第九十七話
当然だけど、テーマパークの通路に人型戦闘機が入れる幅はない。
降りて探索。
ドローンで確認したけどゾークの反応はない。
サーモカメラにもなにも映らない。
宇宙空間対応クラスで殻の厚いゾークは温度の変化を受けにくい。
常に一定の温度でゾーク用の設定にすれば逆に写りやすい。
一つのアビリティを取れば別の弱点が出現するってことだろう。
入り口には大仏が鎮座してる。うさんくさ!
中に入ると江戸時代の町並みが広がる。
メリッサとクレアと街を探索する。
「うちさー、なーんにも特産品ないの。農業やるにしても土地ないし。だから体験型のテーマパークと武術の家元でなんとか領民の食い扶持作ってるんだ」
「だから公安の訓練やってるのか……」
「そういうこと。技術しか売り物ないしね。農産物も惑星で消費しちゃうしね。外に出してるのお土産のわさびくらいかな」
「モールの建設とかは?」
クレアが聞いた。
どこにでもモール作ろうとするのにテーマパークの近くに作らないのはおかしい。
「土地が少なすぎるって断られた。うちはさー、山と谷と沢しかないから」
どこでも悩んでるのね。
「そっちが温泉旅館風のホテル」
「温泉出るの?」
「出るけどただの地下水ね。炭酸添加してスパにしてる」
夢がない。
「ホテルにも人いないなあ。どこにいるんだろ?」
「城は?」
そういや城に立てこもったって言ってたな。
「二つあるんだ。パークの城と役所の二つ。パークのはすぐそこ」
役所を城にしてるなんて商売っ気があるな。
うーんとりあえずパークの方を見てくるか。
みんなで城に向かう。
道を進むとやはり狂った時代劇風になってきた。
西部開拓時代風で網タイツ金髪ハイレグ忍者が拳銃を撃ってる看板がある。
射撃場みたいだ。
侍も忍者も関係なさすぎる。
俺は看板に指をさしてメリッサを見る。
「こういうのがウケるんだよね……なぜか」
「メリッサ。こういう格好で稽古するの? その……はみ出そう……」
わりと天然ボケ気味のクレアがどん引きした表情で聞く。
メリッサはあごをポリポリかいて恥ずかしそうにしてた。
「ステージでのショーはこんな感じかな。はみ出ないようにしてあるけど。あっちは武術のスタッフじゃなくてプロのダンサーだしね」
「メリッサはステージ立ってたことあるの?」
「小さい頃さ。手裏剣投げショーの手伝いするとお小遣いもらえたんだ。あの頃はかわいいかわいいって言ってもらえたなあ……」
あ、やべ。
メリッサの触ったらだめなスイッチ押してしまった。
雲行きが怪しくなってきた。
「あははははは! 男みたいってうるせー!!! ブスって言ったやつはぶち殺してくれる!!!」
思いだしブチギレである。
メリッサの様子がおかしいまま城に着く。
城の門は開いてて中は無人だった。
「こっちの城の門は飾りなんだ。常に開けっぱなし。うーん誰もいねえな」
メリッサはロビーの売店の冷蔵庫を開ける。
「お、電源生きてる。ほれ飲みな」
そう言ってメリッサがジュースの瓶を渡してくる。
ほう、【信長くんジュース チェリーコーク味】。
中途半端なアメリカンテイストはなんなのだろうか?
メリッサは冷蔵庫から食品を取り出し電子レンジで調理する。
慣れてる。
しょっちゅう勝手に食べてたのだろう。
「はいブリトー」
【謙信くんブリトー。メキシカンハラペーニョ味】……お、おう。
「はいクレアも」
「う、うん……ねえメリッサ、こういうとこって寿司とかお刺身とかじゃないの?」
「上に寿司バーあるけど生ものだから。ちょっと怖いかな」
「寿司バー?」
「うん、寿司バー【家康】。観光客用のインバウンドの店。魚はわざわざ帝都から取り寄せてるよ。地元の連中が行く店は【寿司久】かな。もう一つの城の近くでさ、こっちは地元の食材。完全養殖のヤマメとかイワナとかアユを生で食べられるんだ」
「インバウンド店の名前がうさんくさすぎるんだが」
「そっちの方がウケるんだよね。まずくて高いのに。帝都から輸送とか意味わからないよね。うちでも定番の海の魚くらい養殖してるのに」
俺からしたら意味がわからない。
でも商売はそんなものなのだろう。
「さーて腹ごしらえもしたし。ねえねえ妖精さん。向こうの城には誰かいる?」
メリッサが聞くと妖精さんが答えてくれる。
行政センターのことだ。
「いませんねー。男子と近衛隊が向かいましたけどもぬけのからみたいですね」
「となるとあそこかな。入り口に戻って隊長たちは人型戦闘機に乗ってて。俺はゲート開けるから」
なにかの施設があるのだろうか?
言われたとおり入り口に戻って人型戦闘機に乗って待つ。
しばらくするとメリッサもやって来た。
「ゲートが開くよ」
わざとらしく置いてある石灯籠に手を突っ込む。
するとゴゴゴゴゴゴゴゴと音を立てながら大仏が動く。
大仏の台座の下に地下トンネルが出現した。
「うさんくさ!!!」
「観光地だからガチの軍事施設は隠してるんだ。少し待ってて。貨物列車呼ぶから」
「メリッサ了解。みんなも呼ぶわ」
連絡すると輸送船ですぐに来てくれることになった。
貨物列車の到着とほぼ同時に男子と近衛隊が来た。
「……なんだこれは?」
さすがのピゲットも困惑してる。
「うん、観光客に見られないように山の中に基地を作ったんだ。なんでもお客さんの夢を壊したくないんだって」
「金髪ハイレグくノ一も?」
「あれは商業主義」
夢というのは難しいものらしい。
ピゲットもなんとも言えない渋い顔をしてた。
「うむ。子爵領は苦労が多いのだな……」
「工夫しないとすぐにあきられるからね。だからドラマ製作したりプロレス呼んだりするんだよ。番組に出てないとあっと言う間に客が減っちゃうんだ」
リアルな恐怖である。
田舎だけど食うに困らないってのも豊かさなのか……。
みんなの人型戦闘機の積み込みが終わる。
「嫁ちゃん。今から第三の城、軍事基地に向かうっす」
「了解じゃ。ゾークどもは人間を学習してきておる。戦略が力押しから変化してきているかもしれん。気をつけよ」
ゲームだと最後まで力押しだったんだよな。
でも俺の存在でゾークの方も変化が起こってる……のかも?




