った。
「君はそのままが一番いい」
「あ、えっと、それって」
「私の加護も渡してあるからな。君が怪我をする恐れは一切ない。存分に遊べ」
ざわっ、と周りがざわめいた。
「シグルド様が加護を……!?」
「あの子が!?」
「国王陛下にさえ加護を渡すことを拒否した英傑だぞ! 一体どんな価値が」
ふぇ?
あ、あの、何か皆さんが勘違いしてらっしゃるんだけど……
わたしは本当に何の力もない、ただの女ですよ?
「過保護だな。あるいは独占欲か?」
「ニ―ナ様?」
ニ―ナ様は寂しさと呆れが入り混じったお顔でシグルド様を見た。
「貴女に加護を渡していると公言することで要らぬちょっかいを出されないようにしたんだろう。これで貴族たちは下手に動けなくなった。さらに先ほどのアンネローゼ様の対応……もはや奴らの思惑など水泡に帰したも同然だ」
シグルド様が怖い顔でニ―ナ様を見た。
「ニ―ナ。余計なことを言うな」
「ふふ。いいじゃないか。ちょっとした嫉妬だよ。私のことは袖にしたくせにな」
「ふぇ!?」
心臓がどくんと跳ねた。
身体がびっくりして、思わず飛び上がってしまう。
「し、シグルド様とニ―ナ様って、そういう……」
「いや、何もなかった」
ニ―ナ様が残念そうに肩を竦めた。
「私が求婚したのだがな、袖にされたよ」
「そ、そうなんですか……」
あ、あれ?
どうして今、ホッとしたんだろう。
わたしはただのメイドで、シグルド様はご主人様なのに……。
「既に終わった話だ」
シグルド様が心なしか強めに言った。
ニ―ナ様も頷いた。
「そうだな。終わった話だ。今日はただ楽しむとしよう」
「お、お集まりの皆さま! 杖はお選びいただけましたでしょうか!」
あ、ルーク様だ。
それまで空気になっていた当主夫妻が会場の皆さんに呼びかけている。
「そろそろ会場の方へ移動します。ご準備ください!」
「皆さま、今日は楽しみましょうね」
にこりと笑うエスメラルダ様。
その目がこちらに向いた瞬間、めちゃくちゃ怖い感じになった。
「あぅ……なぜか睨まれてます……」
「気にするな。ただの嫉妬だ」
「はみゅ? なんでわたしに嫉妬するんですか?」
「……それが分からないところが、君の君たる所以なのだろうな」
シグルド様はしみじみと呟くのだった。
よく分からないけど、なんだか楽しそうだし、気にしなくていいや。
「アンネローゼ嬢、シグルド、我らも行くぞ」
「はい。シグルド様、わたし頑張りますね」
「あぁ、メイド騎士の活躍を期待しているぞ」
「はい!」




