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2話「僕と彼女には接点がない」




――ミハエル・オーベルト視点――




僕はしがない地方の男爵の息子。


レーア様は公爵家のご令嬢で宰相の娘で第一王子の婚約者。


レーア様は特進クラスで、僕は普通クラス。


僕とレーア様に接点なんてあるはずがない。


強いて挙げれば同じ学年ということだけ。


学園の廊下や中庭や食堂で偶然すれ違うことがないかと、休み時間に無駄に廊下をウロウロしたが、食堂での一件以来レーア様にお会いすることはなかった。


学園に入学してから三カ月が過ぎた。


男爵であった父が馬車の事故で亡くなった。


男爵家に子供は僕しかいなかったので、僕が男爵位を継いだ。


それからは大変だった。


学園に通いながら、慣れない男爵の仕事をこなさなくてはならない。


レーア様を探して休み時間に廊下をうろつく暇などなくなった。


父が亡くなり古くからの取引先に縁を切られたり、若い当主だからと舐められ農作物用の肥料を値上げされたり色々あって、領地経営がうまく行っていない。


食堂にはご飯を食べに行くお金もなくなり、毎日お弁当を持っていき教室で食べることになった。


ただでさえ少ないレーア様に会える機会がまた減った。


朝、日の出前に起きて男爵家の仕事をする。


昼は学園で勉強。


夕方から深夜までは、男爵家の仕事に追われる。


母も手伝ってくれたが、もともと領地経営は父がやっていたので、あまり助けにはならなかった。


学園を辞めて男爵の仕事に集中したかったが、

「学園だけは卒業して欲しい」

と母に懇願された。


勉強時間は授業中と休み時間のみ。


しかし男爵家と仕事に追われているせいで、睡眠時間が足りず授業中眠くて仕方ない。


そんなわけで成績は徐々に落ちていった…

…。


学園に入る目的の一つは貴族との繋がりを作ること。


だが、入学早々イルク侯爵家のマクベス様に絡まれた僕は、クラスメイトに遠巻きにされ友達が一人もできなかった。


食堂での一件以来、マクベス様とその取り巻きが僕に絡んでくることはない。


レーア様に一喝されたのがよほど堪えたのか、貧乏男爵など相手にする価値もないと判断されたのかは、分からないが。


学校と家を往復し、仕事と勉強に追われている間に、三年近い月日が流れていた。


その間レーア様を近くでお見かけする機会が、一度だけあった。


話すことはできなかったけど、レーア様は相変わらず凛々しくてかっこいい方だった。


そして三年生になった僕には楽しみがある。


それは休み時間に教室の窓から外を眺めること。


三年生の教室から窓を眺めていたら、中庭にいるレーア様を発見した。


レーア様は二時間目と三時間目の間の休み時間に、中庭に出て本を読んでいる。


僕にとっては休み時間は貴重な勉強時間だ。


しかし目の保養には代えられない。


二時間目と三時間目の間の休み時間だけは、教科書から目を離して中庭を眺めている。


レーア様は中庭で日向ぼっこしたり、本を読んだりしている。


最近は中庭に迷い込んできた野良猫と、遊んでいるみたいだ。


猫と戯れるレーア様のお姿は、疲れ果てた僕の心を癒やしてくれる。


もうすぐ卒業式だ。学園を卒業する前にもう一度レーア様とお話ししたい。


中庭で猫と戯れるレーア様を見つめ、深く息を吐く。


せめて卒業式にレーア様に「卒業おめでとうございます」と声をかけられたら……。


卒業すれば男爵の仕事に専念できるし、睡眠時間を削って勉強することもなくなる。


だけど貧乏男爵の僕が、王子妃になられたレーア様とお話し出来る機会は、二度と訪れないだろう。


卒業式はレーア様に話しかけられる最後のチャンスなんだ。


レーア様は第一王子の婚約者で、生徒会副会長で、先生からの信頼が厚く、友達も多い、学園の人気者。


卒業式の日、きっとレーア様は第一王子にエスコートされ、先生や生徒会メンバーやクラスメイトや高位貴族に囲まれ、幸せに笑っていることだろう。


他クラスで下位貴族の僕ではレーア様に近づくことすら叶わない。


そう思うと切ない気持ちになる。




☆☆☆☆☆


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