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第二十六話 その招待は冥府の使者か、あるいは……。

 

 シグルド様と街に出かけた翌日。


「見てください、シャム婆様。シグルド様に頂きました!」

「まぁ。綺麗な剣ねぇ。アンネローゼさんにぴったりだわ」

「ほんとですかっ?」


 くるりと回って、わたしは腰に佩いた剣を魅せてみる。

 シャム婆様は自分のことのように喜んでくれて、わたしも嬉しかった。


「むふふ。メイド騎士アンネローゼです!」

「えぇ、これでこの家の安全は守られたも同然ね」

「はい。このメイド騎士にお任せください!」

「その名前が気に入ったのねぇ」


 あぅ……ちょっとはしゃぎ過ぎたかしら。

 なんだか恥ずかしくなってきたわ。


 でも掃除は済ませたし、お仕事は終わったもの。

 お部屋に飾っておくよりこうして身に付けていたほうがいいと思う。


 そんなことを考えていたら、地下室から物音がした。

 シャム婆様と頷き合ったわたしたちは隣室に行って待機する。

 ほどなくシグルド様が出て来た。


「シグルド様! おかえりなさいませ!」

「あぁ、ただいま」


 上着を受け取る。仄かに残る温もりが心地いい。

 ふんわりとシグルド様の匂いがして良いって何考えてるの、わたし。

 ぶんぶんと首を振って邪な気持ちを追い払い、お茶を淹れる準備をする。


「今日も早かったですね、シグルド様」

「まぁな」


 最近のシグルド様は夕方になる前に帰るようになった。

 シャム婆様曰く、以前は真夜中まで働いていたこともあるから随分な変化のようだ。


 わたしとしてもシグルド様に会える時間が増えるのはちょっぴり嬉しい。

 この人の傍に居ると安心するし。


「シャム婆、変わりはなかったか」

「アンネローゼさんがはしゃいで可愛らしかったです」

「はしゃぐ?」

「えへん。メイド騎士アンネローゼです!」


 わたしは腰に佩いた剣を魅せるようにくるりと回った。

 シグルド様は複雑そうな顔で頷いた。


「気に入ったのはいいが、家の中まで持つ必要が?」

「万が一の時、剣を部屋に取る暇がなければ死んじゃいます」

「なるほど」


 納得してくれたらしい。


「よほど気に入ったのだな」

「はい。シグルド様に頂いたものはすべて宝物です!」

「……」


 シグルド様はなぜか口元を押さえて目を逸らした。

 どうしたのかしら? 頬がぴくぴくしているけど。


「うふふ。たまには(わたくし)がお茶を淹れますかねぇ」


 シャム婆様が微笑ましそう台所へ向かった時だった。

 窓の外から光る鳥が飛んできて、窓を通り抜けた。


「む」


 魔法の伝書鳩だわ。普通は通信機を使ったりするものだけど、通信が届かない相手や招待状を送ったりするときに使われるやつ……だったはず。シグルド様が伝書鳩を受け止めると、伝書鳩は手紙のように四角い形になって消えてしまった。


「…………」

「あら、どなたからの手紙だったんです?」


 複雑な表情を浮かべるシグルド様。

 わたしが聞きにくいことをズバッと聞いてくれるシャム婆様がありがたい。


「ニ―ナだ」

「あら、あの子が……それで、彼女は何と?」

「今度、ロンディウム家主催の魔杖競技(ウィザード・ウォー)が行われるから来ないか、と」

「わぁ、魔杖競技ですか! すごいですね!」


 魔杖競技(ウィザード・ウォー)はその名の通り、魔法媒体である杖を使うスポーツの一種だ。

 ルールは至ってシンプル。杖を使って決められた魔法で相手の紋章に命中させ、チーム全体で最後まで生き残っていた者が勝利となる。しかし単純だからこそ奥深いもので、地形が変わっていた、空中から攻撃を仕掛けたりと、戦術は多岐にわたる。


「知っているのか」

「はい。お父様が楽しそうに話していたので、興味はありました」

「……ふむ」


 シグルド様は顎に手を当ててわたしをじっと見る。


「魔杖競技はルール如何によっては水遊びのように楽しめるスポーツだ。まぁ、怪我をすることもないし、君が望むなら参加させてやりたいが」

「え? でもわたし、魔力がありませんし……」

「そんなことどうとでもなる」


 なるのか。いや、なるのかな……?


「問題は参加者だ」

「……誰か仲の悪い人がいらっしゃるのですか?」

「分からないか? ロンディウム本家の主催だぞ」

「ぁ……」


 そっか。魔杖競技に気を取られて忘れてたけど。


「ルーク様と……エスメラルダ様……」


 もしわたしが参加したらあの二人と出会うことになるんだ。

 それはなんていうか……ちょっぴり気まずいかも。


 あれ?

 なんでニ―ナ様はそんな競技の招待状を送って来たんだろう。

 不思議に思ってシグルド様を見上げると、


「僭越ながら、坊ちゃま。行くべきかと」

「……シャム婆」

「ニ―ナがシグルド様に招待状を送ってきたのは嫌がらせなどではありません。あなたに前を向いてほしいからです」

「……」

「アンネローゼさんも連れてお行きなさい」

「だが」

「本当に彼女に幸せになって欲しいなら、荒療治も必要です」


 え、えっと。何の話……?

 わたしの幸せって、どういうこと……?


 おろおろと二人の顔を見比べる。

 シグルド様はため息を吐いて、わたしに向き直った。


「アンネローゼ。魔杖競技に参加したいか?」

「やってみたい気持ちは、あります。でも」

「君に危害は加えさせない」

「いえ! そうじゃなくて、シグルド様に迷惑がかかるんじゃないかと」


 シグルド様にとってルーク様は実の弟だ。

 複雑な感情はあるにせよ、わたしのせいでこれ以上彼らの仲がこじれるのは避けたい。


 最悪、わたしなんてどうなってもいいわけだし。

 もちろん、痛いのは嫌だけど……


「……君はいつも他人のことばかりだな」

「そんなことありません。魔力がないので本当に参加できるのか疑ってる気持ちはちょっぴりあります」

「そうか。それは任せろ」


 シグルド様は細く長い息を吐いた。


「まぁ、ちょうどいい機会ではあるが」

「いい機会……ですか?」

「私も、向き合わなければならないということだ」

「よく分かりません」

「安心して守られろということだ。分かれ」


 わしゃわしゃと頭を撫でられちょっぴり複雑。

 頭を撫でられるのは嬉しいし、もっとやって欲しいけど。

 でも、守られるだけじゃなくて、お支えしたいというか。


(むぅ。わたしだってお役に立ちたいのに……)


 そんなわたしを見透かしたように、


「メイド騎士の出番だ。頼んだぞ、アンネローゼ」


 ふ。と微笑むシグルド様に、


「はい!」


 やっぱりわたしは嬉しくなって、笑ってしまうのだった。



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― 新着の感想 ―
[良い点] アンネローゼ可愛い! 戦隊ヒーローの武器をサンタさんにもらった保育園児みたい(笑)
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