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第二十七話 再会を経て

 

 ひと口に魔杖競技(ウィザード・ウォー)といっても、その在り方は多岐にわたる。

 元々は互いの魔法を競い合う決闘が源流ということもあり、魔法学校では訓練という形で用いられているし、一般ではプロのクラブチームが発足し、世界大会が開催されることもある。逆に、魔法を制限した上で子供のように遊ぶ形もあって、一言では語れない歴史と奥深さがあった。ちょっぴり勉強しただけでこれなのだから、本格的にやろうと思うと大変そうだ。


 ──ロンディウム公爵領。

 ──領都アレクサンドリア。


「わぁ……広いですねぇ」


 ぐるりと周りを見渡す。直径五十メルト四方の、闘技場のような楕円形の建物だ。地面には芝生が敷かれ、空中には箒用の障害物が浮かんでいた。ロンディウム家主催とあってお手伝いさんたちが設備の調整に取り掛かり、テーブルや椅子、箒などがひとりでに飛び交っている。


「領内では一番大きな競技場だが、国内では最小だぞ」

「そうなんですか?」

「大きさより設備に金をかけているからな」


 確かに見たところ手入れが行き届いているし、設備はピカピカで、魔法に詳しくないわたしにも使い勝手が良さそうに見える。ロンディウム公爵家の威信がかかっている競技場だから当たり前の話かもしれない。


「今さらの話ですが、本当にわたしが参加していいのですか?」


 ただの侍女で、魔法が使えないのに。

 確かに元男爵令嬢ではあるけど、今はただの平民だし。


「問題ない。魔法玉でも投げて当てればいい」

「ほえ」


 魔法玉、文字通り魔法が込められた玉のことだ。

 確か当たれば破裂して魔法が発動するんだっけ。


「でもあれって術者の魔力が」

「私が込めたものを君に渡せばいいだろう」

「……そういうのってアリなのですか?」

「アリよりのアリだ」


 アリなのか。アリならいいかしら。

 ただでさえシグルド様に加護のことでご負担をかけているのだし、わたしとしてはシグルド様が大丈夫ならそれでいいのだけど。


「……と、来たようだ」


 シグルド様が振り返ると、闘技場の出口から貴族の集団が歩いて来た。

 狩猟服のように肩当てや胸当てなどを身に付けている軽装の魔法使いたち。

 それでいて貴族らしい優雅な歩き姿だった。


(あ、ニ―ナ様だ)


 デルフィナの服飾店で出会ったシグルド様のご同僚。

 今日は休暇だからか、この前よりラフな格好をしていた。


「シグルド様だ」

「本当に来ていらっしゃる」

「珍しい。いつもこの集まりには顔を出さないのに」


 貴族っぽい方々は遠巻きにシグルド様を見ている。

 話しかけたいけど話しかけたくない感じの表情。

 そんな周りの方々の空気をぶった切って、かっこいいこの人が進み出て来た。


「この前ぶりだな、シグルド」

「あぁ」


 ニ―ナ様、やっぱりかっこいいな。

 お顔が引き締まっている、怜悧な目つきがカッコいいし。

 女性らしいふくらみもあるし……いや、わたしもないわけではないけど。


「アンネローゼ嬢、君も元気そうで何よりだ」

「はひっ、ありがとうございます。ニ―ナ様も、今日もかっこいいです」


 他の方々はパートナーと来ていらっしゃるけど、ニ―ナ様はお一人のようだった。慌てて挨拶すると、彼女はわたしの耳にお顔を近づけた。


「エスメラルダのことは聞いている。君のことは全力で守ると約束しよう」

「あ、ありがとうございます」

「騎士として当然のことだ」


 わたしは思わず笑ってしまう。


「ふふ。ニ―ナ様、シグルド様と同じこと言ってる」

「ぬ……あ、あいつが私の真似をしているんだっ」

「そうですよね。シグルド様ってかっこいいですもんね。憧れますよねぇ」

「話を聞いているかっ?」

「何をやってるんだ君たちは」


 シグルド様が呆れたように言ったから、わたしとニ―ナ様は顔を見合わせた。


「乙女の秘密です」

「あぁ、女の友情だ。羨ましいだろう」

「……別に」


 シグルド様は視線を逸らした。

 明後日の方向を見るこの仕草は、ちょっぴり拗ねてる時のものだ。

 こういう時のシグルド様は可愛い。頭を撫でてよしよししてあげたくなる。


 その時、闘技場がざわめいた。

 わたしたちは揃って同じ方向を見る。息が止まりそうになった。


(ルーク様……エスメラルダ様……)


 ほんの三週間前までわたしに意地悪をしていた二人が居た。

 豪華な騎士服を見せ付けるようにマントを引きずっている。

 思わずシグルド様の裾を掴むと、彼はわたしの前に立った。


「大丈夫だ」


 すごく安心出来る声で、彼は首だけ動かしてわたしを見る。


「君のことは、私が必ず守る」


 ──どうしてだろう?


 ニ―ナ様とまったく同じことを仰ってるのに……。

 シグルド様に言われると、なんだか胸の奥がポカポカする。


 あぁ、きっと大丈夫。

 そう思える頼もしさがある。

 ニ―ナ様がダメってわけじゃないのに、どうしてだろう。


「──やぁ兄上、元気そうじゃないか」


 いつの間にかルーク様が近くに来ていた。

 この前の険悪な空気なんてなかったような話し方だった。


「お前たちもな。ずいぶん派手に動いているのだとか」

「うふふ。いやですわ、お義兄様ったら、(わたくし)たちは公爵家の務めを果たしているだけです。どこかの誰かが公爵家から逃げ出したせいで、お仕事がたくさんありますので」


 ちくちく刺すような皮肉を繰り出すエスメラルダ様。

 何の罪もないわたしを理不尽な理由で虐めた人。

 シグルド様の後ろからそっと覗いていると、サファイア色の目がわたしを捉えた。


「あなたも久しぶりね、アンネローゼ」

「お久しぶりです。奥様」

(……あれ?)


 軽く膝を曲げて挨拶をしつつも、ちょっと違和感があった。


「あなたが出て行ってから大変だったのよ、やっぱり持つべきものは優秀な侍女ねぇ」


 じっとエスメラルダ様を見る。

 お化粧で隠しているけど目元には隈が出来ているし、お肌も荒れている。

 爪の先は割れていて、何度も噛んだことが一目でわかった。

 よくよく見れば、髪に艶もないし、服もよれているような……。


 何よりも。


(全然、怖くない……?)


 公爵家に居た時のような恐怖を、まったく感じなかった。



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